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医療保障制度の問題点

フランスの事例を中心にヨーロッパ医療制度改革の問題点

主任研究員 石塚秀雄

掲載日2002年10月19日


1.ほぼ全国民をカバーする医療制度

ヨーロッパ各国においてもいわゆる医療社会保障制度の転換がすすんでいる。この場合、日本と同様に先進国として一般的に2つの要因があげられる。すなわち、高齢化社会の到来と財政危機である。高齢化は介護問題とも連動しており、女性の労働力参加の問題とも結びついた議論となっている。財政危機は、直接的には医療保障の財源問題であるが、マクロ経済的な議論とも結びついている。ヨーロッパ連合はその社会政策において、社会保障の統合化を進めているものの、これまで歴史的にいくつかの制度モデルが分立しており、各国において社会保障の組み立て方式が異なるので、これらを整合していくことは、まだ時間がかかる課題となっている。

ヨーロッパ各国の医療保障は公権力による社会保障方式および社会保険方式のいずれの方式をとるにしても、現状では、ほとんどの国民をカバーするものになっている。日本もほぼ100パーセントの国民をカバーしているが、アメリカについていえば、公的医療制度が存在しないために国民の45パーセント(1997年)しかカバーされていない。その一方で、表1に見られるように国民一人あたりの医療費支出を見ると、第一位はアメリカで4631ドルであり、日本の2012ドルの二倍以上である。医療制度でカバーされない支出は、結局私的な支出であり、個人的支出がそれを主としてカバーしているのである。したがって、国民所得対比からするとアメリカの方式は、きわめて本人費用負担の比率が高いものである。こうしたプライベート(private)な領域に過度に依拠する方式を、もし日本の医療制度に導入するならば、それは「医療改革」の基本的動機の一つであるところの患者の医療へのアクセスの自由権と矛盾するものであり、それどころか不平等を拡大するものであることは明らかである。

表1 国民1人あたりの医療費(2000年度、単位US$PPP)
日本 アメリカ ドイツ フランス スゥエーデン イタリア スペイン イギリス オランダ
USドル 2012 4631 2748 2349 1748 2032 1556 1763 2246

出所:OECD Health Data 2002.ただし、スウェーデンは1998年度の数字。

また、医療費の国内総生産(GDP)を見ると、例としてあげた先進国の中で日本は決して高いとはいえない。むしろ低い比率であるといえる。近年一貫してアメリカの医療費の比率は最高である。しかしながら、一方で、適正な医療を受けられる人口が少なくて、保険者主導型の医療システムで、低所得者層の医療へのアクセスが非常に制限され、また医療費用も高額であるという点では、医療の公平性や効率性が阻害されているといえよう。スウェーデンにしても、日本とほぼ同じような比率であるが、日本に比べて医療保障の充実が言われているのは、やはり費用をどのように集め、どのように分配するのかという医療制度のあり方、すなわち、需要と供給のシステムが違うためだといえる。しかし、この問題は簡単にシステムを真似するというわけにはいかない。というのは制度の基本的な原則や価値観、哲学の違いがあるからで、それは歴史的に構築されてきたものだからである。従ってヨーロッパでは一方で、医療制度を含む社会保障制度の収斂化が主張されながら、他方でヨーロッパ連合の共通社会政策を指向しつつ、各国の個別制度の改善という方向も強調されているのである。ただし、我々はこれら各国の事例から学ぶことはできると思う。

国内総生産対比で見ると、この十数年の基本的なベクトルは、各国とも比率が微増している。日本だけが1984年のGDP対比9.3パーセントをピークとして緩やかな下降を示しているのである。なぜ日本だけが、下降線を示しているのか。ここに公的医療政策の欠落を見るのは容易である。一方、イギリスなどについてはサッチャーの新自由主義で福祉国家がつぶされたという思いこみがともすればあるが、実際には医療費の支出は彼女の時代以降、全体としてみると微増しているのである。単純に言っても、日本における医療費は総体として決して大きいということはできないので、たとえば、日本の医療費の国内総生産対比をアメリカ、ドイツ並みに比率を増やしても良いということが言える。また費用の一人あたりの平均値というのも国民の家計における医療費支出の実態を詳しく示すものではないので、実際には所得層区分での医療支出の相違を見ていく必要があるだろう。とくに民間保険の比重を重視する政策を是認する方向ならば、単なる費用とサービスの等価だけでなくて、医療市場における個人のアクセス権をどのようにとらえるかとか、公正性の問題が議論されなければならない。

表2 医療費の国内総生産(GDP)対比(2000年)
日本 アメリカ ドイツ フランス スゥエーデン イタリア スペイン イギリス オランダ
百分比 7.5% 12.9% 10.3% 9.3% 7.9% 7.7% 7.0% 6.8% 8.7%

出所:OECD Health Data 2002

2.ヨーロッパの医療制度モデル

ヨーロッパの医療保障制度のモデルとしては次のものがあげられる。すなわち、第1に、普遍主義的モデルである。コルピの分類による福祉国家モデルで言えば、社会民主主義的福祉国家である(W.コルピ、1883)。これは全国民という概念に基づき、すべての国民を対象としてサービスを供給するものである。このモデルはさらに、公権力(国家)がと管理運営するイギリスやスウェーデンにおけるような公的医療制度と、非営利組織(保険団体)が管理運営するオランダ方式に区分できる。第2に、職能団体によって管理運営されるもので、歴史的には第1のモデルよりその発生は古く、ヨーロッパの同業組合の伝統をふまえたものである。これは保守的福祉国家である。社会保険方式を採用して、職能者としての公務員や特権的(熟練)労働者の相互扶助的団体を骨子して発展している。ドイツのビスマルクが創設した社会保険方式による各種共済金庫による運営、またフランスのように国家と共済組合による混合型の運営管理方式がその例である。第3には、民間セクターによる医療供給管理方式で、ヨーロッパモデルではないが、各国の医療制度改革において、大きな影響力を与えている自由主義的福祉国家としてのアメリカモデルがある。アメリカモデルは、ティトマスの定義によれば、残余型とも言われ、貧困者という概念を軸にしている。医療保障とは貧困者に対する最低限の社会扶助であり、一時的な措置であり、財源とのバランスで給付が行われるべきものであるとされる。国民は、国家に依存することなく、市場や自力で福利を自己実現すべきものであるとされる。公的社会保障制度は、年金部門で発達しているにすぎない。かつてクリントンが公的医療制度のプランを大統領選挙でだしたが、議論の途上で消えてしまった。しかし、アメリカで登場したマネージドケアモデル(HMO)に類似したモデルを民営化、効率化のためのモデルとして、ヨーロッパにおいて採用しているケースがでている。これはHMO(健康維持組織)と呼ばれる民間営利会社が医療提供者(医師など)を経営的にコントロールすなわちマネージして、HMO会社の患者プランに基づいて医療を営利追求(株主配当)に従属させるものである。またこのような制度を日本の一般の会社が採用する可能性は決して低いとは言えない。

先進各国においてなぜ医療制度がことなるかを説明する考え方として「新制度派的」解釈がある。これは諸制度の対する可変的な要素すなわち、国家、市場、家族、産業化、政策、労働組合などの諸要素の機能と関連性を分析するものである。最近フランスでは、レギュラシオン学派のリピエッツなどが非営利協同セクターの役割について目を向け始めたのも、こうした解釈が現状分析と展望提起に有効であるという傾向を示しているものと思われる。

ここでは日本の医療制度を考える上での参考に資すために、フランスの事例を取り上げて、その現状と問題点を論じたい。

3.フランスの医療保険制度のモデル

(1)公的医療制度:普遍主義原理と公私混合型

フランスの医療制度は、普遍主義原理にもとづく国民皆保険による公的医療と私的医療の混合型である。これは医療サービスの供給者側(医療実施者)の問題として、外来診療は主として民間セクターで,入院診療は公的セクターでほぼ分担をしているということと、また医療保険の運営主体としては、非営利の共済金庫が実施しており、また医療政策にも大きな統制権をもっているという点からも混合型といえる。日本の場合も一見公私混合型のように見えるが、大きな相違点は日本の医療保険の主体者の公権力への従属的な性格であろう。

フランスは人口約6000万人である。平均寿命は日本に次いで第2位となっている。医師の対1000人の人口比率は3.0人医師であり(1887年,OECD)、ヨーロッパでは平均的である(ドイツ3.4,スウェーデン2.8、日本1.8、アメリカ2.7)。医師数は次のようである。

表3 フランスの医師数の区分(1997年度、活動医師のみ)
フランスの医師数の区分 185,579人(女性67,989)
一般医 95,342人
専門医 90,237人
歯科医師 42,192人

出所:QUID2000. Editions Robert Laffortより作成。

フランスの保険医区分(1996年度)
総計 113,524人
第1セクター 83,159人
第2セクター (一部自由報酬) 27,971人
第3セクター 非保険医・公的保険償還なし

出所:QUID2000より作成。

一般医(generalistes)のうち75パーセントすなわち71500人が開業医で、25パーセントすなわち24000人が病院勤務医である。また専門医のうち病院勤務医が32パーセントの25,000人、68%の63000人が開業医である。結局、開業医は134500人であり、病院勤務医は48000人となる。また、公的医療保険医登録113524人を全体から引いた72055人は、他の民間保険機関かあるいは自由診療を行う医師ということになる。この自由診療ができる医師(Medecins Liberaux)という制度は1888年に設置されたが、当初年度の6000人から86年には3000人と減少している。これは政府のこの制度が公的医療制度にとって好ましくないという判断があって、認定数を押さえていることも一因といわれている。

保険医区分の「第1セクター」とは医療保険制度内で給与・診療報酬を受ける医師であり、第2セクターの医師とは報酬の一部を自由診療で受け取ることができる者である。第2セクターの医師数の増加は、自由診療部分の増加をきらう政府によって抑えられている。また公的病院に勤務する医師は、その公的業務を妨げない限り、労働時間の1/5を自由診療に使って良い。その場合、公的病院のベッドを一定の規則の範囲内で利用することができるようになっている。医師団体としてはフランス医師団体連合会(CSMF)、自由診療医師団体(SML)、フランス一般医師会(MG‐France)、フランス医師連盟(FMF)などがある。一般医および外来診療の役割はプライマリイケアであり、またゲートキーパーとしての役割を果たすものとされている。入院部門はセカンダリーケアとしての位置づけであり、公的管理統制を強化する部門とされている。このゲートキーパーとしての役割を、新たに一般医の中で参照医(medecin referant)という制度を設けて実施をしている。参照医は疾病金庫との「相互契約」文書に署名して参照医になる。患者は地域の参照医を選択して、専門医へのアクセスの保障をしてもらう。患者のカルテは、本人、医師、金庫または保険会社に送付されるが、カルテの秘密厳守を保障する(secret medical)。また、カルテのコンピュータ管理が進んでいる(carnet vitaie)。

国公立病院の役割は、基本的に医学研究と医師の訓練に重点が置かれており、民間営利病院は、高度治療・手術などに特徴があり、民間非営利病院は、公的医療サービスを含めた中期の医療を特色とするように役割区分に特徴がある。

表5 フランスの病院数とベッド数(1997年度)
公的セクター 国公立病院
hospital
1063 ベッド数 459792
私的セクター 私立病院
clinique
3123 ベッド数 199747
私的セクター内訳 営利病院 (1000) 医師、民間団体、会社による所有
非営利病院 (2000) 赤十字、共済組合、非営利組織、財団、地域疾病保険金庫による所有。

出所:OECD Health Data 2002

フランスの外来医療の原則は、医師にとっては診療の自由(カルテへの責任)であり、患者にとってはどのような病院や医師を選んでも良いという選択またはアクセスの自由である。費用は公的な基準に基づく対価支払いである。いわゆる窓口負担は外来の多くの費目において不要になっており、入院の場合はさらに不要になっている。

一方、こうした医療制度の医療保険者としては患者が加入している疾病金庫が運営している。これには大きく3団体ある。最大の団体である全国労働者疾病金庫(CNAMTS, Caisse National d'Assurance Maladie des travailleurs salaries)は保険基金の80パーセントを取り扱っている。自営業者の疾病金庫はCANAMであり、農民のものとしてはMSA(Mutualite Sociale Agricole)がある。フランスの場合は、強制的(皆)社会保険(医療、年金など)は国などの公権力が管理して、公益を確保するために非営利の自主機関すなわち疾病金庫が管理するという二重方式をとっている。フランスでは歴史的に、労働運動や共済組合運動が盛んである一方、国家による普遍主義的な社会保障制度も重視されてきたことから、強制的保険制度を基本にして、共済組合や民間保険会社による自主的な保険制度を補完的に活用するという方式がとられた。すなわち、公的医療保険制度に自主的な共済組合運動が深く関与していくことが、労働者のリスク克服の必要として認識されてきたのである。

(2)フランスの医療制度の特徴

さてフランスの現在の医療制度は、「国民の社会的努力」により維持される「社会予算」に基づく「一般制度」によって運営される。この一般制度(Regime General)は、医療(疾病)、労働災害、老齢年金、家族手当、介護制度からなり、毎年決算を行う賦課方式であり、積立方式ではない。日本の場合は、たとえば年金積立金が177兆円(2000年度)、約5年分の支出分がストックされており、これを運用することによって、財源の補填をするという方式がとられている。そしてこのいわゆる財投(年金資金運用)の結果、2001年単年度においても赤字1兆3100億円を出している。この特異な日本方式は、第1に金融市場への投資が失敗することがあるという事実を示すものであり、また管理行政費用の占める比率が高くなることである。日本の場合、公的医療費支出に占める管理運営費は約20パーセントであるが、フランスの場合は、0.5パーセントである(1888年度)。日本のとりわけ政府管掌保険におけるこの多額の積立金と管理費用の肥大化、財投のマイナス役割は再検討をする必要がある。また、フランスの社会保障一般制度基金の基本的な枠組みは、先にも述べたように、4つの部門が統合された「総合的な社会保障」制度となっていることである。

■図1 フランスの医療制度
フランスの医療制度

表6 医療費の国内総生産(GDP)対比(2000年) 単位10億フラン
支出項目 1997 1998 収入項目 1997 1998
本国医療給付金 497.9 510.0 保険料 476.6 490.5
管理費 27.5 28.1 被用者 164.4 166.3
他制度への補填 16.5 18.1 雇用者 281.0 291.7
予防基金 1.2 1.2 受診料 31.2 32.5
医療統制費 3.0 3.0 各種税 50.1 56.2
海外県支出他 40.3 40.1 国家補助 4.2 1.3
剰余金 -16.0 -14.2 その他収入 23.5 24.1
合計 570.4 586.3 合計 554.4 572.1

出所:OECD Health Data 2002

表7 フランスの医療保険負担分
医療 70%
補助的医療 60%
歯科(治療・義歯) 70%
医薬品 35%~100%
入院 80%
手術 70%

出所:QUID2000、より作成。

この社会保障一般制度基金における医療部門は、ここ10年をみても1888年までは毎年赤字(たとえば1885年673億フラン―約1兆6千億円。ただし1Fを24円として換算―)を出していたが、1888年にはわずかながら黒字に転じた。2000年にはまた若干の赤字となった。こうした慢性赤字の解消はどのようにして実現されたのであろうか。

フランスの医療費は近年毎年2パーセントくらいずつ増加しているが、1887年度で見ると医療費は7285フランで、そのうち公的費用は5272億フランであり、民間部門で2013億フランであるので、この民間比率は約27パーセントである。フランスの公的医療制度における費用分担区分の特徴は、保険料収入の比率が高いことである。そして、労使分担の比率は、日本のように折半ではなくて、雇用者側が1.7倍ほど高いことである。そしてこれは、一般社会租税の導入とその漸次的増加によって、大きく配分比率は変化した。1888年以降労使分担比率は12.8%対0.75%と大きく変化した。ちなみに以前は労働者が6.8%である。また年金の保険料分担については労使それぞれで8.2%対6.55%であるのは、年金についての原則が医療とは異なるからであろう。ともあれ雇用者側の社会保障責任を高く位置づけているフランスの考え方の是非も、社会保障の根本哲学に関わることである。

また、フランスにおける社会各層における平均月額医療費支出は次のようである。

フランスの労働階層別医療支出(1886年度)
非熟練労働者層 118F(歯科11F,医療41F、薬66F)
職人層 168F(歯科13F,医療61F,薬94F)
熟練労働者層 170F(歯科43F、医療26F、薬71F)
会社員層 201F(歯科31F、医療73F、薬97F)
中間管理職層 202F(歯科33F、医療71F、薬98F)
202F(歯科33F、医療71F、薬98F) 280F(歯科85F、医療89F、薬106F)

出所:QUID2000より作成。

(3)普遍主義への回帰傾向

フランスは2000年1月に普遍的医療保障制度CMU(couverture medicale universelle,「包括的疾病保険」ともいわれる)をスタートさせ、国民皆保険の徹底を促進した。なによりも医療へのアクセスをより拡大したこと、機会平等の拡大をはかったことである。この普遍的医療保障制度の特徴は、第1に、自動医療受給資格化である。これは失業や無業や保険料支払ができなくて資格がない人々に対しても、その資格を自動的に与えて給付を行うことである。具体的に言えば、無保険者や書類未整備の外国人も医療のアクセスができるようになった。第2に、月額所得の低い社会階層(基本として1人月3500F、約87,000円以下)に補助を行うことである。この社会階層は約600万人存在し(フランスの人口は約6000万人)、その半分が社会的ミニマムとしての労働参入のための最低所得保障制度(RMI、エレミー)(都留民子、2002)の対象者である。このRMI制度は1888年から始まっているが、「あたらしい貧困」とは、単に伝統的な概念の失業者として存在しているのではなくて、いわば社会的弱者すなわち、障害者、高齢者、孤児、社会扶助受給者などとして存在している(ドマジェール、2002)という認識から、新しい雇用政策に基づいて作られた制度である。ここでも医療保障と雇用保障の政策を統合的に組み合わすことの重要性が示されている。第3は、いわゆる医療保険における自己負担金(ticket moderateur)を、患者は基本的に支払わなくてよくなったことである。ただし、眼科、歯科については上限をきめて自己負担支払がある。第4は、一般的に、医療保険金庫による「第三者支払いtiers payant」によって患者は料金前払いをする必要がない。第5は、給付手続きの簡素化、迅速化である。これは手続き窓口が全国疾病金庫(CNAMTSなど)に一本化されたためである。第6は、保険機関(医療保険基金、共済組合、民間保険会社)の自由選択であり、補助額を一人あたり年1500F受け取ることである。第7は、地域的な格差(不平等)の軽減化である。これは医師数、ベッド数、財源など資源配分を長期的に平等化をめざすもので、はじめの一歩として、第2点に示したような無保険者への医療アクセス化を統合した。しかし、公的医療部門と民間部門とのギャップも広がりつつあり、社会的資源の地域的公平配分のための課題は多いようである。

(4)最近10年のフランス医療制度改革の特徴

1880年代に入ってから公的医療制度の慢性的財政赤字が深刻な問題となった。このために1881年には一般社会租税(CSG,contribution sociale generalisee)が導入された。これは社会保険の租税化と見ることができる。当初税率は1.1%、83年には2.4%、87年には3.4%、88年からは7.5%と上昇した。1881年のビアンコ・プランでは、医薬品価格の引き下げ、入院費用の増加を行った。また1883年のベイユ・プランによって、各種医療費の償還率の引き下げ、総量管理方式の拡大を行った。また強制的医療指標ガイドライン(RMO,Reference Medicin Opposable)を導入し、現在も実施されている。これは患者のカルテの記録を統一化をはかったもので、医療の質の向上が目的とされた。RMOは3つの目的を持つとされる。第1に、公的医療資源の適正配分活用。第2に、医療の質の向上による事故の防止。第3に、外来患者の処方抑制による費用削減(非効率と過剰診療の削減)である。コストを下げて質を上げるということは、普通に考えるとかなり困難な課題とおもわれる。このRMO指標チェックを行う機関として設立されたのが、ANAES(医療査定評価機関)であるが、疾病金庫なども独自の検査医師を抱えて査定を実施している。RMOでは査定を受けてクリアできていない医師に対するペナルティを用意したが、民間部門の25パーセントくらいの医師しか参加していないという度合いの低さと、また、ペナルティを受けた医師が極端にすくない(0.1%)ということから、その実効性についてはまだ試行錯誤の段階といわれている。また、その指標の基準設定が曖昧であるとか、医療技術の進展スピードの速さのためにそもそも指標を固定化することの困難さの議論もある。大きな代案としては、民間の医療機関自体が自主的なガイドラインを作ることがあげられている。医師サイドからすると、報酬を低く設定されれば、個別の患者数の増大、自由診療報酬に向かう傾向が強まっているとされる。

1884年にはバラデュール首相がいわゆる社会保障財源のための「社会消費税」の導入を試みたが失敗に終わった。

1886年にはジュペ首相が医療制度改革のための「ジュペプラン」を出した。ジュペプランの基本構想では、医療報酬と医療目的遂行がバランスをとれるように、非効率をなくして、医療カードの導入、政府の財政統制を行うもので、コスト抑制策として取られたのが、「年間保険医療費目標額」(ONDAM,Objectif National des Depenses d'Assurance Maladie)である。これは予算配分については疾病金庫と相談しつつも、国が前年対比で支出上限を定めて4つの部門に配分するという方式である。2001年度予算6833億フランで見ると、4つの部門とは、外来部門(soin de ville,3127億フラン)、公的病院(入院)部門(2706億フラン)、民間病院部門(434億フラン)、社会医療部門(488億フラン)である。薬価の再評価、償還率の改正でコスト削減を行ってきたが、高齢化の促進に伴い薬の需要は増加すると見られている。ONDAMのような総費用規制については、医師団体や製薬団体からの反対が強い。

(5)伝統的に強い非営利協同組合セクターの役割

ともあれ、フランスの新聞「ルモンド」(2002.7.12)によれば、3年続いた黒字の後、公的社会保険制度は今年ふたたび伝統的な病気すなわち赤字に戻った。年金は黒字だが、足を引っ張っているのは医療部門でその赤字額は56億ユーロといわれている。最近のフランスの医療制度改革の特徴は、イギリス型のような全面国有化でもなければ、アメリカのような自由化でもない混合型であるが、一方で、公的統制・租税型・普遍主義的という伝統的な傾向を強めている側面もある。これは日本のわれわれにとっても基本的に好ましい方向と見ることができるが、そうした日本にとって参考になるものの一つは、フランスではやはり非営利セクターの役割が医療制度の中に伝統的に組み込まれていることであり、これは日本では伝統的に見られない側面である。予定の字数もつきたので、この点については改めて論じたい。

主要参考文献

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