『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻156号)』(転載)
二木立
発行日2017年07月01日
出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。
目次
- 1. 論文:トランプ政権は2国間交渉で日本医療に何を求めてくるか?-TPP論争も踏まえての検討と予測
(「二木教授の医療時評」(148)『文化連情報』2017年7月号(472号):18-25頁) - 2. 最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文
(通算136回.2017年分その5:6論文) - 3. 私の好きな名言・警句の紹介(その151)-最近知った名言・警句
お知らせ
- ○『日本医事新報』7月1日号に「『骨太方針2017』・『未来投資戦略2017』の医療改革方針に新味はあるか?」(「深層を読む・真相を解く」(65))を掲載します。本論文では、まず「骨太方針2017」全体での最大の新しさは消費税率を2019年10月から10%に引き上げる方針が消えていることだと指摘します。次に医療制度改革方針では「薬価制度の抜本改革」が掲げられているが、それは昨年末に決定された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」とほぼ同じであると述べます。最後に、遠隔診療が2018年度診療報酬改定の目玉になる可能性があるが、診療報酬における評価はごく限定的にとどまると予測します。
本論文は「ニューズレター」157号(8月1日配信)に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読み下さい。 - ○「ニューズレター」157号には『文化連情報』8月号掲載の「『地域包括ケア研究会2016年度報告書』をどう読むか?」(「二木教授の医療時評」(149))も転載します。
1. 論文:トランプ政権は2国間交渉で日本医療に何を求めてくるか?-TPP論争も踏まえての検討と予測
(「二木教授の医療時評」(148)『文化連情報』2017年7月号(472号):18-25頁)
はじめに
トランプ・アメリカ大統領は、就任直後の1月23日、TPP(環太平洋経済連携協定)から「永久に離脱する」大統領令に署名しました。大統領は再交渉などの可能性も明確に打ち消し、これによりトランプ政権下でTPPが発効しないことが確定しました。大統領は同日、日本との貿易不均衡にも改めて不満を表明し、スペンサー大統領報道官は「米国はTPPから離脱し、アジア太平洋との貿易協定は2国間交渉に軸足を移す」と明言しました。駐日大使に指名されたハガティ氏も、5月18日の上院公聴会で、日本の市場開放実現に強い意欲を示しました。私も、今後、トランプ大統領が内政の失地回復のため、選挙期間中から唱えていた「公正な貿易取引」実現のために、対日圧力を強める可能性が大きいと思います。そのため、日本の医療関係者の中には、今後、日本政府がトランプ政権の圧力に屈服し、国民皆保険制度が崩壊する等、かつてTPP論争の初期に繰り返された心配をする方が生まれています。
そこで本稿では、トランプ政権が今後の日米2国間交渉で日本医療に何を要求し、何が実現する可能性が強いかについて検討・予測します。まず、その手がかり・出発点として、2011年以降のTPP論争での私の分析と予測を紹介します。次に、本年3月末に発表された米国通商代表部(USTR)「2017年外国障壁報告書」の日本に関する部分の「医療機器と医薬品」の記述・要求を、過去の記述と比較しながら分析します。最後に、アメリカの要求は、安倍政権が医療・社会保障費抑制政策の中核に位置づけている医薬品費抑制の「基本方針」と根本的に矛盾・対立することを指摘し、最後は「高度な政治判断」が行われると予測します。
1 自著でのTPPの医療への影響の予測
日本では、2011年10月に菅直人首相(当時)が唐突にTPP交渉参加の検討を表明して以降、大論争が始まりました。私は、3冊の著書でTPPが日本医療に与える影響を分析・予測しました(1-3)。以下、トランプ政権の日本医療への要求とその実現可能性を検討する際の参考になると思う記述を紹介します。[ ]は今回補足したことです。
『TPPと医療の産業化』(2012年)
本書では、まず私がTPP参加に反対する理由を述べた上で、TPPに参加すると国民皆保険制度が崩壊する等の「地獄のシナリオ」には疑問を呈し、この問題を検討する際に「見落としてならないこと」として、次の2つを指摘しました(26-27頁)。①「アメリカは決して一枚岩ではなく、その要求も一貫しておらず、『場当たり的』である」。②「医療の市場化・営利化は決してアメリカ側だけの要求ではなく、日本の大企業も求めている」、「つまり『規制制度改革』=医療の市場化・営利化は単なるアメリカからの一方的圧力ではなく、日米合作」。
次に、日本がTPPに参加した場合のアメリカの日本医療への要求について、以下の3段階の予測(思考実験)を行いました(32-39頁)。第1段階:医療機器・医薬品価格への規制の撤廃・緩和、第2段階:医療特区に限定した市場原理導入、第3段階:ISD条項と市場原理の全面的導入[当初、第1段階は「…規制の撤廃」と書きましたが、その後、「…規制の撤廃・緩和」に変更しました。これは、上記「地獄のシナリオ」とも、TPPは医療とは無関係とする「楽観シナリオ」とも異なる「第3のシナリオ」と言えます]。その上で、「第1段階は実現する可能性が高いし、第2段階の実現可能性も長期的には否定できないが、第3段階の実現可能性はごく低いと判断」しました。さらに、第1段階が実現した場合には、新薬の価格上昇と後発薬の発売遅延が生じ、それにより患者負担の増加と医療保険財政の悪化が生じ、診療報酬本体の引き下げ圧力がさらに強まると予測しました。
併せて、私が「TPPに参加しても混合診療が全面解禁される[つまり第3段階が実現する]可能性は低いと判断している」3つの理由を述べました(46-55頁)。
『安倍政権の医療・社会保障改革』(2014年)
本書では、2年半のTPP論争で、私の上記3段階の予測が医療関係者の常識になったと自己評価し、第一段階が「今そこにある危機」であることを強調しました。その上で、PhRMA(米国研究製薬工業協会)が、「外国製薬企業にとっては、日本は現時点では世界で最良の市場」と認識を転換したことに注意を喚起しました。その理由は、小泉政権以降の一連の規制改革で、新薬承認プロセスの迅速化(欧米に比べての「ドラッグラグ」は消失)と価格政策の見直し(新薬創出加算等)が行われたためでした。
ただし、PhRMAはこれ満足せず、「2013年の優先的取組事項」で新薬創出加算[正式名称は「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」。以下、略称で表記]の恒久化と市場拡大再算定ルール廃止の2点を掲げました。米国通商代表部「2012年外国貿易障壁報告書」[訂正:同書で2013年報告書と書いたのは誤記]も、従来の営利組織による医療機関経営の解禁要求を取り下げ、PhRMAと同じ要求をしました。なお、2012年末の総選挙で政権に復帰した自由民主党も2013年参議院議員選挙「総合政策集」に新薬創出加算の恒久化を盛り込みました。
同書では、一部の医療団体の懸念・主張とは逆に、製薬企業は、内資・外資とも、混合診療全面解禁はもちろん、保険外併用療養費制度の大幅拡大も望んでいないこと、および財務省高官も「混合診療全面解禁には反対」していることを指摘しました(81-89頁)。
『地域包括ケアと地域医療連携』(2015年)
本書では、「TPPの発足は今後空中分解する可能性」があることを指摘すると同時に、「TPPが発足するとしても、当初予定より大幅に遅れ、しかも[2013年に発効した]米韓FTAに比べ、合意水準は低くなる可能性が大きい」と予測しました。その根拠として、アメリカ政府がTPP交渉の過程で、混合診療の全面解禁は求めないと明言し、日本の現行の医療・医薬品制度の枠内での自国企業の利益拡大に方針転換したことをあげました。PhRMAも2013年9月の日本医師会とのシンポジウムで「日本の医療制度にダメージを与える考えはない」と明言するとともに、薬価制度の見直しを求める可能性も明確に否定し、日本の大手製薬企業と歩調を合わせて、新薬創出加算制度の恒久化と市場拡大再算定ルールの廃止を「優先的取組事項」としていることを指摘しました。
しかしこれは財務省・厚生労働省が進めようとしている薬価引き下げ・薬剤費圧縮政策と矛盾するため、アメリカの思惑通りに実現するとは限らないとも指摘しました(117-118頁)。
2 アメリカの要求-「2017年外国貿易障壁報告書」を中心に
次に、3月31日に公表された米国通商代表部「2017年外国貿易障壁報告書」の日本に関する部分の「医療機器・医薬品」の項の記述と要求のポイントを、前年以前のものと比較しながら述べます。これは、同日トランプ大統領が署名した「貿易赤字削減を目指す大統領令」の具体化とも言えます。なお、以前はアメリカの日本市場開放要求は、毎年日米政府間が交換していた「年次改革要望書」にストレートに書かれていましたが、これは2009年に民主党鳩山政権が成立した時に廃止されました。
トランプ政権登場後、通商代表部のホームページのトップには「新しいアメリカ第一貿易政策」が大きく掲げられました。ただし、「医療機器・医薬品」の記述・要求は、オバマ政権時代のものとほぼ同じです。具体的には、まず日本市場がアメリカの医療機器・医療産業の重要な市場であることを指摘し、次に日本政府が最近数年間で医療機器・医薬品の審査・承認期間短縮等で「進歩した」ことを評価しています。ちなみに、「進歩した」(made progress)との肯定的ではあるが「上から目線」的表現は、2014年報告書から毎年書かれています。
その上で、「アメリカの利害関係者」(もちろん、医療機器・製薬メーカー等)の「深刻な懸念(serious concern)」をピンポイントで列挙しています。医薬品についての懸念は以下の3つです:「①2016年4月の市場拡大再算定制度(特例)の導入に係る透明性、②2015年及び2016年における特定の医薬品の緊急的な価格設定、および③2016年末の毎年の価格改定に向けた通常では考えられない短期間の利害関係者との協議期間」。最後に、「米国[政府]は、日本政府に対して、同政策に関連する全ての措置の動きについて透明性のあるプロセスを確保し、米国を含む全ての利害関係者に対して意見を表明するための意味のある機会を与えるよう求め」ています(外務省訳4頁。原文256頁。番号は二木)。なお、「利害関係者の懸念」という、アメリカ企業の利益擁護丸出しの表現は2015年報告書から用いられていますが、それに「深刻な」という形容詞が付いたのは今回が初めてです。
他面、「2016年報告書」に書かれていた、毎年の薬価改定(引き下げ)、薬価の外国平均価格調整(英米独仏4か国の平均価格と比較)、市場拡大再算定ルールへの「懸念」と新薬創出加算の恒久化要求はありません。ただし、先述したように、アメリカの要求は一貫しておらず、「場当たり的」であるため、単なる書き漏らしであり、2017年と2016年の報告書のいずれかに書かれていた要求全体をアメリカの要求と理解すべきと思います。ここで注意すべきことは、これらの要求はアメリカの一方的要求ではなく、日本の大手製薬団体(日本製薬工業協会等)も求めており、「日米合作」と言えることです。なお、2001~2017年の過去17年間の「外国貿易障壁報告書」の記述・要求の変化は最後の【補論】で詳しく紹介します。
トランプ大統領の薬価・薬剤費抑制公約は腰砕けになる?
トランプ大統領は、大統領就任前の各種インタビューで、アメリカの薬価・医薬品費用を抑制すると明言していました。これは2016年の大統領選挙でヒラリー候補が主張するなど、民主党の伝統的政策ですが、共和党はこれまで頑なに拒否していました。
私はトランプ大統領のこの公約に注目する一方、もしこれが実現した場合、アメリカの製薬企業は国内薬価の引き下げによる利益減をカバーするべく海外市場での利益拡大を求めるため、日本では、新薬の価格引き上げや既存薬の価格引き下げ抑制を強力に求めるとも懸念していました。これにはたばこ規制に先例があります。
トランプ大統領も、「国内で開発された医薬品を不公正な価格で海外で販売できる米国の仕組みに他国がただ乗りしている」と批判し、「我々は世界的なただ乗りをやめさせる」と発言しました。ただし、トランプ大統領は、他の政策と同じく、薬価・医療制度改革についても発言のブレが大きく、「予測不可能」とも言われています(4-7)。
私は、トランプ大統領の支持基盤が急速に弱体化していることを考慮すると、議会共和党の反対を押し切って、医薬品・薬剤費の抑制政策を強行することは不可能と判断しています。そのために、アメリカが日本に、現行薬価制度の大幅見直し、ましてや混合診療の大幅拡大~全面解禁を求めないことは確実と言えます。
3 アメリカの要求は安倍政権の医薬品費抑制方針と対立
以上から、トランプ政権の当面の要求は、大枠ではオバマ政権時代と同じで、日本の現行制度の根幹に関わるものではないと言えます。
ただし、それらの一見慎ましい要求も、安倍政権が医療・社会保障費抑制政策の根幹にしている医薬品費抑制方針と正面から対立します。それは、昨年12月20日に菅義偉官房長官主導で取りまとめられた「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(4大臣合意)です。そのターゲットは「革新的かつ非常に高額な医薬品」であり、以下の方策が盛り込まれています。①新薬は「年4回薬価を見直す」。②「全品を対象に、毎年薬価調査を行い、その結果に基づき薬価改定を行う」。③「新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度をゼロべースで抜本的に見直す」。④新薬の「費用対効果評価を本格的に導入する」。⑤「外国価格調整の方法の改善」(番号は二木)。なお、③は上述した2013年の参議院議員選挙での自民党の公約(「総合政策集」)の事実上の撤回と言えます。
この「基本方針」を受けて、1月25日の中医協総会では、薬価の「外国平均価格調整」の際に、米国価格を外すことで診療側・支払い側の意見が概ね一致しました。さらに、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会では、「新薬創出加算は廃止」することを前提にした議論が進んでおり、5月末にまとめられた「建議」に盛り込まれました。なお、財政制度等審議会は4年前の「平成26年度予算の編成等に関する建議」(2013年11月)で、新薬創出加算について「有用性の評価とは関係なく、単に下落率が平均より小さかっただけの薬価を維持するのが適当かという問題がある」として、「大幅に規模を縮小すべき」と提案し、私もそれを評価・肯定しました((2):66頁)。
最後は「高度な政治判断」で妥協が図られる?
私は「基本方針」に盛り込まれた薬価制度改革は妥当だと思います。しかし、これらは④を除き、2016年または2017年の「外国貿易障壁報告書」で「深刻な懸念」が示されたもので、アメリカ政府が反発するのは確実です。④は両報告書には書かれていませんが、PhRMAは以前から懸念を表明しています。
「日本経済新聞」は4月21日朝刊の記事「米、薬価制度見直し要求 高額な新薬値下げ『待った』」で、米国のロス商務長官が、4月18日の日米経済対話の翌日に、塩崎恭久厚生労働大臣と水面下で会い上記意向を伝えたこと、およびロス氏周辺は、自動車などより製薬の方が米国にメリットが大きいと考えていると報じています。
安倍政権が上記「基本方針」とは真逆で、医薬品費の増大または医薬品費の抑制幅の圧縮をもたらし、結果的に2018年度以降の社会保障関係費抑制の数値目標達成を不可能にするアメリカの要求を「丸飲み」することは考えられません。
しかし、私は、以下の3つの理由から、安倍政権がアメリカの要求を部分的に受け入れる危険があると懸念しています。①日本政府は、医療分野を含めて、過去に何度もアメリカからの「外圧」に屈してきた。②安倍政権が昨年12月に、臨時国会でTPP協定の批准承認を強行したので、日米交渉はそれをスタートラインにして進められ、日本が更なる譲歩を求められる。③安倍政権は日米軍事同盟を強化し、対中国包囲網を形成するとの政治判断を経済判断よりも優先する可能性が大きい。
①に関しては、例えば、1989年に急浮上した医薬分業推進政策(分業率を3年以内に30%に引き上げる)の「震源地」はアメリカでした(8)。その4年前の1985年には診療報酬改定直後に、CAPD(腹膜透析)指導管理料の大幅引き上げが急遽決定されましたが、これは米トラベノール社の「CAPDが日本で普及しないのは、点数が低いからである。これは非関税障壁だ」という要求で、「[貿易]摩擦解消という高度な政治判断も加わった」決定と言われました(9,10)。
②に関しては、TPPの合意文書には、協定条文だけでなく、附属書、2国間で合意した「サイドレター」(書簡)の3種類がありますが、政府は、アメリカがTPPからの離脱表明をした後も、本来法的拘束力のないサイドレターについても「廃止することはない」、「我が国が自主的にタイミングを考え、実施していくことになる」と明言しています(2017年12月8日衆議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会での岸田文夫外務大臣の発言)。そして、「医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続きの公正な実施についての附属書の適用に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の書簡」(サイドレター)の最後には、「日本国及び合衆国は、付属書二十六-A第五条(協議)に規定する協議制度の枠組みの下で、附属書に関するあらゆる事項(関連する将来の保健医療制度を含む。)について協議する用意があることを確認する」と明記されています。
③に関して、猿田左世氏(「新外交イニチアチブ」事務局長、弁護士)は、「動揺する日米関係のなか、トランプ氏を既存の日米安保体制に引き戻そうと懸命な日本政府が、経済・貿易交渉でアメリカから突きつけられた条件にNOと言えるかどうか大いに不安である」と述べており、私も同感です(11:113頁)。
ただし、安倍政権がアメリカ側の要求をどの程度受け入れるかは、「高度な政治判断」に属するので、現時点では予測できないし、すべきでもないと思います。
【補論】2001~2017年の「外国貿易障壁報告書」中の医療市場開放要求の変遷
「外国貿易障壁報告書」の記述は、拙著(1,2)でも断片的に検討しましたが、今回2001~2017年の17年間の「報告書」の日本に関する部分の医療市場開放要求の変遷をまとめて検討しました。以下、「医療機器・医薬品」、「医療サービス」、「保険」、「医療IT」の順に紹介し、適宜私の解釈を加えます。本文でも述べたように、「報告書」の記述・要求は必ずしも一貫していませんでした。
医療機器・医薬品(Medical Devices and Pharmaceuticals)
2003年には、日本の医療制度の包括的な改革・構造改革を求める記述が初めて登場し、2007年まで、同種の記述・要求(医療制度の非効率を直す[fix]等)が書かれていました。驚いたことに、2005年には、薬価を決める際に、「企業の希望価格を考慮する」ようにとのきわめて虫の良い「示唆」すら書かれていました(305頁)。これらは、小泉政権が2001年から始めた医療制度の構造改革を後追いした、あるいはそれに便乗した要求と思います。
ただし、このような「上から目線」の要求は2008年以降は消えました。逆に、2010年には新薬創出加算を歓迎する記述が登場し、その後毎年繰り返されています。2012年からはほぼ毎年、それの恒久化の要求が加わっています(ただし、2017年はなし)。2014年からは毎年、日本政府の、新薬審査期間の短縮等での「進歩」を評価する「上から目線」の記述も加わっています。
2015~2017年には3年連続で「利害関係者の懸念」(という名の要求)がストレートに書かれています。2016年には新たに、毎年の薬価改定、外国平均価格調整、市場拡大再算定への懸念が書かれました。ただし、2017年にはなぜか、新薬創出加算の恒久化要求や毎年の薬価改定、外国平均価格調整への懸念は書かれていません。なお、各年とも、医薬品への費用対効果導入への「懸念」は書かれていません。
医療サービス(Medical Services)
この項に、営利組織による医療機関経営の解禁要求が初めて登場したのは2004年で、それ以降2011年まで毎年書かれていました。2008~2010年はそれを(まず)経済特区で認めることを要求していました。2004~2007年には特定のサービスの外注化も求めていました。しかし、これらの要求は2012年以降は消失し、「医療サービス」という項目自体がなくなりました。
小泉政権は2001年の「骨太方針」に、株式会社による医療機関経営の解禁(「株式会社方式による経営などを含めた[医療機関]経営に関する規制の見直しを検討する」20頁)を初めて盛り込みました。その3年後に「外国貿易障壁白書」に同じ方針が初めて登場したことを考えると、これは日本側(通産省等)がアメリカにコッソリ依頼した「ワシントン拡声器効果」(猿田佐世氏)なのかもしれません((11:101頁)。
保険(Insurances)
この項の記述・要求は民間保険についてのものですが、2001~2008年までは、冒頭のパラグラフ(のみ)で、公的医療保険制度(national public health insurance system)についても、一言触れていました。その記述で特徴的なことは、アメリカが民間保険と公的保険をまったく同列に置いていたことです。ただし、この記述は2009年以降消えました。
この項でも他の項でも、混合診療解禁をストレートに求める記述はありませんでした。私は『安倍政権の医療・社会保障改革』で、「外国貿易障壁報告書」が「かつては日本に混合診療の解禁や株式会社による医療機関経営の解禁を求めていました」と書きましたが(2:81頁)、これの前半は誤りです。ただし、論理的には、[営利組織による医療機関経営の解禁+公私保険の同列視≒混合診療の解禁]とも解釈できます。
医療IT(health IT)
情報技術(IT)の項の小項目として、2009年以降、毎年取り上げられています。これは、医療ITを重視するオバマ政権が2009年に誕生したためかもしれません。ただし、具体的要求はなく、2017年報告書の記述はわずか4行に過ぎません。
[本稿の本文は、『日本医事新報』2017年6月3日号掲載の「トランプ政権は日米2国間交渉で日本医療に何を求めてくるか?」((「深層を読む・真相を解く」(64)に大幅に加筆したものです。補論は今回新たに書きました。]
文献
- (1)二木立『TPPと医療の産業化』勁草書房,2012,第1章「TPPと混合診療」。
- (2)二木立『安倍政権の医療・社会保障改革』勁草書房,2014,第2章「TPPと混合診療問題」。
- (3)二木立『地域包括ケアと地域医療連携』勁草書房,2015,第3章「2000年以降の医療・社会保障改革とその加速」。
- (4)無署名「トランプ政権下の深刻な『薬価問題』-「私は下げる」と明言したが実効性は」『医薬経済』2017年1月1日号:60-61頁。
- (5)無署名「トランプ大統領の薬価入札論、本気か気まぐれか」『医薬経済』2017年2月1日号:58-59頁。
- (6)無署名「『トランプ哲学』と日本の薬価-外国平均薬価でも"ツケ払い"要求」『医薬経済』2017年2月15日号:8-9頁。
- (7)無署名「大統領の薬価批判は"大山鳴動"か」『医薬経済』2017年3月1日号:60-61頁。
- (8)二木立『複眼でみる90年代の医療』勁草書房,1991,29-30頁。
- (9)無署名「内科再診料・CAPDの取扱い決る」『社会保険旬報』1985年4月1日号「ニュース」36-37頁。
- (10)二木立『医療経済学』医学書院1985,133頁。
- (11)猿田左世『自発的対米従属-知られざる「ワシントン拡声器」』角川新書,2017。
2.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文
(通算136回.2017年分その5:6論文)
※「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。
○[病院とプライマリケアの]垂直統合は[ポルトガルの病院の退院後30日以内の予定外の]再入院を減らせるか?差の差法
Lopes S, et al: Can vertical integration reduce hospital readmissions? A difference-in-difference approach. Medical Care 55(5):506-513,2017.[量的研究]
病院とプライマリケアの垂直統合は入院医療と退院後医療とのコミュニケーションとコーディネーションを改善すると期待されている。それは世界中の医療制度で用いられているが、再入院に対する影響についてのエビデンスは少なく、しかも矛盾している。差の作法を用いて、ポルトガルの6つの急性期病院がプライマリケアと垂直統合(合併)を行う前後の2004-2014年の再入院を比較した。対照群として統合しなかった同種の6病院を用いた。アウトカムは退院後30日以内の予定外の再入院とした。入院時レベルのロジスティック回帰分析を行い、患者のリスクファクターは医療費請求データを用いては調整した。
病院全体では、垂直統合した病院の再入院率は、統合しなかった病院に比べ、有意に減少した(統合病院で4.9%→4.5%、対象病院で5.2%→5.6%。両群のオッズ比=0.900。信頼区間0.812-0.997、p=0.045)。統合した病院ごとに分析したところ、2病院では垂直統合の影響はなかった。効果のあった4病院でも効果のあったのは、一部の疾患に限られていた。合併症のある糖尿病では再入院は減少していたが(オッズ比=0.689。信頼区間0.525-0.904,p=0.007)、うっ血性心不全では変わらなかった。
二木コメント-著者が述べているように、垂直統合の効果・アウトカムの実証研究は少なく、急性期病院とプライマリケアとの統合の再入院抑制効果は、合併症のある糖尿等、一部の疾患に限られているという結果は貴重と思います。
○[アメリカでの]医師グループの組織的統合は患者の視点からは医療の統合を保証しない可能性がある
Kerrisey MJ, et al: Medical group structural integration may not ensure that care is integrated, from the patient's perspective. Health Affairs 36(5):885-892,2017.[量的研究]
医師グループの組織的統合が増加しているが、この変化が医療の統合をもたらしているかは明らかでない。そこで144医師グループの組織的統合の特性とそれらグループの患者の統合的医療についての判断との関連を検討した。患者の判断(perceptions)のデータ(3067人)は複数の慢性疾患を有するメディケア加入者の全国調査(患者の判断を6側面から調査)から得た。医師グループの構造的特性は「医師組織全国調査」から得た。それには各組織の規模、診療科(プライマリケアだけか多診療科か)、病院所有の有無、技術装備およびケアマネジメント指標のデータを含んでいる。総数では、患者の肯定的判断は、検査結果の説明で一番高く(73.4%)、医療者の服薬指導と在宅のケアマネジメントで最も低かった(13.4%)。医師グループの特性と患者の統合された医療についての判断との間に一貫した関連はなかった。しかし、プライマリケア医グループの患者に比べると、多診療科グループの患者は同グループのスタッフが患者の病歴を知っていることに対する評価が高かった(オッズ比1.73)。医師グループの組織的統合は、患者診療を改善する可能性があるが、それだけでは患者が医療が統合されていると判断するような医療を提供する上で十分とは言えない。
二木コメント-問いの設定自体は興味深いのですが、用いている指標は表層的で、結果は陳腐と思います。
○[アメリカの]病院統合は費用を減らすか?
Schmitt D: Do hospital mergers reduce costs? Jouranl of Health Economics 52: 74-94,2017.[量的研究]
病院統合の支持者は合併により有意な費用節減が生じると主張しているが、この主張を体系的に支持するエビデンスはほとんどない。2000~2010年に生じた病院統合の大規模標本を用い、差の差法により、買収された病院のコスト趨勢を買収されなかった病院のコスト趨勢と比較した結果、買収された病院での統計的に有意な費用削減が認められた。平均すると、買収された病院の費用は合併後4~7%節減された。この知見は頑健であり、合併後のサービス・患者ミックスの変化だけでは説明できなかった。さらに、(a)買収した病院・システムの費用は買収後節減されたか、および(b)費用節減が買収者の規模や合併した病院の地域的重なりの有無に依存しているか否かを検討した。(a)については費用削減は買収された病院に限定されることが示唆された。
二木コメント-要旨は簡単ですが、本文は長大(21頁)で、病院のM&Aは費用節減をもたらさないとの先行研究とは逆の結果を得ています。ただし、本研究で明らかにされたのは買収された病院の費用削減であり、しかもそのメカニズムは明らかにされていません。
○[アメリカにおける病院と医師グループの]垂直統合はメディケア加入者の医療の量と費用にどのように影響するか?
Koch TG: How vertical integration affects the quantity and cost of care for Medicare beneficiaries. Journal of Health Economics 52:19-32,2017.[量的研究]
アメリカでは医療システムによる医師雇用が増加しつつあるが、この趨勢の意味はきちんと理解されておらず、論争が続いている。病院による医師グループの買収調査(2005~2010年)やメディケア・メディケイド・サービス・センターの調査等豊富なデータを用いて、病院システムによる医師グループの買収が外来患者数・費用に与える影響を検討した。その結果、財政的統合は買収された医師の経済的行動に大きな影響を与えるが(診療所受診患者数・医療費は減少し、病院外来患者数・医療費は増加等)病院、買収した病院レベルの影響は必ずしも一貫していなかった。
二木コメント-論文要旨はごく簡単ですが、本文はなかなか緻密です。著者によると、本研究は買収後、買収された医師グループ所属医師の一部が診療を中止することを初めて示したそうです。
○ヨーロッパの病院の費用・質関係:体系的文献レビュー
Sogaard R, et al: The cost-quality relationship in European hospitals: a systematic review. Journal of Health Services Research & Policy 22(2):126-133,2017.[文献レビュー]
本研究の目的はヨーロッパの病院の費用と質の関係を決定することである。Juranの費用・質曲線を、基本的な効率概念にリンクさせて、理論的枠組みとして用い、PubMed等4つのデータベースを用いた体系的な文献レビューにより、英語で書かれた1093の実証研究を同定した。それらからヨーロッパ外の研究(699)、病院外の医療施設の研究(10)、費用パラメーターのない研究(194)、質パラメーターのない研究(27)を除いた、22論文(28分析)について検討した。
その結果、費用と質との関係については、31%の論文が否定的、13%が肯定的、5%が二方向的、および51%が関連なしであった。診断、処置、質指標の種類、用いられた経済モデルの違いがエビデンスの不一致を説明できるか否かを検討したが、明快な説明は得られなかった。政策的には重要であるにもかかわらず、費用と質の間系についてのエビデンスは限られている。文献には、方法論がバラバラであること、用いた費用と質のパラメーターの明確な定義、経済モデル、および費用と質の関係についての仮説が欠けているという特徴がある。Juranは60年以上も前(1950年代)に「品質コスト」(失敗コスト、評価コスト、予防コスト)の概念を提唱し、質の限界費用は一定ではないことを示唆したが、経済モデルに非線形関係を組み込んだ研究はほとんど無かった。
二木コメント-病院医療の費用と質の関係についての最新の文献レビューですが、結果はヒサンです。
○ドイツにおける病院開設者間の補助金格差を説明する
Pilny A: Explaining differentials in subsidy levels among hospital ownership types in Germany. Health Economics 26(5):566-581,2017.[量的研究]
ドイツの病院は連邦州から資本費用に対する補助金を受ける。理論的には、補助金は投資費用の総額をカバーしなければならないが、現実には50-60%しかカバーされていない。バランスシートのデータによれば公立病院は営利病院に比べて高率の補助金を受けている。本研究では、この乖離の理由をファシリテーション比率(補助金の有形固定資産に対する割合)の差に分解することで検討する。研究上の問いは、開設者間の差が観測可能な病院の特性と連邦州の特性によって説明できるか否かである。回帰分析の結果、ファシリテーション比率の差は、病院の開設者種類(公立・非営利民間・営利)でではなく、病院の利益率の高低で説明できた。
3.私の好きな名言・警句の紹介(その151)-最近知った名言・警句
<研究と研究者の役割>
- イマニュエル・ウォーラーステイン(「世界システム論」を提唱したアメリカの社会学者)「しかし、逆説的なことに、われわれが現在について理性的な政策を作り出せる唯一の方法、そして世界を変化させる方法を見つけ出せる唯一の方法は、これまでも変化せず今なお変化しないものをしっかり捉えることなのである。(中略)さし迫った変化の確信に浸ることは快適だが、しかしそれはユートピア的であり、非科学的である。(中略)堅実な道は、長期的かつ大規模な社会的現実を意識しながら、その上に社会運動を構築することである」(岡久久一・他訳『長期波動』藤原書店,1992,49頁。吉見俊哉『大変動-「歴史の尺度」が示す未来』集英社新書,2017,125頁で引用)。
二木コメント-私は、2018年は一連の医療・福祉改革が同時に行われる「惑星直列」の年であり、大改革が必至との主張や、「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)の今後の社会は「①狩猟社会、②農耕社会、③工業社会、④情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会」=「Society 5.0」であるとの夢物語的認識に違和感を持っていたので、ウォーラーステインの地に足の着いた認識に大いに共感しました。 - 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)「『近代』の時間の流れについて、しばしば信じ込まれている錯覚があります。それは、現在に近づけば近づくほど『歴史の速度』が速くなり続けてきたというものです。(中略)/歴史の速度というものを持ち出すならば、実は、その速度は現在に近づけば近づくほど、むしろだんだん遅くなっているのです。(中略)/日本の場合、歴史のスピードは1970年代以降、現在に近づけば近づくほど遅くなっています。(中略)/この『歴史の減速』時代には、なかなか『減速』という変化に適応できずに無理にでも成長路線に突き進もうとする動きが生じ、社会全体の変化が不安定になります。歴史の方向性が定まらず、正反対に社会が揺れ動くのです」(『大変動-「歴史の尺度」が示す未来』集英社新書,2017,249,251-252頁)。二木コメント-私は医療の大改革はあり得ないと確信する一方、恥ずかしながら「歴史の速度」は早くなり続けていると素朴に思いこんでいたので、この指摘は「目から鱗」でした。
- 澤田昭夫(歴史学者。1928~2015年)「古代の弁論家は絶えず記録力を磨く練習を行いました。記憶力のよい人は在庫品の豊かな倉庫のようなもので、記憶力の弱い人よりはるかに優れた弁論家になるからです。(中略)/今日先進国の教育界では暗記を無視する傾向が強いようです。これはかつての『理解なしの丸暗記』に対する当然の反動かもしれませんが、『理解を伴った暗記』は教育においても学問研究においても大切です」(『論文の書き方』講談社学術文庫,1977,221-222頁。佐藤優氏は「知の技法 出世の作法(第484回)」(『週刊東洋経済』2017年5月20日号90-91頁)でこの記述を激賞し、「記憶力を強化する学習が、表現力の基礎をつくることになる」と強調)。二木コメント-私も、澤田氏や佐藤氏と同じく、日常的に「記憶力を磨く練習」を行っているので、大いに共感しました(例:英語雑誌やアメリカ・イギリス映画で覚えた、重要または興味深い単語・表現を「英単語帳」に書き、それを手帳にはさんで常に持ち歩いて、細切れ時間に何度も読み返し、英語のボキャブラリを増やす(『医療経済・政策学の視点と研究方法』勁草書房,2006,172-173頁))。ただし、佐藤氏の「記憶力を鍛えるためには、自分が好きな本のうちの1章を丸暗記して復唱できるようにすると効果的」との助言は、記憶力が特別に良いごく一部の人向きと思います。佐藤氏の助言を読んで、22年前にあきれた野口悠紀雄氏の以下の主張を思い出しました。
- 野口悠紀雄(経済学者。東京大学教授・当時)「教科書を丸暗記する 私は、学生時代を通じて、英語の勉強は少しも苦にならなかった。/方法は全く簡単で、教科書を最初から丸暗記したのである。/(中略)丸暗記するのは実に簡単だ。二十回も繰り返し読めば、自然に覚えてしまう。(中略)ポイント 教科書を二十回音読して、丸暗記せよ」(『「超」勉強法』講談社,1995,48-49頁)。
- 南博(社会心理学者・当時一橋大学教授。1914~2001年)「[記憶力を増すための20のルールの]ルール1 記憶できるのだという自信を持つこと」、「ルール2 記憶を増すには記憶しようと意図すること」、「ルール3 ある特定のことがらを記憶するために、できうるかぎり強い動機を働かせること」、「ルール4 記憶すべき単語や事実や人や物に、注意を集中して観察すること」、「ルール5 記憶することの意味を、はっきりと理解するように心がけること」(中略)、「ルール20 あなたの条件に合う記憶のルールを採用すること」(『記憶術-心理学が発見した20のルール」カッパブックス,1961)。二木コメント-私この本は発売当時大ベストセラーになり、私も中学2年時に読みました。その後、20のルールの大半は忘れていましたが、「ルール1 記憶できるのだという自信を持つこと」はその後56年間、シッカリ実践しています。ルール5は澤田氏の「理解を伴った暗記」に相当すると思います。ルール20はあらゆる知的生産の技術に共通すると感じました。
- 村上春樹(作家。小説の執筆と海外文学の翻訳に交互に取り組んできた)「[翻訳の仕事は]ついついやってしまう。ほとんど趣味の領域と言っていい」、「[執筆と翻訳を]バランス良くやることで、僕の精神の血行みたいなものが随分良くなっている気がします」、「ものを作る人間にとって怖いのは、固定されたシステムの中で妙に落ち着いてしまうこと。翻訳は外に開かれた窓のようなもの」(「中日新聞」2017年4月28日朝刊。4月27日に東京で開かれた、新著『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』の刊行イベントでの講演でこう述べた)。二木コメント-私も本「ニューズレター」用の英語論文の抄訳を書く際、時々、最後の引用文のように感じていたので、大いに共感しました。ただし、私は抄訳を「趣味の領域」と言えるほどの境地には、残念ながらまだ達していません。
<その他>
- 中井貴一(俳優。今春、6月に放送するTBSテレビのロケのため、ルネサンスの巨人・ダビンチとミケランジェロを訪ねる旅に出た)「[二人の天才は]"変人"ですね。枠にはまらず規律に縛られない人」、「今の日本、"変人"がいたほうがいい。平和でなければいけないとわかっているのに戦争が起こる危険がある。世の中は矛盾だらけ。一つの方向に流されないため、自由な発想が必要です」(「しんぶん赤旗」2017年5月13日、「休憩室」)。