アメリカのピュージェット・サウンド・グループ・医療協同組合
主任研究員 石塚秀雄
掲載日2002年12月17日
住民の一割が対象
ピュージェット・サウンドとは、約130キロメートルの長さをもつ美しい湾の地域を指します。このグループは、アメリカ・太平洋岸のワシントン州のシアトルを中心にした医療協同組合グループです。非営利・協同の医療供給機関としてはとしては全米で7番目です。医療保険方式としては混合型前納支払方式(Mixed Model Prepayment)です。
その主要な医療保険形式であるHMO(HMO, Health Maintenance Organization)とは、企業が社員の保険をまとめて購入して、社員が一律の金額を負担する保険を適用する医療機関です【医師・病院が指定される】。個人的に保険を購入するよりは安い負担ですみます。しかし、グループは、選択治療組織(PPO, Preferred Provided Organization)制度【医師・病院を個人選択する】や随時医療サービス制度(POS, point-of-service health plans)【個人が保険会社と契約を結び医療サービスの内容を指定する】の適用も行っています。
1947年に医師たちと消費者によって非営利・医療機関として設立されました。1982年に患者の権利章典を作りました。1992年にHMOとしては初めて「報告カードReport cards」システムを採用して、全米医療評価委員会の「ヘルスプランデータ・情報基準」(HEDIS)を採用しました。しかし、1990年代後半の経営危機には、部門整理や職員の経営参加、事業戦略づくりへの参加を強めるなどして乗り切り、1997年以降安定的な経営を持続しています。ピュージェット・サウンド・グループには、現在約65万人の組合員(投票権をもつ組合員は42,000人)が主としてワシントン州の20郡(住民の10パーセントが加入)とアイダホ州におり、2001年度の職員数10,500人(前年比6.4パーセンテージ増)、うち2000人の医療スタッフ(うち医師1,050名)があり 病院2、診療所32、メディカルセンター3,事務所6などを有しています。2001年の事業高は160億ドル(前年比2.6パーセンテージ増)で、収益は2390万ドルでした。形式は医療生協型で、患者となる消費者が統制をしています。理事会は11名で構成されており、医療スタッフ、経営担当陣も理事に入っています。また医療スタッフ委員会(GHP)も正式機関となっています。全米病院評価委員会NCQAからは「優良」の評価を得ています。「患者のニーズに対応して、小さな規模の診療所から大きな病院もで、適切な資源配分で高品質で適切な価格の治療」を目指しています。三つの病院のうち、モンロー・メディカル・センターは3,500人の組合員、ウエスト・オリンピア・メディカルセンターは8,400人、ウエスト・シアトル・メディカルセンターは4,850人の組合員を対象にしています。また地域コミュニティ・ドクター(6,130人)との医療サービス契約なども実施しています。また独自の医療研究所Center for Health Studiesをもって慢性病、精神病、代替医療、女性医学などを中心に研究しています。またコミュニティにおける保健教育活動―在宅介護、ホスピス、家族保健活動、エイズ・HIV、高齢者保健医療プログラムなどを推進しています。
医療プランを立てる子会社「グループ・ヘルス・オプション」は1990年に設立されました。
地域での共同の伝統
グループ・ヘルス地域基金を作って、地域からの資金集めを行い、コミュニティ医療プログラムにより非営利・協同医療機関の支援を実施しています。これは計画評価委員会によって、事業の質と量について基準を設けて、住民参加の形式で評価を行うものです。手法として「共同方式」は全関係者がプログラムについて議論をして決めます。また「内容フィードバック方式」は実行されたプログラムについて初期の段階で、評価者の報告書を元にして改善点を出していくものです。これは従来のコミュニティ医療の評価方式だと迅速な対応ができないためです。
グループ・ヘルスが2005年を目標として掲げた社会的使命は次のようなものです。
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子供の健康→タバコをすわないようにさせる。栄養の確保、安全な環境づくり。
健康維持への情報提供。 - 予防と治療の改善→生活習慣病の低減化、とりわけ心臓病、ガン、糖尿病、喘息。
- 医療情報と治療へのアクセスの改善→貧困層、無保険者に対するサービス。
- 医療の文化的多様性への対応→医療スタッフの訓練、治療介護における文化的側面の重視。
組合員の権利・義務
組合員の医療や情報、参加などの権利義務を次のように定めています。
組合員の権利 ・ 尊厳ある取り扱いを受ける権利、プライバシーと秘密が保持される権利。
- サービス内容についての情報、患者の権利と責任についての情報、保険提供機関(会社)についての情報の取得の権利。
- 高質の治療とサービスを適宜受けられる権利。
- 治療とサービスに対する同意拒否の権利。これには費用や保険内容に関わらず、患者の状態に見合った治療オプションについての医学上の議論ができる権利も含む。
- グループ・ヘルスに所属するプライマリイケア・ドクターを選択する権利。
- 発言する権利。グループ・ヘルスはそれに対して迅速に回答すること。
- 自分に関わる研究プロジェクトへの参加権利。拒否した場合でも本人にたいする治療行為には影響しない。
- 本人が希望する場合の新治療行為を選択する権利。
組合員の義務
- 治療に対して病歴や現在の健康状態について正確な個人情報を出す義務とそれに対する承認。
- サービスプラン手続きに基づく支払いおよび非カバー分についての支払い。
- 自分のヘルスケア・プロバイダーとの決定参加。
- 医療スタッフとの確認。受診予約の確認。
■保険料と受けられるサービス
グループ・ヘルスには約15の保険プランのプロバイダーがあり、組合員である会社や個人はそこと契約をして受ける医療の範囲を決めます。カバーする項目の選択肢は個人向け家族向けそれぞれに多様であり、地域によっても保険料体系が異なりますが、個人向けの保険料支払い方式の簡単な例は次のようなものがあります。
年齢 | 月額保険料 (米ドル) |
---|---|
25歳以下 | 132.30 |
25-29 | 162.00 |
35-39 | 189.00 |
40-44 | 198.00 |
45-49 | 202.50 |
50-54 | 225.90 |
55-59 | 263.70 |
60-64 | 335.70 |
65歳以上またはメディケア対象外者 | 443.70 |
入院 | 無料 |
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精神状態診療 | 20パーセント支払い |
外来 | 10パーセント支払い |
在宅診療 | 無料 |
薬 | 処方箋に対して7ドル |
歯科診療 | 別途月額保険料支払い(たとえば37ドル)または別途診療時支払いなど |
眼科診療 | 診療時10ドル支払い |
救急車サービス | 20パーセント支払い |