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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻130号)』(転載)

二木立

発行日2015年05月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


おしらせ

○本「ニューズレター」129号に添付した「大学院『入院』生のための論文の書き方・研究方法論等の私的推薦図書(2015年度版,ver.17)」 (PDFファイルPDF)の「付録:研究についての名言クイズ39問(2015年度版,ver.8)」の答えは以下の通りです:模倣、重要度/発見、ただのバカ/確信(または信念)、自己懐疑、変わる/教養、価値観/仮説、書き直さ/事実、政治スタッフ/continuation・続ける、惰性/論文、量、あきらめ、小さく、弁解、批判/日曜日、忙しい、無理/勉強、スマート/社会性、雑用/ひとりで/楽しむ、好き、恋心

講義「地域包括ケアシステムについての政策研究-2つの源流、法・行政的出自と概念拡大、そしてそれへの対応」を、日本福祉大学大学2015年度院連続講義「私の研究テーマと研究方法」で行います:5月18日(月)午後8時05分~9時35分、名古屋市・日本福祉大学名古屋キャンパス北館8階(JR・地下鉄鶴舞駅下車)、参加費無料。

聴講ご希望の方は、日本福祉大学大学院事務室にお申し込み下さい:電話052-242-3050、E-mail:gs-kougi@ml.n-fukushi.ac.jp


1. 論文:[厚生労働省「医療法人の事業展開等に関する検討会」]「取りまとめ」の隠れた狙いと今後の病院再編の見通し
(『文化連情報』2015年5月号(446号):21-22頁。『日本医事新報』2015年3月21日号掲載論文「『地域医療連携推進法人制度』案をどう読むか?」(本「ニューズレター」129号)を同誌に転載したときの「補論」)。

本文で書いたように、医療法人の事業展開等に関する検討会「取りまとめ」の最大の成果・狙いは、産業競争力会議等が目指していた、医療の営利産業化につながる巨大「非営利ホールディングカンパニー」が否定されたことです。しかし、私はそれに加えて、「取りまとめ」にはもう一つのいわば隠れた狙いがあると思います。それは、大規模病院グループ(その大半は、医療法人と社会福祉法人の両方を有する大規模保健・医療・福祉複合体)単独での「地域医療連携推進法人」設立を否定し、それらグループが「地域医療構想区域内」で突出した影響力を持つことを予防することです。

私がこう判断する根拠は、地域医療連携推進法人について、(1)「複数の医療法人その他の非営利法人を参加法人とすることを必須とする」とされたこと、および(2)「非営利新型法人のガバナンスの仕組み」の中に、「地域関係者の意見を、統一的な連携推進方針(仮称)の決定を含む法人運営に反映するため、地域関係者で構成する地域医療連携推進協議会(仮称)を非営利新型法人において開催し、非営利新型法人へ意見具申できる。非営利新型法人はその意見を尊重するものとする」とされたこと等です。中川俊男日本医師会副会長は、「取りまとめ」を議論した2月18日の第39回社会保障審議会医療部会で、「地方においては社会医療法人がM&Aを繰り返し地域医療を阻害している例がある」とストレートに発言し、地域医療連携推進法人に対して「病床過剰地域において病床の融通を認める特例を設けること」に対しては「直ちに賛成することはできない」と釘をさしました。

2008年8月の「社会保障制度改革国民会議報告書」で、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化」、「機能の分化と連携の推進」のための制度改正の一例として「(非営利)ホールディングカンパニーの枠組み」が提唱された当時、地方の有力複合体(多くは1医療法人と1社会福祉法人)経営者の中には、自グループだけでそれを形成でき、それによりグループ全体の意思決定・マネジメントが合理化できると期待されていた方がいましたが、その可能性は、少なくとも当面は否定されたと言えます。

ただし、医療過疎地域等に所在する地域(地域医療構想区域)密着型の有力複合体が、現在提携している医療機関(医療法人)と共に地域医療連携推進法人を設立する可能性はあります。その場合は、親法人が参加法人の経営に「強い関与」をするのではなく、「意見聴取・指導を行うという一定の関与」(加藤繁照氏の主張する「アライアンス」)が選択されると思います。

権丈善一氏のオリジナルな提案と今後の病院再編の見通し

なお、社会保障制度改革国民会議で、「非営利ホールディングカンパニーの枠組み」を最初に提起したのは権丈善一氏と増田寛也氏です(2008年4月19日の第9回会議)。権丈氏は、高度急性期病院の過当競争地域である京都府鶴舞市の例をあげて、「高度急性期医療」を担う「大学病院、国立病院、公的病院及び自治体病院」をグループ化するための「新型医療法人(例えば、非営利ホールディングカンパニー)の枠組み」を創設し、それに消費税を財源とする公費を投入することを提起しました(資料3-2:24-27)。増田氏は、より広く「医療法人制度(及び社会福祉法人制度)の経営統合を促進する制度」として「ホールディングカンパニー型の法人類型の創設」を提案しました(資料3-4:18)。

私は、権丈氏の提唱した、高度急性期医療の過当競争地域に焦点化した非営利ホールディングカンパニーは、地域での医療資源の効率的利用の有効な方法だと思います。しかし、「社会保障制度改革国民会議最終報告書」では、非営利ホールディングカンパニーの目的は、高度急性期医療の集約ではなく、「地域における医療・介護サービス[一般]のネットワーク化」に拡散されました。

私は、地域医療が崩壊の危機に瀕している過疎地域や、高度急性期医療の「過当競争」が生じて公的病院が共倒れの危険がある地域という、いわば両極端の地域を除いた大部分の地域では、まだ民間病院に経営余力があるため、地域医療連携推進法人はほとんど設立されないと判断しています。他面、今後、医療・介護総合確保法に基づく地域医療構想づくりの過程で、病床機能区分の明確化・棲み分けが10年単位で徐々に進み、それに対応して、病院の再編も進む可能性はかなりあります。しかし、その場合も、その主役は地域医療連携推進法人ではなく、大規模病院グループ主導の病院M&Aが優勢になると思います。

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2. 最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文

(通算111回.2015年分その2:5論文)

○地域居住の認知症高齢者の[急性期]入院予防の介入研究の体系的文献レビュー
Phelan EA, et al: A systematic review of intervention studies to prevent hospitalizasions of community-dwelling older adults with dementia. Medical Care 53(2):207-213,2015.[文献レビュー]

地域居住の認知症者の急性期入院に対して測定可能な効果を有する介入戦略があるか否かを決定するための体系的文献レビューを行った。PubMed等9つのデータベースを用いて、次の6つの条件すべてを満たす研究を検索した:(1)英語論文、(2)比較対照群を有する、(3)介入研究によるアウトカムデータを含んでいる、(4)アウトカムの1つとして入院についても報告している、(5)地域居住高齢者を含んでいる、(6)認知症者を対象としている。最終的には10論文を選択した(うちアメリカの研究が6)。大半の研究は、医療サービスの利用(入院)を二次的アウトカムとしていた。患者は様々な医療組織や地域組織からリクルートされていた。大半の研究は認知症の重度判定(軽度から重度)を行っていた。大半の研究は、認知症者自身と彼らの介護者の対面評価を行い、ケアプランを作成・実施していた。入院(率)を有意に減らした研究はなかった。2つの研究では入院(率)が減少していたが有意ではなく、入院日数が有意に減っていた研究は1つあった。ランダム化比較対照試験を用いた研究では入院(率)の減少は観察されなかった。

二木コメント-ていねいな文献レビューで、認知症研究者必読と思います。

○薬剤費抑制についての国際的経験:患者と[医療サービス]提供者に影響を与え、[医薬品]産業を規制する-体系的文献レビュー
Lee I-H, et al: International experience in controlling pharmaceutical expenditure: Influencing patients and providers and regulating industry - A systematic review. Journal of Health Services Research & Policy 20(1):52-59,2015.[文献レビュー]

本研究の目的は患者と医療サービス提供者(医師)の行動に影響を与え、医薬品産業を規制することにより、医薬品費を抑制するための国際的政策について文献レビューすることである。そのために、MedlineとEmbaseを用いて、1980~2012年に発表された文献を検索した。上記政策の影響を調査し、しかもアウトカム指標として医薬品の費用、価格、消費を含み、6か月以上経過観察しているもので、ランダム化比較対照試験または疑似実験分析法を用いていた文献を選んだ。最終的に255論文をレビューの対象とした。患者に関連した研究の大半は自己負担の変化を評価していた(52論文)。自己負担の導入・増加は、費用を患者にシフトすることにより、医薬品消費や公的費用を抑制していた。しかし、それは必須医薬品と非必衰薬品の両方の消費を抑制しており、適切な除外規定がないと社会的に弱い立場の人々の医薬品消費を特に抑制していた。医師に関連した研究の多くは、医師教育、償還抑制、医師へのインセンティブの効果を評価していた(それぞれ78、48、22論文)。これらの政策の効果研究の質は様々であった。29論文は医薬品産業の規制に関連していたが、それらの研究の質も様々であった。参照価格についての研究は、それが費用抑制をもたら可能性があることを示唆していた。ただし、この効果は企業が価格を抑制したり、医師が処方する医薬品の量を減らしたりするだけでなく、患者へのコスト・シフティングによっても達成されており、それは医薬品へのアクセスの平等に悪影響を与えていた。参照価格以外の価格・利潤規制についてのエビデンスはほとんどなかった。結論は以下の通りである:患者に影響する政策、特に自己負担の導入・増加は、便益よりも悪影響の方が大きい可能性がある。医薬品需要を抑制するためには、医師の処方に影響を与える方が適切であるが、それの効果は比較的限られており、時として費用がかかる。医薬品産業の規制は重要であるが、それの良質な評価研究はほとんどない。

二木コメント-様々な医薬品費抑制政策の効果と悪影響をていねいに検討しており、結論も妥当と思います。医薬品経済学の研究者必読論文です。

○入院[包括]払い方式の新医療技術の導入における役割:現状の国際比較研究
Sorenson C, et al: The role of hospital payments in the adoption of new medical technologies: An international survey of current practice. Health Economics, Policy and Law 10(2):133-159,2015.[国際比較研究]

本研究は、各国の包括払い方式(prospective payment systems)の新医療技術導入における役割を調査する。まず文献レビューを行い、次に15か国の入院支払い方式の専門家51人に調査票を送付し、14か国の34人から回答を得た(オーストラリア、オーストリア、カナダ、イングランド、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ノルウェイ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、アメリカ)。71%の国では、新技術を考慮して、患者分類方式または支払基準額(payment tariffs)を毎年更新していた。新技術のための短期の別枠または追加支払いが79%の国で、適切な支払いと新技術導入促進のために行われていた。治療的便益または費用のエビデンスを用いて、支払い基準額を決定・更新している国は43%にとどまっていた。エビデンス使用の主な障壁は臨床的エビデンスが不確かまたはないことであった。回答者の四分の三は、DRG方式が、状況によっては新技術の導入を促進したり、抑制すると考えていた。回答者が改善すべき点としてあげていたのは、エビデンス生成の戦略強化、新技術の価値と支払額とのリンク、国内的・国際的協調、既存の診療改善のための研修、短期的支払いのための柔軟なスケジュールであった。

二木コメント-14か国の入院包括払い方式についての詳細な比較研究です。日本が含まれていないないのが残念です。

○国際金融危機の財政的影響:OECD加盟国の医療費
Morgan D, et al: Financial impact of the GFC: Health care spending across the OECD. Health Economics, Policy and Law. 10(1):7-19,2015.[国際比較研究]

2008年の国際金融危機(the global financial crisis)発生以降、多くのOECD加盟国では医療費の伸びは大きく低下するか、医療費そのものが減少した。しかし、加盟国により医療費変化パターンは大きく異なっている。本研究では、各国の医療費推移を詳細に検討し、どの国、どの部門の医療費が一番影響を受けたのかを分析する。医療費財源の四分の三は公的であり、各国では財政赤字対策が大きな問題となっていたために、公的医療費に焦点を当てる。本研究では医療費推移と主な政策手段との関係も検討する。ほとんどすべてのOECD加盟国では2009年以降医療費が増加したが、伸び率低下は加盟国間でバラツキが大きく、ヨーロッパ以外の一部の国(韓国、チリ、日本、イスラエル)では伸び率低下は生じていなかった。医療の全部門が影響を受けたが、特に影響を受けたのは薬剤費と公衆衛生予防領域であった。

二木コメント-最新データを用いて、OECD加盟国の2008年の国際金融危機後の医療費変化を「広く浅く」分析しています。ただし、本文では各国の医療政策と医療費との関係はほとんど検討していません。なお、Health Economics, Policy and Law の10巻1号(2015年)は「国際金融危機、健康と医療」を特集し、合計8論文を掲載しています(Special issue: Global financial Crisis, health and health care)。

御参考までに、D・スタックラー、S・バス著『経済政策で人は死ぬか?公衆衛生学から見た不況対策』(草思社,2014.原著2013)は、アイスランドとギリシャは国際金融危機により特に深刻な財政・経済危機に直面したが、医療費抑制政策をとらなかったアイスランドでは国民の健康水準がむしろ向上したのと対照的に、厳しい医療費抑制政策を強行したギリシャでは国民の健康水準が悪化したことを実証しています(第4,5章)。同書は、これ以外にも、アメリカのニューディール政策、ソ連崩壊、アジア通貨危機、イギリスのNHS改革、オバマ政権の政策が国民の健康に与えた影響を実証的に検討し、不況下での経済政策と医療政策の違いが、国民の健康に重大な影響を与えることを明らかにしています。

○種々のタイプのQALY改善に対する一般市民の支払い意志(WTP)額の比較
Pennington M, et al: Comparing WTP values of different types of QALY gain elicited from the general public. Health Economics 24(3):280-293,2015.[量的研究]

医学的介入の費用対効果の意思決定のための適切な閾値については論争が続いており、特に「終末期」状況ではそうである。種々のタイプの健康改善に対する一般市民の価値判断についてのエビデンスは不足している。本研究「QALYについてのヨーロッパ人の価値観調査」はインターネット調査であり、ヨーロッパの9か国の17,657人を対象にして、いずれもQALYを1年延長する仮想的健康シナリオを示し、それらにいくら支払う意思があるか(WTP)を質問した。質問にはQOL向上と延命を含んでおり、切迫している早世(premature death)のシナリオも含んでいた。その結果、QOL改善を伴うQALY1年延長に対する平均WTPは比較的低く、11,000ドル(購買力平価)であった。近い将来については、延命の価値はQOL改善の価値を上回っていた(昏睡を避けるための平均WTPは19,000ドルであった)。切迫している早世を避けるための平均WTPはより高く29,000ドルであった。一般市民を対象にした健康改善の価値についての史上最大の本研究により、延命にはQOL改善よりも高い価値が置かれるという、先行研究で示されていたことが再確認された。

二木コメント-一般市民を対象にした史上最大の調査で、しかも分析は緻密です。ただし、9か国間の比較は行われていません。著者が本文の「結論」で述べているように、結果は多義的解釈が可能であり、私は、この種の研究が現実の政策に応用されることは、少なくとも当面は、ないと思います。

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3. 私の好きな名言・警句の紹介(その125)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の役割>

<組織のマネジメントとリーダーシップのあり方>

<その他>

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