イタリアの社会連帯協同組合
主任研究員 石塚秀雄
掲載日2003年01月14日
非営利協同セクターの発展
社会的連帯協同組合の動きはイタリア特有なものとして特に注目されるものです。この協同組合の特徴は基本的に労働者協同組合であるということ、財源の大半を行政から社会サービス費用として受け取っていること、しかし、運営においては協同組合として組合員中心であり、国や地方自治体からの口出しを抑えていること、ボランティアや寄付などを積極的に受け入れていることなどです。ボランティアなどの外部の支援を受け入れるというあり方は、従来の協同組合がメンバーシップ制ということで、組合員の利益を守るという、ある意味では狭い相互扶助を原則の一つにしてきたことの見直しをもたらすものです。すなわち、協同組合が広く人々の利益つまり公益あるいは共益を追求するという役割を担うとき、協同組合はその非営利的な性格と社会的連帯の性格が強調されなければならないということです。しかしそれは協同組合の性格を曖昧にするものだととらえるのではなくて、より豊かにすることだと考えるべきでしょう。
そのほかに社会連帯協同組合は、従来の公的サービスや単なる営利目的の民間サービスとはことなり、いくつかの利点があります。協同組合とすることにより、公的サービスよりも労働集約型で資本が小さくてすみ、経済効率性が高いものになります。民間とはことなり利潤第一主義でないために、働く者中心、弱者中心の運営が行えます。非営利的な性格を持つので公的セクターとの協力がとりやすく、税制の優遇が得られます。法律によれば協同組合は社会的弱者を全体の30%以上雇用すれば、税制優遇が受けられ、また社会保険料の免除が行われます。このようにして民間との競争力を側面から支えられます。
社会連帯協同組合の現状
2001年度において、イタリアには約5600の社会連帯同組合が主としてロンバルジア、エミリアロマーニャなどの北部にあり、またシチリアなどの南部にもそれなりの数がみられます。約16万人が働き、23,000人のボランティア、15,000人の障害者が参加しています。
イタリアの憲法では協同組合に社会的機能があることを強調しています。イタリアでは1968年に障害者雇用法を定めました。15%以上の比率で社会的弱者を雇用する義務が課せられましたが、実際には職業訓練などの基盤が不備だったために、民間会社では受け入れることのできないものになってしまいました。こうした中で70年代に社会連帯協同組合がでてきたのです。85年のマルコーラ法では破産企業を国からの基金で従業員がその所有権を買い取り、労働者協同組合に転換することにより雇用促進がはかられました。さらに、87年にはCFIという産業財政促進会社が協同組合連合会と労働組合の出資により設立され、労働者協同組合と社会連帯協同組合づくりが促進されました。1991年には社会連帯協同組合に関する法律ができました。さらに92年には各協同組合の利益の3%の出資を元にした協同組合推進発展基金がスタートしました。
91年にできた法律では、社会連帯協同組合を規定して従来型の協同組合と違って、組合員のニーズを満たすばかりでなくてその社会サービスを外部の人間にも提供できるようにしました。協同組合が単に内部的な組合員の相互扶助というある意味では狭い閉じられた集団であることから、社会のニーズに応える公益性あるいは共益性が強調されてきたのです。91年法では、社会的経済連帯協同組合とは「共同体の一般利益を人間的な質の向上と市民の社会的統合により追求する」と規定しています。社会的連帯協同組合は、93年度において公的福祉予算の13%の割当を受けています。
社会的連帯協同組合は法律により2種類の区分されています。一つは社会サービス、医療サービス、教育などの提供であり、もう一つは社会的弱者の仕事作り・訓練です。
社会サービス分野が64%、医療分野13%、教育分野が6%、仕事作り・訓練分野が17%という比率になっています。
社会サービス分野では障害者対象が30%、高齢者対象が23%、若者対象が20%などとなっています。生産・サービス業のすなわち労働者協同組合としての社会連帯協同組合の業種としては、公園管理20%、清掃13%、工芸品14%、加工業15%、製本印刷10%、ケータリング3%などとなっています。
地域的にはベネト州やエミリアロマーナ州などの北部に80%、ローマなど中央部に12%、ナポリなど南部に6%という分布になっています。南部では失業率も高く製造業の基盤も弱いので、社会的弱者が生産活動を行う社会的連帯協同組合はあまり見られません。
社会サービス協同組合の30%が身体障害者を対象にし、23%が高齢者、20%が若者をサービスの対象にしています。さらには精神障害者を対象にしたものなどがあります。仕事作りや訓練のための社会連帯協同組合の対象者は障害者や移民、麻薬中毒患者、元囚人などです。
特徴的なスタッフ構成
社会連帯協同組合にはスタッフとして日常働く組合員、有給協力組合員、社会的弱者の働く組合員、ボランタリイ組合員、利用者組合員、法人組合員、賛助組合員などの種類があります。さらには組合員でない利用者や働く社会的弱者などがいます。たとえば、利用者組合員には障害児の父母なども含まれます。有給協力組合員としては医療従事者や行政専門家などが代表的です。91年法では協同組合の労働者の30%は社会的弱者であることと規定しています。ボランタリイ労働者は、無給ですが、必要経費は受け取ります。彼らは組合員の50%を超えてはなりません。法人組合員や賛助組合員は資本出資だけをする者で、社会連帯協同組合の財政を支援します。また協同組合の主旨に賛成して組合員になるが、活動参加しない「不活動」組合員もたくさんいます。
このようにイタリアの社会連帯協同組合の経験は、同じような社会的事情を抱えた日本にも大いに参考になるものでしょう。