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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻133号)』(転載)

二木立

発行日2015年08月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

インタビュー「地域医療構想の行方-病院病床の大幅削減は生じない」を『国際医薬品情報』2015年7月27日号に掲載しました(24-29頁)。本「ニューズレター」134号(2015年9月1日配信)に転載予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読み下さい。

新著『地域包括ケアシステムと地域医療構想-安倍政権の医療・社会保障改革II』(仮題。勁草書房)を年内に出版予定です。『安倍政権の医療・社会保障改革』(勁草書房,2014年4月)出版以降に発表した26論文を全6章に再構成し、訂正と【補注】を加えています。本「ニューズレター」134号で章立てを紹介する予定です。


1.論文:「骨太方針2015」の社会保障費抑制の数値目標をどう読むか?
(「深層を読む・真相を解く」(45)『日本医事新報』2015年7月18日号(4760号):17-18頁)

安倍内閣は6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(以下、「骨太方針2015」)を閣議決定しました。この日は「『日本再興戦略』改訂2015」と「規制改革実施計画」も閣議決定されましたが、「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」や「患者申出療養」が目玉とされた昨年と比べ新味に欠けます。そこで本稿では「骨太方針2015」の医療・社会保障改革方針に絞り、「骨太方針2014」と「骨太の方針2006」との異同を検討します。

9年ぶりに社会保障費抑制の数値目標

「骨太方針2015」でもっとも注目すべきことは、社会保障の「基本的な考え方」の最後で、以下のように、今後5年間の社会保障関係費(一般会計の国庫負担)の抑制の数値目標が明記されたことです。

「安倍内閣のこれまで3年間の経済再生や改革の成果と合わせ、社会保障関係費の実質的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(2.5兆円程度)となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む。この点も含め、2020年度に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税引上げとあわせ行う充実等に相当する水準におさめることを目指す」。なお、「目安」は6月22日発表の「素案」にはなく、最終決定で急遽挿入されました。

数値目標の明記とは対照的に、「骨太方針2015」では、「骨太方針2014」で用いられていた「社会保障の機能強化」という表現が削除されました。

政府の閣議決定で、今後5年間の社会保障費抑制の数値目標が明記されたのは、小泉内閣時代の「骨太の方針2006」に以下のように示されて以来、9年ぶりです:「過去5年間の[社会保障]改革(国の一般会計予算ベースで▲1.1兆円(国・地方合わせて▲1.6兆円に相当)の伸びの抑制)を踏まえ、今後5年間においても改革努力を継続する」。

これに基づき、社会保障関係費の自然増を毎年2200億円(1.1兆円の5分の1)抑制する「社会保障構造改革」が強行され、それにより「セーフティネット機能の低下や医療・介護の現場の疲弊などの問題が顕著にみられるようになった」のです(『平成24年版厚生労働白書』15頁)。

「骨太の方針2006」を上回る削減目標

「骨太の方針2006」と異なり、「骨太方針2015」は社会保障費の今後5年間の削減額は明示していません。しかし、塩崎厚生労働相は本年5月26日の参議院厚生労働委員会で、「過去3年間を見ますと、概算要求時点で社会保障関係費の自然増として政府全体で平成25年度は8400億円、平成26年度は9900億円、平成27年度は8300億円というふうに予想をして」いたと答弁しています。3年間の自然増合計は2.66兆円であり、これを5年分に換算すると4.43兆円になります。これから「骨太の方針2015」が許容している「高齢化による増加分」(5年分)2.5兆円を引くと、今後5年間の削減額は1.9兆円になります。これは「骨太の方針2006」で示された5年間の国庫負担削減額1.1兆円を7割も上回ります(表参照:表は略)。

なお、「骨太方針2015」では、今後の社会保障関係費増加として、「高齢化による増加分」に加え、「消費税引上げとあわせ行う充実等」(1.5兆円)も想定していますが、これらは「子ども子育て・家族支援等」に用いられることになっています。その結果、今後5年間の自然増削減額1.9兆円の大半は、医療・介護費の抑制で捻出されることになります。

安倍首相は、おそらく「骨太の方針2006」を念頭において、「社会保障費の削減額を機械的に決めるやり方ではなく、国民皆保険を維持するための制度改革に取り組み、経済再生に向けた取組と併せて、社会保障制度を持続可能なものとする努力を続けていく」と弁明しています(5月26日参院厚労委員会)。しかし、「骨太の方針2006」でも、社会保障費削減の「改革努力を継続する」とされていたにもかかわらず、現実には「機械的」に2200億円削減が目標とされました。今後、同じことが繰り返される危険は大きいと思います。

医療技術進歩による医療費増を否定

「骨太の方針2006」が社会保障費の増加要因について触れず、一律に抑制しようとしていたのと異なり、「骨太方針2015」では、それを「高齢化による増加分」とそれ以外に区別して、前者を許容しているため、一見ソフトに見えます。しかし、医療費増加の主因は人口高齢化ではなく医療技術の進歩であるという医療経済学の常識に基づくと、技術進歩による医療費増加を認めない「骨太方針2015」は、史上最も厳しい医療費抑制方針と言えます。

現実には、診療報酬改定で技術進歩による医療費増をある程度は許容せざるを得ないため、「高齢化による増加分」が抑制されることになるのです。この点は、6月10日の経済財政諮問会議に塩崎厚生労働相が提出した文書「社会保障に関する主な論点について」も、以下のように指摘していました:「今後5年間の社会保障関係費の伸びについて、『高齢化による伸び相当の範囲内』という水準ありきの基準を定める場合、これらの不可欠な伸びは一切考慮されず、その確保のために、高齢化による増加分を機械的に削減しなければならなくなる」(7頁)。しかし、この真っ当な指摘(反論?)は「骨太方針2015」では一顧だにされませんでした。

「医療・介護提供体制の適正化」による費用抑制

「骨太方針2015」では社会保障改革の各論のトップに「医療・介護提供体制の適正化」が掲げられており、この順番は「骨太方針2014」と同じです。そこに書かれている方針は、地域医療構想や医療費適正化計画、地域包括ケアシステムの構築等、すでに法的裏付けをもって実施されつつあるものが大半です。しかし、上述した厳しい社会保障関係費の抑制政策の中心が医療・介護費の抑制であることを考えると、来年の診療報酬のマイナス改定を皮切りに、医療機関と患者にとって厳しい政策が連続して打ち出される可能性が大きいと思います。

「骨太方針2015」では新たに「公的サービスの産業化」が提起され、「民間企業等が公的主体と協力して[公共サービスを]担うことにより、選択肢を多様化するとともに、サービスを効率化する」とされました。この考え方に基づく「社会保障に関連する多様な公的保険外サービスの産業化を促進する」施策は新味に欠けますが、今後、医療・社会保障の営利産業化が進む危険は大きいと思います。

私は、安倍内閣発足時から、「安倍内閣の医療政策の中心は、伝統的な(公的)医療費抑制政策の徹底であり、部分的に医療の(営利)産業化政策も含んでいる」と評価していました(『安倍政権の医療・社会保障改革』(勁草書房,2014)。「骨太方針2015」により、この2本柱の改革が加速すると思います。

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2. 論文:今後の訪問リハビリテーションと2015年介護報酬改定
(『地域リハビリテーション』2015年7月号(10巻7号):503-507号)

はじめに

本稿では、私の専門とする医療経済・政策学の視点から、今や「国策」とも言われるようになっている地域包括ケアシステムの下での訪問リハビリテーションの在り方について検討します。その際、2015年介護報酬改定における訪問リハビリテーションの評価の見直しに焦点を当てます。なお、地域包括ケアシステムについては、別に詳しく述べたのでお読み下さい(1,2)

1 訪問リハは地域包括ケアシステムの重要な構成要素だが…

私は、今後、各地域で、地域包括ケアシステムを構築し、「切れ目のない在宅サービスにより、居宅生活の限界点を高める」(2012年2月閣議決定「社会保障・税一体改革大綱」)ためには、訪問リハビリテーションは必須であると考えています。

ただし、地域包括ケアシステムについての法の規定や厚生労働省の概念図(ポンチ絵)には、訪問リハビリテーションは含まれていません。例えば、社会保障改革プログラム法(2013年)では、地域包括ケアシステムが法的に初めて定義され、それの5つの構成要素(医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援)も明示されましたが、それには訪問リハビリテーションはもちろん、リハビリテーション一般も含まれていません。

厚生労働省の「地域包括ケアシステムの姿」(概念図)はいろいろ変遷していますが、それの初期のもの(2011年)から「訪問看護」と「在宅療養支援診療所」が含まれており、最新版(2015年)には「在宅サービス」として、「訪問介護・訪問看護・通所介護」が示されていますが、訪問リハビリテーションは示されていません。

このことは、在宅サービスにおける訪問リハビリテーションの比重がまだ小さいことの現れとも言えます。例えば、2013年度の介護保険給付費をみると、訪問リハビリテーション費用は、居宅サービス費全体のわずか0.79%にすぎないのです(厚生労働省『平成25年度介護給付費実態調査結果の概要』7頁)。

政府(関連)文書での唯一の例外は、2013年の「地域包括ケア研究会報告書」(座長・田中滋氏)であり、地域包括ケアシステムの上述した5つの構成要素のうち「介護」を「介護・リハビリテーション」に拡張しました。

それに対して、2015年の介護報酬改定では、訪問リハビリテーションが地域包括ケアシステムの重要な構成要素として初めて位置づけられ、しかもその役割に大きな期待が寄せられています。

2 「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会報告書」

今後の介護保険のリハビリテーションを考える上での必読文献は、2015年3月に発表された「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会報告書」(座長・大森彌氏)です。この報告書は、2015年の介護報酬改定における訪問・通所リハビリテーションの評価の見直しのバックボーンになりましたが、それだけでなく、今後10年間の介護保険のリハビリテーションのあり方を規定するものと言えます。

この報告書は、冒頭(1頁)で、「リハビリテーションの理念を踏まえて、『心身機能』、『活動』、『参加』のそれぞれの要素にバランスよく働きかけることが重要だが、ほとんどの通所・訪問リハビリテーションでは、『身体機能』に対する機能回復訓練が継続して提供されている」と宣言しました。言うまでもなく、この「心身機能」、「活動」、「参加」は、ICF(国際生活機能分類)の用語です(3)。私は、元リハビリテーション科専門医で、現役の医師だった頃、恩師でありICFの第一人者でもある上田敏先生から、リハビリテーションの理念は「全人間的復権」であり、機能回復訓練偏重のリハビリテーションは誤りであると叩き込まれたため、この記述に「懐かしさ」を感じました。

なお、福祉関係者や一部のリハビリテーション関係者は、「ICFは社会モデルだ」、「旧『国際障害分類』は医学モデルだったが、ICFは社会モデルに転換した」と解説・主張していますが、それは誤りで、ICFは両モデルの統合です。「ICFはこれらの2つの対立するモデル[医学モデルと社会モデル]の統合に基づいている。生活機能のさまざまな観点の統合をはかる上で、『生物・心理・社会的アプローチ』を用いる」(3:18頁)。ICFの解説書は少なくありませんが、最良のものは上田敏先生の『ICFの理解と活用』です(4)

3 2015年介護報酬改定での訪問リハビリテーションの評価見直しの複眼的評価

2015年の介護報酬改定では、訪問リハビリテーションは介護保険制度が2000年に始まって以降、初めて本格的な評価の見直しが行われました。今回の介護報酬改定の事実上の責任者である迫井正深老健局老人保健課長は、「介護保険のリハビリテーションは"原点回帰"へ」と高い位置づけをしました(5)。なお、迫井正深氏は、『日経メディカル』2012年4月号の「特集 日本の医療は私が変える」の「次世代のリーダー10人」の1人に選ばれた、優れた知性と深い洞察力、および現場力を兼ね備えた技官です。

具体的には、今回の訪問リハビリテーションの評価の見直しでは、「活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの推進」、「リハビリテーションマネジメントの充実」が目指されました。この理念は、上述した「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会報告書」が提起した課題に沿った適切なものであり、今後もこの方向での改定が行われるのは確実です。

ただし、法手続き的に言えば、若干の問題があります。なぜなら、介護保険法第8条5では、訪問リハビリテーションは「心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるために行われるもの」と規定され、「(社会)参加」は含まれていないため、法改正をしないで、「参加に焦点を当てた(訪問)リハビリテーションを推進」することには、やや無理があるからです(註)。

訪問看護ステーションのリハビリテーションの単位引き下げとその背景

今回の介護報酬改定は、全体では公称2.27%(実質は4.48%という指摘もある)という大幅引き下げで、特に特別養護老人ホームの基本報酬は約6%も引き下げられました。それに対して、訪問リハビリテーション「基本サービス費」の引き下げは1.6%にとどまり、しかも3つの加算(短期集中リハビリテーション実施加算、リハビリテーションマネジメント加算、社会参加支援加算)をすべて算定できれば、引き下げ幅はさらに縮小します。これは、厚生労働省の訪問リハビリテーションへの期待の現れと言えます。

それと対照的なのが訪問看護ステーションからのリハビリテーションで、「基本サービス費」が5.2%の大幅引き下げとなった上に、訪問リハビリテーションでは請求可能な3つの加算は全く取れません。今まで、訪問看護ステーションからのリハビリテーションの報酬は、訪問リハビリテーションよりも高く「比較優位」がありましたが、今回の改定では逆に「比較劣位」に陥ったと言えます。

私はこの理由・メッセージは2つあると推察します。1つは、首都圏等で近年急増している、質よりも量(訪問回数)を重視し、軽症患者に事実上特化した機能回復訓練で「荒稼ぎ」をしていた一部の訪問看護ステーション(事実上の訪問リハビリテーション・ステーション。その多くは株式会社立)に対する対策です。ただし、株式会社立でもこのような訪問看護ステーションは少数と思います。

もう1つは、日本理学療法士協会等が理学療法士等の開業権獲得のシンボルとして長年求めている独立型「訪問リハビリテーション・ステーション」は今後も認めないとのメッセージです。私は、以前から、訪問リハビリテーション・ステーションの制度化には日本看護協会や日本医師会が強く反対しており、政治的に実現困難と思っていましたが、今回の改定により、厚生労働省が重視しているリハビリテーションマネジメントや多職種連携が困難な独立型の訪問リハビリテーション・ステーションの制度化は、理念的にも困難になったと判断しています。

「リハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)」についての3つの「深読み」

今回の訪問リハビリテーションの最大の目玉は「リハビリテーションマネジメント加算(II)」の新設です。これに対しては、訪問リハビリテーションの現場から、算定条件が厳しい割には点数が低いとの批判・疑問が根強く、私もすぐには普及しないと思います。しかし、厚生労働省がこれを新設した大局的狙いを見落とすべきではないとも考えています。私は、それらは以下の3つと「深読み」しています(ただし、現時点では「物証」はありません)。

第1は、医師やケアマネージャーを含むリハビリテーション会議や医師の利用者への「説明責任」を必須化することにより、訪問リハビリテーションにおける、医師を含んだチームアプローチを推進し、それを地域包括ケアシステムで立ち後れているチームアプローチと医師参加の突破口にすることです。私は2008年に行った講演で、リハビリテーション医療では、他の分野に先駆けて「先行的・実験的」改定が行われる傾向があると指摘しました(6)。今回の「リハビリテーションマネジメント加算(II)」の新設にもその側面があると思います。

なお、日本における地域包括ケアシステムの代表的研究者と実践家である松田晋哉氏(産業医科大学教授)と片山壽氏(前尾道市医師会長)は、2013年に、地域包括ケアを具体化するために、各地で行われている「多職種によるケースカンファレンス」を「介護保険や医介連携におけるケアカンファレンスと連動させる形で、診療報酬・介護報酬上の裏付けを持ってコミッショニングの場として発展させていくこと」を提案していました(7)。今回の「リハビリテーションマネジメント加算(II)」の新設は、それの具体化の第一歩かもしれません。

第2は、厚生労働省お得意の、「小さく産んで大きく育てる」です。「リハビリテーションマネジメント(II)」の算定には手間も時間もかかるため、最初は、先進的施設のみが算定できるようにして、質を担保する。その上で、算定要件の緩和(例:ITを活用した遠隔会議またはメール会議の容認)や単位引き上げで、普及を図る。私は、これが厚生労働省の計画と推察しています。

第3は、「リハビリテーションマネジメント(II)」の新設により、それを算定しやすい医療・介護サービスを一体的に提供する在宅サービス系の事業所を普及させることです。厚生労働省関係者で、このことを一番最初に提起したのは宮島俊彦元老健局長で、氏は、局長退任直後に、医療と介護の「連携」から「統合」へと「統合レベルを高める」ためには、「事業主体の統合」が必要になると強調しました(8)。私の経験では、厚生労働省の高官は、退官直後に、現役時代には封印していた「本音」を語る傾向があります。宮島氏は、「在宅系のサービス事業所が複合化していくこと」のみに言及しています。しかし、私は、今後は、入院・入所系サービスと在宅系サービスの両方を統合した「保健・医療・福祉複合体」が、「リハビリテーションマネジメント(II)」だけでなく、入院・入所・在宅が一体となった医療・福祉連携に積極的に取り組むようになると思います。

訪問リハビリテーションの「卒業」を誘導しているが強制はしていない

今回の訪問リハビリテーションの見直しで、もう1つ注目すべきことは、利用者の「活動と参加に焦点」を当てる視点から、訪問リハビリテーションの「卒業」を奨励するために、社会参加が維持できるサービス等への移行を促進する「社会参加支援加算」が新設したが、それを強制はしていないことです。

2006年の診療報酬改定では、リハビリテーション算定日数に上限が設定されたために、全国的に「リハビリ難民」が発生し、社会問題化しました。それに対して、迫井正深老人保健課長は「今回の見直しでは、そうしたことが起きないように、少なくとも今提供されているサービスができなくなることはしていません」と明言しています(9)。私はこの判断は大変見識があると思います。

御参考までに、私は、2006年のリハビリテーションの算定日数制限に対する「元リハビリテーション専門医としての認識と解決策」として、以下のように述べました。「私は、例えば月8日(16単位)までとの回数制限を設けた上で、医療保険でも、外来での維持期リハビリテーションを原則的に認めるのが合理的と思います。医学的には、高血圧や糖尿病等の慢性疾患患者が疾病の悪化予防のために医療機関を長期間受診するのと慢性期の脳血管疾患患者等が身体障害の悪化を予防するための外来リハビリテーションを続けるのは同等です。ただし、慢性期の患者に上記回数を超えて濃厚なリハビリテーションを行う場合には、医師の側に効果の(再)評価を義務づける必要があると思います」(10)

おわりに-訪問リハビリテーションへの私の2つの期待

最後に、訪問リハビリテーションへの私の2つの期待を述べます。1つは、適応と禁忌を明確にして、「根拠に基づく」訪問リハビリテーションを進めてほしい。もう1つは、医療と介護、入院・入所サービスと在宅サービスの橋渡し役を果たし、患者・利用者に切れ目のないサービスを提供してほしい、です。この2つは、私がリハビリテーション専門職・団体に常に求めていることです(7:154-155頁)。この2つを遵守さえすれば、訪問リハビリテーションの未来は明るいと言えます。

謝辞

本文の3は、匿名を条件にして、以下の23人の方々からいただいた貴重な情報と率直なご意見を参考にして、書きました。心から感謝します:医師6人(リハビリテーション科4人、他科2人)、理学療法士8人、作業療法士2人、看護師2人、医療ソーシャルワーカー1人、ケアマネージャー1人、事務職1人、行政官2人。

[本稿は、2015年5月30日の第6回訪問リハビリテーション協会学術大会in大阪で行った特別講演1「第3次安倍内閣の医療改革と『地域包括ケアシステム』-今後の訪問リハビリテーションを広い視野から考えるために」の「III.訪問リハビリテーションの今後の見通しと私の期待」に加筆したものです。]

註)介護保険法における「日常生活」とその解釈

介護保険法では「日常生活」という用語は100回以上用いられており、法の目的を規定した第一条では、以下のように用いられています。「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排泄、食事等の、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が【尊厳を保持し、】その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う」(以下略。【 】は2005年の第一次改正で追加。それ以外は1997年法成立時の規定のまま)。

一般的に「日常生活」は多義的な用語ですから、この「日常生活を営む」がICFの「活動」と「参加」の両方に該当すると解釈することも可能であるように見えます。

しかし、要介護状態を定義した第七条では、「入浴、排泄、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態」と書かれています。この「入浴、排泄、食事等の日常生活」は、リハビリテーション医学で広く用いられている「日常生活活動」(ADL)を指すと解釈するのが自然であり、これにICFが「生活・人生場面への関わり」と定義している「参加」も含むと解釈するのは無理があります。現実にも、第七条に基づく「介護保険認定調査票」の調査項目の大半は「活動」・ADL(起居動作、生活機能等)に関わるもので、「参加」に関わるものは含まれていません。

本文で述べたように、私は、介護保険でICFの理念に沿った「活動と参加に焦点を当てたリハビリテーション」を推進することが適切と考えています。それだけに、ICFが決まる前に成立した介護保険法の狭い(古い)規定をできるだけ早く改正すべきと考えます。

文献

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3. 池上直己教授退任記念祝賀会・発起人代表挨拶(2015年7月25日)

本日は池上直己さんの慶應義塾大学教授退任記念祝賀会にご参加いただき、ありがとうございます。発起人(高木安雄、松田晋哉、二木立)を代表して、5分、ご挨拶します。

私が、池上さんに初めてお会いしたのは、故市川洋先生と故西三郎先生のお二人が主催されていた「ヘルスエコノミクス研究会」の1986年12月例会だったと記憶しており、それ以来30年近いおつき合いになります。池上さんは1949年生まれ、私は1947年生まれで、共に「団塊の世代」に属し、しかも主な研究分野が日本の医療政策であるため、長年池上さんの研究には「親近感」を持ち、かつ大いに学ばせていただいています。

池上さんの研究業績、主な論文・著書のリストは別に配られていますが、池上さんの膨大な研究業績のうち、私が特に感銘を受けている点を3つ述べさせていただきます。

1冊目は、キャンベルさんとの共著『日本の医療-統制とバランス感覚』(中公新書,1996) です。この本は日本の医療制度・政策の特色と歴史を包括的にしかも深く分析した歴史に残る名著ですが、私は特に、「あとがき」の次の記述に感銘を受けました:「[日本の医療に]市場原理を単純に適用することはきわめて困難であり、したがって医療分野においては理論よりも実践的な経験則が、また上からの抜本改革よりも当事者による地道な改善の積み重ねのほうがそれぞれ効果的であるように思われる」(234頁)。まだ医療制度の「抜本改革」論が花盛りだった1990年代後半に、敢えて「部分改革」の必要性を提起した池上さんの先駆性と「勇気」に脱帽しました。遅まきながら、私も、「保健・医療・福祉複合体」の研究を通して数年後に同じ認識に達し、その後拙著・拙論で「部分改革」の必要性を強調するたびに、『日本の医療』を必ず引用させていただいています。

2冊目は、『ベーシック医療問題』(日経文庫)です。この本は1998年に初版が出版され、2011年に第4版が出版され、2014年に『医療・介護問題を読み解く』に改題され、現在まで20年近くも売れ続けている、医療問題の「ベストセラー」&「ロングセラー」です。世界的視野から日本の医療と医療政策について実に分かりやすく説明されるだけでなく、第4版と『医療・介護問題を読み解く』では池上さん自身の包括的な「改革私案」が示されているのが魅力です。また、『医療・介護問題を読み解く』の第1章「医療問題の構造」は、日本語で書かれたもっとも明快な「医療原論」と思います。私は、大学院の「医療・福祉経済論」講義のレポート課題図書リストにこの本を入れているのですが、毎年、この本がレポートの「一番人気」です。

3冊目ではなく、第3に感銘を受けていることは、池上さんが長年、日本医療についての英語論文・著書・編著を発表され続けていることです。これは池上さんの独壇場であり、それが外国の研究者の日本医療に対する理解を深めた功績は絶大なものがあると思います。私は最近、アメリカの高名な研究者が、日本で人口当たりのCTやMRI数が世界一なのは「医療機関に支払われる金額が他国より高く設定されているからだ」とトンデモ解説しているのを知りました(Cutler DM, et al: The (paper) work of medicine: Understandーing international medical costs. Journal of Economic Perspectives 25(2):3-25,2011.該当個所はp.17)。言うまでもなく事実は真逆で、日本のMRI料金はアメリカの五分の一以下です。

それだけに、池上さんには、教授退任後も国際的視野からの日本の医療政策の研究を今まで通り旺盛に続けられ、国内外に発信されることを期待しています。以上です。

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4. 最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文

(通算113回.2015年分その4:6論文)

○[多病院]システム(病院チェーン)は本当に解決策といえるのか?アメリカの病院チェーンの営業費
Burns LR, et al: Is the system really the solution? Operating costs in hospital systems. Medical Care Research and Review 72(3):247-272,2015.[量的研究]

多病院システム(multihospital systems。以下、病院チェーン)の形成は近年加速している。その経営者はそれには営業費(以下、費用)を削減するスケールメリットがあると強調するが、この主張は学術研究では支持されていない。病院チェーンは単独病院より費用を抑制するか?もしそうだとして、どんなタイプのチェーンか?大規模病院チェン、中央集権化したチェーン、基幹病院中心の病院チェーン(hub-and-spoke systems)に加盟することとその病院の費用の関係、およびこの関係が時代と共に変化しているか否かを検討した。全米の約4000の一般病院の1998~2010年のデータを用いて検討した結果、病院チェーンに加盟して費用が低下するとのエビデンスはまったく得られなかった。ただし、小規模病院チェーンの加盟病院の費用は大規模チェーンの加盟病院より低かった。病院チェーンの加盟病院の地理的配置が費用と関連するとのエビデンスもまったくなかったが、全国チェーン加盟病院の方が費用が高かった。最後にこの結果は、どの時期にも当てはまった(情報技術の変化や垂直統合の出現は費用には影響していなかった)。以上から、病院チェーン一般は費用抑制の解決策とは見なせないが、ある種のタイプ(小規模チェーン、集権化されたガバナンス等)は解決策と見なせるかもしれないと結論づけられる。

二木コメント-大規模院病院チェーンは費用を増加させるという、多くの先行研究で明らかにされている結論を再確認しています。大規模チェーンは保険者との医療サービス価格の交渉時に有利な立場にあるので、費用は高くても、利益(率)は大きくなる可能性がありますが、その点は検討されていません。

○極端なマークアップ:請求額対費用比がもっとも高いアメリカの50病院
Bai G, et al: Extreme markup: The fifty US hospitals with the highest charge-to-cost ratios. Health Affairs 34(6):922-928,2015.[量的研究]

メディケア費用報告を用いて、2012年に請求額対費用比がもっとも高かったアメリカの50病院を選び、調査した。これらの病院のマークアップ(メディケア支払いで許容されている入院費用を上回る請求額の比率)は約10倍であり、全米の平均3.4倍、同最頻値2.4倍よりはるかに高かった。これら50病院のうち49病院(98%)は営利病院で、46病院(92%)は営利病院チェーンに加盟しており、20病院(40%)はフロリダ州にあった。単独の病院チェーン(Community Health Systems)がこれら50病院のちょうど半数を所有していた。大半の公的・私的医療保険は病院の請求額をそのまま支払うわけではないが、無保険の患者は一般には全額を支払うように求められるし、加入している民間保険と契約していない病院を利用した患者や労災保険はしばしば請求額に近い額の支払いを求められる。患者は価格(請求額)の比較をすることが困難なため、市場の力では病院の請求額を抑制できない。

二木コメント-マークアップが特別に多い病院のほとんどすべてが営利病院であることは想定内ですが、全米の平均のマークアップ率が実際の費用の3.4倍というのは日本的感覚からは驚きです。ちなみに、渡米してアメリカの病院で臓器移植等を受ける日本の患者のほとんどは、このような高いマークアップの請求額をほぼ全額支払っています。

○全米の[4つの]病院ランキングの評価尺度にはほとんど共通点がなく、透明化ではなく混乱を生んでいる可能性がある
Austin JM, et al: National hospital ratings systems share few common scores and may generate confusion instead of clarity. Health Affairs 34(3):423-430,2015.[量的研究]

病院の質と安全性を評価する試みは隆盛を極めており、ますます多くの消費者(患者)向け病院ランキングが生まれている。しかし、これらのランキングが何を明らかにしているかについてはほとんど知られていない。病院ランキングの違いを理解するために、4つの全米ランキングを比較した。4つのランキングではそれぞれ「高パフォーマ-」と「低パフォーマー」が示されているが、それらが4つのランキングでどの程度一致しているかを調べ、次にどのような病院特性がパフォーマンスに対応しているかを調べた。その結果、4つのランキングすべてで「高パフォーマー」と評価された病院は1つもなかった。4つのランキングのいずれか1つで「高パフォーマー」と評価された844病院のうち、他のランキングでも「高パフォーマー」と評価された病院はわずか10%であった。4つのランキングに共通点がないことは、それぞれのランキングが独自の方法を用い、異なった評価の焦点を持ち、異なったパフォーマンス尺度を重視している事実により説明されると言えよう。

二木コメント-病院単位の総合ランキングが有害無益であることがよく分かります。

○[アメリカの]メディケアで義務的された[新型の]病院の質に応じた支払い(P4P)プログラムの初期の効果
Ryan AM, et al: The early effects of Medicare's mandatory hospital pay-for-performance program. Health Services Research 50(1):81-97,2015.[量的研究]

病院の価値に応じた購入(HVBP)プログラムの実施後初期(2011年7月~2012年3月)の臨床的質と患者による評価(patient experience.以下、患者評価)に対する影響を評価した。HVBPは従来のP4Pと異なり、病院に対する報酬だけでなくペナルティも含んでおり(ただし財政中立)、臨床的質だけでなく患者評価も含んでいる。メディケア「病院比較」プログラムから得られた、HVBP導入前5年間と導入後四半期の病院単位の臨床的質と患者評価のデータを用いた。DRG定額払い対象となっている急性期病院はHVBP導入を義務付けられたが、DRG定額払いが適応されていない"critical access hospitals"(僻地にある病院)とメリーランド州の病院は除外された。差の差法により、臨床プロセス指標12と患者評価指標8を、HVBP適用病院とマッチングをした非適用病院で比較した。あわせて、HVBP導入を義務づけられる病院がそれを見越して、それの導入前から質の改善を図ったかについても評価した。

差の差法による推計では、HVBP導入病院では、臨床プロセス指標、患者評価指標とも、HVBP導入初期に大きな改善はなく、逆に臨床プロセス指標は0.51ポイント、患者評価は0.30ポイント低下していた(いずれもp<0.10)。HVBP導入前にも臨床プロセス指標が多少改善していたが、患者評価指標の改善はなかった。以上から、HVBPによる財政的インセンティブ導入は、医療の質を伴わなかったと結論付けられる。

二木コメント-病院対象の新型のP4Pも、従来型のP4Pの多くと同じく、医療の質は改善しなかったという結果です。

○[アメリカにおける]手術アウトカムの質報告プログラムへの病院の参加とメディケア加入者の費用との関連
Osborne NH, et al: Association of hospital participation in a quality reporting program with surgical outcomes and expenditures for Medicare beneficiaries. JAMA 313(5):496-504,2015.[量的研究]

「アメリカ外科学会全米手術の質改善プログラム」(以下、本プログラム)は参加病院にリスク調整済みのアウトカムをフィードバックしているが、本プログラム参加病院が、非参加病院と比べて、アウトカムを改善し、費用を抑制しているか否かは知られていない。2003-2013年の全国メディケアデータから抽出した一般外科と血管外科の手術を受けた患者122万6479人を対象にして、擬似的実験法により、本プログラム参加病院(263)と非参加病院(526)の結果を、差の差法で比較した。アウトカム指標としては、術後30日以内死亡率、重篤な合併症、再手術、退院後30日以内の再入院を用いた。患者側の要因とアウトカムの経年的改善傾向を調整した後では、本プログラム参加後1、2,3年とも、参加病院群のアウトカム改善は非参加病院群と統計的に有意差がなかった。平均メディケア支払額も、参加3年後と参加前とで差はなかった。この結果は、病院へのデータのフィードバックのみで手術アウトカムを改善するのは難しいことを示している。

二木コメント-医療の質データの公開・病院への開示だけでは、医療の質は改善されないとの先行研究の結果を、手術アウトカムで再確認した研究です。JAMAの同一号には、大学病院を対象にしたコホート研究でも、本プログラム参加と合併症・死亡率低下には関連がなかったとする報告が掲載されています(Etzioni DA, et al: Association of hospital participation in a surgical outcomes monitoring program with inpatient complications and mortality. JAMA 313(5):505-511,2015)。

○[アメリカにおける]2003~2013年の病院閉鎖は地域の入院率にも死亡率にも測定可能な影響を与えなかった
Joynt KE, et al: Hospital closures had no measurable impact on local hospitalization rates of mortality rates, 2003-2011. Health Affairs 34(5):765-772,2015.[量的研究]

患者保護・医療費負担適正化法(ACA。略称「オバマケア」)による病院への支払いの変更は病院財政に圧力を与え、一部の病院は閉鎖に追い込まれるかもしれない。そのために病院閉鎖が診療と医療アウトカムにどのように影響するかを理解するかはきわめて重要である。そこで2003~2011年に全米で閉鎖した195病院を同定した。これら病院は、閉鎖されなかった病院と比べて、大病院の割合が低く(0.5%対6.9%)、都市部にある病院がの割合が高かった(70.5%対45.0%)。この期間に1つ以上の病院閉鎖のあった病院サービス圏184(HSAs)とそれが無かった病院サービス圏522(前者とマッチングして選択)間で、各年の年間死亡率に有意差はなかった。死亡率の変化についても差がなかった。入院後死亡率についても差はなかった。病院閉鎖のあった病院サービス圏では再入院率がやや低下していた。以上のように、病院閉鎖が病院のあった地域での患者のアウトカムを悪化させるとのエビデンスは得られなかった。

二木コメント-病院閉鎖は患者の「客観的」アウトカムにはほとんど影響しないという結果です。閉鎖された病院の多くが中小病院で、しかも都市部にある病院であることも影響していると思います。なお、患者・地域住民の「主観的」アウトカム(安心・不安等の変化)は調査されていません。私は、医療保険と同じく、病院についても、この要素は重要と思います。医療保険に加入していること自体、地域に病院があること自体が住民・患者の安心感・満足を増すからです。

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5. 私の好きな名言・警句の紹介(その126)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の役割>

<組織のマネジメントとリーダーシップのあり方>

<その他>

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