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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター』2005年8号(転載)

二木立

発行日2005年04月01日

(出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・
転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見等をいただければ幸いです))


1.拙小論「規制改革・民間開放推進会議の迷走と『日本経済新聞』の追随」

(「二木教授の医療時評(その9)」『文化連情報』2005年4月号(325号):22-23頁)

本年に入って、規制改革・民間開放推進会議の医療改革方針の迷走と、それに追随する日本経済新聞(以下、「日経」)の無責任な報道が、目立ちます。それは、同会議が3月下旬にとりまとめる予定の追加答申の中身をめぐってです。

発端は、「日経」2月9日朝刊のトップ記事「医師免許に更新制、電子カルテ義務化-規制改革会議追加答申案」です。この記事は、規制改革・民間開放推進会議の「追加答申の原案が[2月]8日、明らかになった」として、「医療の質の向上を図るため、2005年度中に医師免許制度の導入を検討するよう提言。電子カルテの導入義務づけも盛り込み…」と、センセーショナルに報じました。

この報道に驚いて問い合わせてきた友人の病院経営者に対して、私は「規制改革・民間開放推進会議の新たな要求は『打ち上げ花火』で、マジメに検討する意味はありません」と回答するとともに、次のように書き添えました。「私の友人の研究者は、規制改革・民間開放推進会議の総括主査の八代尚宏さんを『仕組みを壊すことに快感を覚えている人。それすらどうでもよく、一定の発言力を維持するために発言している』と評していましたが、この評価はそのまま規制改革・民間開放推進会議にも当てはまります。」

私の予測通り、それからわずか6日後の2月15日の「朝日」朝刊は、「規制改革追加の17項目」は、「医療ミスを続発する医師の処分と再教育制度の確立」、「カルテや診療報酬明細書(レセプト)の電子化促進」等というごくありふれた提言に落ち着いたと報じました。さらに翌2月16日の「日経」朝刊は、「[医師]再教育のあり方や医師免許の更新制度の検討は当初案から削除」され、主要検討項目は16項目に減ったと報じました(この点は、規制改革・民間開放推進会議のホームページで確認しました)。ただし、「日経」はこの期に及んでも、この記事に「『医師免許』攻防へ」という見出しをつけ、読者を混乱させました。

以上の動きは、規制改革・民間開放推進会議が、医療分野の規制改革での「3連敗」(拙時評(8)参照)後、改革の方向を見失い、改革の整合性や実現可能性を検討せずに、思いつきに改革項目を打ち上げていること、および「日経」が、同会議の「広告塔」化している、あるいは同会議が「日経」を意図的に利用していることを示しています。

特に「日経」2月9日朝刊の報道は「リーク」の典型であり、中島誠『立法学』(法律文化社、2004年、156頁)の以下の記述通りです。「[中央省庁の記者クラブへの対応パターンの]イレギュラーなものとしては、意図的に1社だけに記事を抜かせる『リーク』という方法もあり、これは1社だけが記事にできる『特ダネ』の方が、記事の扱いが大きくなる可能性があることに期待して用いられる手法である。この場合、役所サイドが、確定した事実ではなく、今後取ろうとする対応の方向を話し、記事にしてもらうことで、世論等の反応を窺う、いわゆる『観測記事』であることも多い」。この本は、厚生労働省の現役若手エリート官僚が、九州大学大学院法学研究院に助教授として出向した時の講義ノートをベースにして、「学際性と時代性を伴った叙述に心掛け」て書いた教科書で、「立法過程」の流れと裏面を知ることができます。ただし、著者が自認するように、「官僚サイドを擁護するスタンスとなっている」ことを念頭に置きつつ、読む必要があります。

もう1冊、気骨あるジャーナリストの東谷暁氏の『日本経済新聞は信用できるか』(PHP、2004)も、バブル経済崩壊後の「日経」の経済報道の動揺・変節を詳細に検証しており、一読に値します(ただし、医療については全く触れられていません)。

3月7日の第13回規制改革・民間開放推進会議には、宮内義彦議長が「2005年度の重点検討分野・検討体制等についての基本方針」を提案しました。しかし、それの「重点検討分野」には、医師免許問題は例示されておらず、会議後の記者会見でも、宮内議長や八代尚宏総括主査はそれに言及しませんでした。なお、「日経」は2月16日朝刊の「医師免許攻防へ」とのセーショナルな報道後、この点についての続報も、この記事の訂正もしていません。

2.拙小論「2006年医療制度大改革は行われるか?」

(「二木教授の医療時評(その10)」『文化連情報』2005年4月号(325号):23-25頁)

最近の厚生労働省の公式発表を鵜呑みにすると、2006年には医療制度全般の大改革が行われることになっています。具体的には、次の4つの改革です。(1)診療報酬と介護報酬の同時改定、(2)健康保険法等改正(保険者の統合・再編と特定療養費制度の再構成)、(3)老人保健法改正(高齢者医療保険制度の創設)、(4)第5次医療法改正(医療計画の見直しと医療法人制度の改革)。

もしこれらの改革がすべて実現すれば、史上最大の大改革になります。これほどの大改革が予定されていたのは、15年前の「90年決戦」と2000年の「医療ビッグバン」以来ですが、両者ともあえなく頓挫したからです。過去2回と異なり、今回はまだ医療ジャーナリズムはセンセーショナルな報道をしていませんが、これは過去の学習効果が働いているからでしょう(例外は、『エコノミスト』誌昨年2月3号の、ピント外れな2005年医療制度抜本改革=「病院革命」特集)。

ここで注目すべきことは、これら一連の改革は、いずれも厚生労働省の従来の政策の延長線上の改革なことです。このことは、2001年6月の経済財政諮問会議「骨太の方針」の閣議決定以来4年間執拗に試みられてきた新自由主義的医療改革が挫折した結果、ようやく冷静な改革の議論ができるようになったことを示しており、歓迎できます。

他面、私は、厚生労働省の政策立案・実施能力の低下と来年9月に退陣が確定している小泉首相の政権掌握力の低下を考慮すると、政府・厚生労働省が2006年に上記4つの改革を一気に行うのはきわめて困難だ、と判断しています。以下、個々の改革の実現可能性を予測します。

実施が確実なのは診療報酬改定だけ

4つの改革のうち、ただ1つ実施が確実なのは、診療報酬と介護報酬の同時改定です。

私はこれは2004年改定に比べれば比較的大きな改定になるが、「抜本改革」とはならないと判断しています。医療関係者の中には、2006年改定には厚生労働省が2003年に設置した診療報酬調査専門組織が実施した本格的な調査研究の成果が反映されるため、「抜本改革」となると予測している方が少なくありませんが、逆です。なぜなら、診療報酬調査専門組織が医療の実態を反映した調査研究を行うと、それを踏まえた「根拠に基づく」改定は部分改革になり、「勘と度胸に基づいた」大改革(特に診療報酬操作による医療機関の誘導)は不可能になるからです。

私は、昨年10月に発表した拙論「後期小泉政権の医療改革の展望」で、2006年診療報酬改定について以下のようやや大胆な予測を行っていますので、参照して下さい(『社会保険旬報』2223号)。(1)改定の最大の争点は3回連続のマイナス改定になるか否か、(2)改定内容の中心は療養病床の診療報酬改定、(3)急性期入院医療へのDPC方式の適用拡大は限定的、(4)特定療養費制度の見直し(活用・拡大)、(5)病院の外来分離へのなんらかの規制の導入、(7)回復期リハビリテーション病棟の診療報酬改定。

老人保健法改正は棚上げ?

健康保険法等改正は2つの柱からなります。1つは保険者の統合・再編(都道府県単位の運営)で、これは2003年3月に閣議決定された「医療制度改革基本方針」に盛り込まれていました。もう1つの特定療養費制度の再構成(保険導入検討医療と患者選択導入医療への再編)は昨年末の混合診療問題の政治決着を受けての改革です。これら2つはいずれも政府決定であるため、2006年か翌年に実施される可能性がありますが、改革のインパクトはそれほど大きくはありません。

老人保健法改正(あるいは同法の廃止と新法制定)による高齢者医療保険制度の創設は、上記閣議決定の目玉でした。しかし、これは厚生労働省案と自民党医療基本問題調査会案の2案を足して2で割っただけの安易な改革案であり、しかも閣議決定後2年間、社会保障審議会医療保険部会での議論は迷走・空転を続けており、いまだに骨格についての合意さえ得られていません。さらに異例なことに、厚生労働省OBを含めた、多くの有力研究者が正面からそれへの反対を表明しています。そのために、2006年に高齢者医療保険制度が創設される可能性はほとんどありません。それどころか改革そのものが棚上げされ、今後相当期間、現行老人保健制度が存続する可能性が大きいし、私自身もその方が妥当だと考えています(この点については『21世紀初頭の医療と介護』勁草書房、2001、序章、参照)。

第5次医療法改正は2007年以降?

第5次医療法改正は、本年になって急浮上してきました。これは、医療計画の見直し(都道府県の権限強化)と医療法人制度改革(認定医療法人制度の創設等)の2本柱であり、両者とも、当初は規制改革・民間開放推進会議側の2つの要求(病床規制の廃止と株式会社の医療機関経営の解禁)に対応するために検討が開始されました。現在、医療計画の見直し等に関する検討会と医業経営の非営利性等に関する検討会、およびそれらの親組織と言える社会保障審議会医療部会で、「医療法改正を視野に入れた」検討が進められていますが、両検討会の報告書がまとまるのは本年夏の予定です。

私自身は、認定医療法人の創設を中心とした医療法人制度改革(特に非営利性の強化)に大変期待しています。しかし、本年夏以降年末までの数カ月間で、報告書で示された方向が法案に盛り込めるほど具体化される可能性は残念ながら低い、と予測しています。

医療法改正のもう1つの柱である医療計画の見直しは、厚生労働省が2003年8月に発表した「医療提供体制の改革のビジョン」を具体化するためとされています。しかし、厚生労働省が2月14日の医療計画の見直し等に関する検討会に示した「平成18年の医療制度改革を念頭においた医療計画の見直しの方向性」に書かれている内容は、いずれも現行医療法の枠内で実施可能なものばかりです。

尾形裕也氏が明快に述べているように、規制改革・民間開放推進会議が求めている「現行の病床規制を撤廃することも含めた抜本的な検討」を行う場合には、医療法改正を「視野に置いた議論」が必要になります(「医療計画制度改革の展望」『社会保険旬報』2230号、2005)。しかし、上記「方向性」では、「基準病床数制度(いわゆる病床規制)については、医療費への影響の観点、救急医療やへき地医療など採算に乗らない医療の確保・入院治療の必要性を客観的に検証する仕組みの未確立等から引き続き存続させる方向」と明記されています。しかもやや意外なことに、規制改革・民間開放推進会議側がこれへの表だった反論を行っていないことを考慮すると、病床規制の存続は既定の事実と言えます。逆に言えば、この面からは急いで医療法改正を行う必要はありません。

以上の理由から、私は2006年に第5次医療法改正が行われる可能性は低く、それの実施は早くとも2007年以降になる、と予測してます。

3.大学院「入院」生のための論文の書き方・研究方法論等の私的推薦図書

(編注:文献リストはこちらになります。)

この文献リストは、私が1999年度に日本福祉大学大学院社会福祉学研究科長になってから、毎年、大学・大学院の入学式後の大学院合同オリエンテーションの「おみやげ」として配布しているものの最新版(2005年度版,ver 7)で、本日配布しました。本年は、私が大学院委員長になったためもあり、日本福祉大学の教員全員にも配布しました)。

約160冊の図書を、以下の構成で、簡単なコメント付きで紹介し、私のお薦め本はゴチック表示しています。大学院社会福祉学研究科福祉マネジメント専攻では、これを用いた「統一導入講義」も行っています。

なお、大学院へ入ることは「入学」ではなく「入院」と呼びます(妹尾堅一郎『研究計画書の考え方』ダイヤモンド社,1999,55頁。もちろんジョーク)。大学院を出ることは「卒業」ではなく、「修了」です(これは本当)。

4.私の好きな名言・警句の紹介(その4)ー研究者としての希望・情熱・夢

人名の次のカッコ内は、発言当時の所属・肩書きです。

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