『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻25号)』(転載)
二木立
発行日2006年09月01日
(出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見等をいただければ幸いです)
本「ニューズレター」のすべてのバックナンバーは、いのちとくらし非営利・協同研究所のホームページ上に転載されています:http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/)
- ※お断り:今号は拙論は休載します。
- お知らせ:夏休みを利用して、延び延びになっていた『医療経済・政策学の視点と研究方法』(勁草書房)の原稿をまとめました。早ければ11月上旬に出版します。
目次
- 1.24号掲載の拙論「2006年診療報酬改定の意味するもの」の訂正と補足
- 2.2006年発表の興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(その5)
- 3.「日本福祉大学COE拠点リーダー・文献情報」のお知らせ
- 4.私の好きな名言・警句の紹介(その21)-最近知った名言・警句
1.24号掲載の拙論「2006年診療報酬改定の意味するもの」の訂正と補足
- 2頁の遠藤久夫氏(早稲田大学教授)は、…(学習院大学教授)の誤りです。
- 3の麦谷眞<理>保険局医療課長は、麦谷眞<里>…の誤りです。
- 5頁の「今回の診療報酬改定で、回復期リハビリテーション病棟入院料等の施設基準や算定基準に、<社会福祉士の配置が明記された>…」は、正しくは<社会福祉士が位置づけられた>…」です(『月刊/保険診療』8月号136頁で訂正)。
今回の改定では、以下のように5カ所で社会福祉士が位置づけられましたが、そのうち配置が明記されたのは2カ所です。(1)新設されたウィルス疾患指導料の施設基準に「社会福祉士又は精神保健福祉士が1名以上勤務していること」が、(2)在宅時医学総合管理料の施設基準に「社会福祉士等…を配置していること」が、記載されました。(3)回復期リハビリテーション病棟の定義には「リハビリテーションプログラムを、…社会福祉士等が共同して作成し、…」と明記されましたが、それの施設基準には社会福祉士の配置は明記されていません。(4)退院時リハビリテーション指導料を算定可能な職種に、医療ソーシャルワーカーに代わって社会福祉士が加えられました(その結果、今後は社会福祉士資格を有していない医療ソーシャルワーカーはこの指導料を算定できなくなりました)。(5)リハビリテーション総合計画評価料の算定基準にも、社会福祉士が位置づけられました(以上は、拙論を『文化連情報』9月号に転載時、【注2】社会福祉士が診療報酬点数表の5カ所で位置づけ、として補足)。
2.2006年発表の興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(その5)
※「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。
○中村雄二「『州民皆保険』法の制定-米国・マサチューセッツ州」『月刊国民医療』No.226:56-61,2006.7.1. [評論]
日本語論文ですが、本年4月に超党派で成立したアメリカ・マサチューセッツ州の「州民皆保険」の実現をめざす法について、アメリカ国内での賛否両論を豊富な英語文献に基づいて、ていねいに紹介し、しかもそれらの大半がインターネットから入手可能のため、紹介します。この法は、わが国だけでなく、アメリカの一般医療雑誌でも手放しで肯定的に紹介されることが多いのですが、右派だけでなく、左派、特に全米規模で皆保険制度の実現を目指す医師団体(PNHP)も、それを真っ向から批判しているそうです。同団体の2人のスター医師(Woolhandler & Himmelstein)が発表した論文「皆保険の偽りの約束」(!)の全訳も「資料」として掲載されています。
私はこれを読んで、米国に留学していた1992~1993年に成立した、オレゴン州の医療改革(メディケイドの給付範囲を各医療行為の費用対効果比に基づいて縮小するのと引き替えに、それの給付対象を拡大し、無保険者を大幅に減らす)が、右派だけでなく、左派の研究者・団体からも厳しく批判されていたことを思い出しました。
○「特集 メディケアと予防」(Medicare and prevention. Health Care Financing Review. 27(3):1-62,2006)
二木コメント-アメリカ厚生省の研究誌の最新号が「メディケアと予防」についての特集を組み、総説論文(overview)と以下の4つの実証研究論文を掲載しています(著者名略)。「メディケア加入者による予防サービス利用の予測因子」、「大腸癌検診を増加させる」、「高齢関連の黄斑変性の資源利用と費用」、「高齢者のアルコール消費と医療費」。
本特集の背景としては、2003年に成立したメディケア改革法によって、従来メディケアの給付対象外とされていた医薬品と1次~3次予防(糖尿病・心疾患のスクリーニングテスト等の「メディケア保健医療支援プログラム」)が新たに給付対象に加えられたことがあげられます。最初の総説の結論部分(3頁)では、「長期的には、メディケアの費用節減は、予防サービスの適切な利用と健康なライフスタイルを促進することにより、達成しうる」と希望的観測が書かれていますが、いずれの実証研究論文も予防による医療費抑制効果には触れていません。
○「特集 公衆衛生の現段階」(The state of public health. Health Affairs 25(4):898-1060,2006)
二木コメント-アメリカでもっとも読まれている医療雑誌であるHealth Affairs誌の最新号も、公衆衛生の大特集(全18論文、163頁)を組んでいます。各論文のテーマは多岐にわたりますが、要旨を読んだ限りでは、公衆衛生・予防による医療費抑制効果に触れた論文はないようです(少なくともそれを実証した論文は掲載されていません)。
○「クリニカルパスによるナーシングホームの肺炎患者の病院転院抑制効果-ランダム化比較試験」(Loeb M, et: Effect of a clinical pathway to reduce hospitalizations in nursing home residents with pnuemonia - A randomized controlled trial. JAMA 295(21):2503-2510,2006)[量的研究(ランダム化試験)]
ナーシングホーム入院患者が肺炎を併発した場合には病院に転院することが多い。そのような患者にホーム内でクリニカルパスを用いて治療を行うことが病院への転院、合併症、費用等に与える影響を検討したところ、それにより臨床的アウトカム(死亡率等)を悪化させることなく、費用を節減できることが明らかになった。
2001年1月から2002年4月までの期間にカナダ・オンタリオ州の22のナーシングホームに入院していた65歳以上の高齢者680人をランダムにクリニカルパス群と通常ケア群(対照群)に分けた。クリニカルパスには、抗生物質の経口投与、ポータブル胸部レントゲン検査、酸素飽和度のモニタリング、脱水治療、看護師による濃密なモニタリング、通常ケアを含んでいた。
病院への転院はクリニカルパス群で10%で、対照群の22%より有意に低く、1人当たり病院への入院期間もクリニカルパス群で有意に短かった。死亡率、健康関連QOLやADL(functional status)には有意差はなかった。1人当たり総費用はクリニカルパス群で対照群よりも1016ドルの低かった。
○「ナーシングホーム新入院患者への自宅退院促進ケースマネジメント・プログラムの結果」(Newcomer R, et al: Outcomes in a nursing home transition case-management program targeting new admissions. The Gerontologist 46(3):385-390,2006.[量的研究(ランダム化試験)]
ナーシングホームの新入院患者と(家族)介護者を対象にして、退院計画を立て自宅退院後の地域生活への移行期にケースマネジメントを提供するPACTプログラムの効果を、ランダム化試験で検討した。PACTプログラムの対象(介入群)は33人、通常ケアを受ける対照群は29人である。その結果、両群では自宅退院率(それぞれ84%、76%)にも、ナーシングホームの入院期間中央値(同42日、55日)にも有意差はなかった。
二木コメント-自宅退院率、ナーシングホーム入院期間中央値とも、介入群で良好なため、標本数を増やせば有意になる可能性は十分にあります。
○「アルツハイマー病高齢患者へのプライマリケアでのチームアプローチの効果-ランダム化試験」(Callahan CM, et al: Effectiveness of collaborative care for older adults with Alzheimer disease in primary care. JAMA 295(18):2148-2157,2006)[量的研究(ランダム化試験)]
地域でプライマリケア医による治療を受けているアルツハイマー病高齢患者を対象にして、多職種によるチームアプローチ(collaborative care)の効果を、ランダム化試験により検討した。このチームアプローチには、ケアマネジメントと認知症の行動異常や精神症状を発見・モニター・治療するプロトコールを含んでいる。153人の患者とその介護者を、チームアプローチ群(介入群。84人)、通常ケア群(対照群。69人)にランダムに分け、18カ月間間比較した。
その結果、介入群では対照群に比べて、5種類の薬物のうちコリンエステラーゼ抑制剤と抗うつ剤の使用率が有意に高く、行動異常や精神症状が有意に少なかった。しかも介入群では、介護者のストレスやうつ症状も有意に少なかった。他面、認知機能、ADL、病院・ナーシングホームへの入院率、死亡率には両群間で有意差はなかった。
二木コメント-原著論文の要旨の「結論」部分には、介入群ではこれらの効果は「向精神薬や安定剤使用の有意の増加なしに得られた」と書かれていますが、これは不正確で、本文の表3では抄訳しましたように2種類の薬剤で介入群の方が使用頻度が高くなっています。本調査では費用の比較は行われていませんが、私の経験では、これは介入群の方が総費用が高いか、少なくとも介入群に比べて安くはないことを示唆しています。
○「われわれは医療チームの効果について何を知っているのか?文献レビュー」(Lemieux-Charles L, et al: What do we know about health care team effectiveness? A review of the literature. Medical Care Research and Review 63(3):263-300,2006)[文献レビュー]
1985~2004年に発表された、医療チームの効果を実証的に検討した33論文を比較検討した。それらは研究アプローチの点から、次の3グループに分けられた:(1)チームケアと通常ケアを比較した介入調査(12論文)、(2)チームの再編成の効果を検討した介入調査(9論文)、(3)チームの文脈、構造、過程、アウトカムの関係を探索したフィールド調査(12論文)。著者が独自に作成した「統合チーム効果モデル」(ITEM)に基づいて研究結果をまとめたところ、チームの意志決定に関わる臨床的経験のタイプと多様性が患者ケアの改善と組織の効果に大きく影響すること、およびコラボレーション、コンフリクト、決断(resolution)、参加、凝集(cohesion)がスタッフの満足と主観的チーム効果に影響することが示唆された。これらの研究はチームに埋め込まれた文脈を考慮することの重要性も明らかにしている。
二木コメント-なんとも思弁的で難解な論文ですが、チーム医療の効果についての文献レビューとしてはおそらく世界初と思います。
○「低所得無保険者と高所得無保険者との医療サービス利用[の比較]」(Ross JS, et al: Use of health care services by lower-income and higher-income uninsured adults. JAMA 295(17):2027-2036,2006.)[量的研究]
アメリカには4500万人を超える医療保険未加入者(無保険者)が存在し、彼らの医療利用が制限されていることは多くの研究で明らかにされている。しかし、高所得の無保険者の医療利用についての実証研究はほとんど存在しない。本研究では、全国代表標本調査である「行動リスク調査」の2002年分データを用いて、この点を検討した。対象は、18~64歳の約19.5万人で、各種癌健診、血清コレステロール値・糖化ヘモグロビン値検査、心循環器疾患のリスク抑制のためのアスピリンの服用や禁煙・体重減少プログラム、糖尿病管理のための眼・足健診とインフルエンザ・肺炎予防接種の受診率(参加率)を、家計所得水準別および医療保険加入の有無別に比較検討した。その結果、医療保険加入の有無と家計所得水準はともに、ほとんどすべての保健医療サービス利用と有意に関連していた。無保険者では、所得水準が上昇しても、癌検診、心循環器疾患のリスク抑制、糖尿病管理プログラムの受診率は、所得水準が同水準の保険加入群に比べて有意に低いままだった。この結果は、無保険者はたとえ高所得層でも適切な医療サービスの利用を抑制していることを示している。
○「医療貯蓄口座は患者負担をどのくらい増すか[医療費を抑制するか]?」(Remler DK, et al: Health Affairs 25(4):1070-1078,2006)[量的研究(シミュレーション)]
医療貯蓄口座の支持者はそれが医療費を抑制できると主張している。その理由の1つは医療貯蓄口座と高額免責制をセットにするからであるが、その前にこれによる患者負担と既存の医療保険の患者負担とを比較しないと、本当に医療費を抑制できるか否かは分からない。なぜなら、現在市場に出回っている典型的な医療保険はすでに多額の患者負担を課しているからである。そこで、シミュレーション分析を行ったところ、医療貯蓄口座と高額免責制の多くの組み合わせでは、現在よりも患者負担が減少する患者グループが相当存在することが分かった。特に総医療費の半分以上を消費している高額医療費の患者グループでは、患者負担は現在と同じか減少する。
二木コメント-医療貯蓄口座による医療費抑制効果は期待できないことをシミュレーション分析により示した初めての論文と思います。逆に、医療貯蓄口座の導入を医療改革の切り札と無邪気に主張している新刊書に、ハンク・マッキンネル著『ファイザーCEOが語る未来との約束』(ダイヤモンド社,2006,\2200)があります。
○「[医療の]質と情報技術革命の予測通りの結果と予期せぬ結果」(Wachter RM: Expected and unanticipated consequences of the quality and information technology revolutions. JAMA 295(23):2780-2783,2006)[評論]
今から約20年前(1988年)に、レールマン医師(New England Journal of Medicine誌編集長)は「評価と説明責任の時代」が医療を変容させると予測し、それを「第三の医療革命」と命名した。著者(カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部所属医師)は、その後この予測通りの変化も起きたが、予期せぬ結果も生じているとして、自己の臨床経験も踏まえつつ、「質測定の予期せぬ結果」と「コンピューター化の予期せぬ結果」について具体的に検討している。最後に著者は、仮に今後最適なシステムが実現しても、医療のアートの部分は相当残ることを強調している。
○「電子カルテ導入により医療費が抑制できるとは必ずしも言えない」(Sidorov J: It ain't necessarilly so: The electronic health record and the unlikely prospect of reducing health care costs. Health Affairs 25(4):1079-1085,2006.)[評論]
電子カルテの推進者は、電子カルテにより医療事故と医療費の両方を減らすことができると主張しているが、多くの文献は逆のことを示唆している。電子カルテ導入により医療費請求額は増えるし、医療の生産性は低下することが少なくない。医療事故の減少については文献により一定しておらず、医療費や医療事故保険料の低下にはまだリンクできない。
診療パターンを変える他の大きな介入がない限り、電子カルテだけで総医療費が減少することはありそうもない。
○「医療ネットワークと医療システムの分類法:再評価」(Luke RD: Taxonomy of health networks and systems: A Reassessment. Health Services Research 41(3):618-628,2006)[量的研究]
アメリカの医療ネットワークと医療システムの分類法としては、1999年にBazzoli等がアメリカ病院協会のデータベースを用いて洗練された統計手法により開発したものが広く知られている。しかし、これは地域単位の個々の病院と病院システムとの関係を把握するために開発されたものであり、(複数の地域・州で展開している)企業単位の病院システムの全体像を把握するには不十分であり、今後は地域単位の分類と企業単位の分類を峻別した分類法を確立する必要がある。
二木コメント-本論文に続いて、Bazzoli等による長い反論(pp.629-639)とLukeによる短い再反論(pp.640-642)が掲載されています。アメリカと異なり日本では個々の病院の医療・経営データがごく一部しか公表されていないため、残念ながら、病院チェーンや保健・医療・福祉複合体の統計学的分類を行うことはできません。
○「転倒の定義と転倒の原因:高齢者とケア提供者と文献研究との比較」(Zecevic AA, et al: Defining a fall and reasons for falling: Comparisons among the views of seniors, health care providers and the research literature. The Gerontologist 46(3):367-376,2006.)[量的研究(電話調査)]
本研究の目的は、高齢者とケア提供者が転倒とその原因についてどのように理解しているかについての情報を得て、それを転倒についての文献研究と比較することである。そのために、カナダ・オンタリオ州の1自治体の在宅高齢者(55歳以上)477人とケア提供者(看護師、ケアワーカー等8職種)31人に対して電話調査を行うとともに、転倒の定義を明記している30の文献研究を検討したところ、転倒の意味は高齢者とケア提供者、文献研究で異なっていることが分かった。
高齢者とケア提供者は、転倒に先立つ事件と転倒の結果生じた傷害を重視していたのに対して、文献研究では転倒そのものに注目していた。転倒の原因・リスク因子についても、高齢者とケア提供者と文献研究では相当の差があった。具体的には、高齢者は転倒の原因として、(1)バランス、(2)天候、(3)不注意をあげていたのに対して、ケア提供者は(1)基礎疾患、(2)服用している薬剤、(3)室内の障害物をあげ、先行研究は(1)筋力低下、(2)転倒歴、(3)バランス障害をあげていた。この結果に基づいて著者は、定義を明確にしない限り、転倒研究の信頼性が低下すると警告している。
二木コメント-転倒はGerontology(老年学)の「定番研究」の1つですが、本研究は基本的用語の定義を明確にしないまま「実証研究」をする危うさを警告しています。
3..「日本福祉大学COE拠点リーダー・文献情報」のお知らせ
日本福祉大学の研究プロジェクト「福祉社会開発の政策科学形成へのアジア拠点」は、全国の福祉系大学で唯一、文部科学省の21世紀COEプログラムに採択され、私が拠点リーダーを務めています。研究期間は2003~2007年度の5年間(残り1年半)で、現在、研究成果の最終的な取りまとめの準備に入っています。
その一環として、私は、7月27日から、本プロジェクトに参加している日本福祉大学の教員等を対象にして、「日本福祉大学COE拠点リーダー・文献情報」を、メール(BCC)で配信し始めました。これには、私が日本福祉大学のCOE研究に多少でも関連すると思った、医療以外の広義の福祉関連の最新文献(大半は日本語文献)をできるだけ幅広く(雑多に?)、簡単なコメントをつけて、紹介しています。大半は1頁のごく短いものですが、本「ニューズレター」との重複はほとんどありません。
本「ニューズレター」を配信している方で、この「文献情報」の配信も希望される方は、ご連絡下さい(申込み締切は9月10日とし、翌日にバックナンバー一式をお送りします)。
御参考までに、1~5号で紹介した文献は以下の通りです。
- 1号(2006.7.27)
- 「大きな理念の争奪戦-ブレアもキャメロン(保守党党首)も『第三セクター』と恋に落ちた」(The Economist 7月22号,62頁「論評」。原題:The fight over a big idea)。
- 白鳥令・他『アジアの福祉国家戦略』芦書房,2006.5.20,\2800,276頁.
- 米本昌平『バイオポリティックス-人体を管理するとはどういうことか』中公新書,2006.6.25,\840,271頁.
- 2号(2006.7.27)
- 『福祉の1つの世界-比較研究の中の日本』(Kasza GJ: One World of Welfare -Japan in Comparative Perspective. Cornell University Press, 2006, 189 pages)
- 3号(2006.7.29)
- 滝上宗次郎『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』講談社,2006.6.8,\1600,253頁.
- 日経ヘルスケア21編『日経ヘルスケア21別冊:拡大するシニアリビング・マーケット Vol.2』日経BP社,2006.7.31,\5524,194頁.
- 4号(2006.8.2)
- 坂本忠次・住居広士編著『介護保険の経済と財政』勁草書房,2006,\2800.
- 座談会「小規模多機能・地域密着ケアの今後」『WAM』2006年8月号:2-9頁。
- 特集「医療と経済格差」『病院』2006年8月号。
- 5号(2006.8.8)
- 独立行政法人福祉医療機構「小規模多機能サービスに関する調査報告書」2005年12月。
- 『総合リハビリテーション』2006年8月号特集「障害者自立支援法をめぐって」。
- 浦野慶子(ハワイ大学マノア校社会学部)「ソーシャル・キャピタルをめぐる保健医療社会学の研究展開」『保健医療社会学論集』17(1):1-12,2006.7.20.
- 古瀬徹鹿児島国際大学教授のHP(http://www.iuk.ac.jp/~tfuruse/)&ブログ。
4.私の好きな名言・警句の紹介(その21)-最近知った名言・警句
<研究と研究者のあり方>
- 鈴木守(群馬大学学長)「論文を『--と信じる』と結んで、[川喜田愛郎先生から]顔を真っ赤にして怒られたことがある。『信じるとは理性を超えた世界に身を委ねること。科学ではありえない』。たとえ言葉一つでも、いいかげんなことは正さずにはいられない真摯な姿勢が、ち密な理論を組み立てられるのだと心を打たれた」(「日本経済新聞」2006年8月1日朝刊「交遊抄-怖い先生」)。
- S・D・レヴィット(シカゴ大学の若手経済学者)の根本的な信念「混乱と複雑さとどうしようもない欺瞞が満ちているけれど、現代社会は理解不能ではなく、不可知でもなく、そして-立てた設問が正しければ-私たちが考えているよりもずっと興味深い。必要なのはただ、ものの見方を変えることなのだ」(望月衛訳『ヤバい経済学』東洋経済新報社,2006,v頁)。二木コメント-これは、本「ニューズレター」9号(2005年5月1日配信)で紹介した、「研究課題・問の設定」の重要性を指摘した多くの名言とも共通しています。
- 御厨貴(東京大学先端科学技術研究センター教授)「総理大臣や総裁といった地位についた人たちは、一般的にいって、難しい状況や解決困難な課題について、情報を聞けば聞くほど決断ができなくなります。つまり、いわゆる知識汚染が進んで決断できなくなるのですが、彼[小泉首相]にはそういうことが一切ありませんでした」(『ニヒリズムの宰相小泉純一郎論』PHP新書,2006,79頁)。二木コメント-このような「知識汚染」は、明確な課題意識や「仮説」なしに、文献を手当たり次第に読みあさる「お勉強オタク」の(若手)研究者にもよくみられます。
- 吉村昭(作家。2006年7月31日死去、享年79歳)「私は小説を書くとき、その裏付けとして取材をするが、まず他人の書いたものを全面的には信用しない。自らの足で歩き自らの耳で聴くことに徹する」(『戦艦武蔵ノート』文春文庫,72頁。「読売新聞」2006年8月3日朝刊「よみうり寸評」で紹介)。二木コメント-この姿勢は、研究を行う上でも不可欠と思います。「他人の書いたものを全面的に信用する」最悪の例が、孫引きです。
- 黒井千次(作家)「[吉村昭さんは]気にかかることがあれば現地に出かけて直接調べるが、帰りは足を伸ばして温泉にでも立ち寄ろう、などという考えは頭に浮かばないらしかった。国内では二泊を超える旅はしないことに決めている、と伺った覚えもある。出かけた先から飛んで帰って、取材の成果を作品に活かすべくまたすぐ机に向かわれたのではないだろうか」(「日本経済新聞」2006年8月4日朝刊「吉村昭さんを悼む」)。二木コメント-私も「国内では二泊を超える旅はしない」ようにしていますが、とても吉村昭さんの境地には達していません。
<対談・ディベート・論争>
- 五木寛之(作家)「かつて文壇における対談の名手と言えば、文句なしに吉行淳之介さんだった。/(中略)いちど生前の吉行さんに、酒場で質問したことがある。/『対談のコツっていうのは、いったい何なんでしょうね』/言下に吉行さんは言った。/『そりゃ、嫌いなやつとはやらないことさ』/なるほど。/(中略)『もし、嫌いな相手とどうしても対談しなくちゃならなくなったときはどうします?』/『そりゃ困るな。まあ、そのときだけでも好きになるしかないよね」(『新・風に吹かれて』講談社,2006,121-122頁)。
- 岩田健太郎(千葉県・亀田総合病院総合診療・感染症部長)「ディべートの本質は訴訟と同じである。勝つこと。彼ら[アメリカ人またはアメリカ人医師]の議論の多くは『勝つため』『自分に有利な方向に展開するため』の議論である。ああいえばこういう人たちなのである。勝とうという意志そのものがバイアスであり、真摯に真実を追い求めるEBM[根拠に基づく医療]とは真っ向から相対する概念である。ディベート的な議論の上手さは、実は論理性からの逸脱との仲のいい友達なのである」(「米国医療は本当にエビデンス・ベイストなのか」『大阪保険医雑誌』2006年8・9月号25頁)。二木コメント-アメリカ式ディベイトの本質または目的を喝破した名言と思います。なお、同氏の『悪魔の味方-米国医療の現場から』(克誠堂出版,2003)は、御自身のアメリカ・ニューヨーク市の複数のフツーの地域病院での研修・勤務経験に基づいて、「マーケットが牛耳」り「医療の質も金次第」のアメリカ医療の光と影、特に「在野」の開業医の生態を生き生きと描いており、一読をお薦めします。
- 鷲田小彌太(札幌大学教授)・廣瀬誠(出版社勤務)「論争に勝たない工夫が出来て、人間は一人前である」、「あらゆる論争は不快である」、「論争に勝つのは『天分』である」、「負ける論争はしない」、「論争で勝つと思考が止まる」(『論争を快適にする30の法則』PHP,1998,1,11,136,141,167頁)。二木コメント-「論争に勝たない『論争術』」=「快適な論争術」=「大人の工夫」のノウハウを紹介した一風変わった本です。
<その他>
- 本川達雄(東京工業大学教授。『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)で生物学に時間の考えを取り入れた。1949年生まれ)「年を取ったら若い人と同じことはできません。第一、時間の流れが違うのです。(中略)年を取ると体のエネルギー消費は減り、時間の流れはゆっくりとしている。『のろい』と映るかもしれませんが、それでよいではありませんか。若い時とは違う世界に生きているのですから。今の世の中は時間が速すぎます。(中略)時間軸を若い時と同じようにするから、ストレスがたまるのじゃないかなあ」(「日本経済新聞」2006年8月7日朝刊「インタビュー領空侵犯-異議あり アンチエイジング」)。二木コメント-私と同じ「団塊の世代」=初老期であるだけに、大いに共感しますし、かつ安心しました。なお、私もアンチエイジングには大いに疑問があります。私の知る限りアンチエイジングをもっとも厳しく批判した論文は、アメリカの老年医学の泰斗ビンストック医師の「『アンチエイジング医学』に対する戦争」です(Binstock RH: The war on "anti-aging medicine." The Gerontologist 43(1):4-14,2003)。
- 五木寛之(作家、エッセー集『新・風に吹かれて』を刊行。73歳)「『アンチエイジング』のような、年配者が年を感じさせないようにする生き方には違和感を覚える。(中略)アンチエイジングよりハッピーエイジングです」(「中日新聞」2006年8月9日朝刊)。
- 牧野直隆(日本高野連前会長。2006年7月18日死去、享年95歳)「善意でやった失敗は怒らない」 (「朝日新聞」2006年8月7日夕刊「惜別」)。
- 松本さゆりさん(名古屋市で当て逃げの車を制止しようとしてひき逃げされ死亡した松本伸一さんの妻)「決して無駄な死ではなかった。こんな正義感のある人間がいた、ということを覚えていてほしい」、「正義感があだになったとは考えたくない。姿が見えないことは寂しくてつらいことだけど、『私たちは誇りを持って強く生きていくね』と伝えたい」、「怒りや恨みだけになったら生きていくことはできない。前を向いていくしかない」(「朝日新聞」2006年8月7日夕刊。この日、名古屋地方裁判所は未必の故意による殺人罪の成立を認め、加害者に懲役16年の判決を言い渡した)。
- 児玉健次(元衆議院議員)「この本[日本戦没学生記念会編『きけ わだつみのこえ』]の冒頭にある短詩-死んだ人々は、もはや黙っていられぬ以上、生き残った人々は沈黙を守るべきなのか-という問いかけは、怠惰になろうとする私をつき動かします」(『聞こえますか 命の叫び-戦没学生永田和生の「軍隊日記」』かもがわブックレット,2006,62頁。初出は、北海道民主医療機関連合会『青年論』1983,10頁。引用されている詩は、渡辺一夫氏の「感想-旧版序文」の最後に掲載されているフランスの詩人ジャン・タルジューの短詩の渡辺氏訳。『きけ わだつみのこえ[新版]』岩波文庫,13頁)。
- 山田厚史(『AERA』編集委員)「困ったときの言い訳に、その人の品性がにじみ出る。こんな人だったんだと、ガッカリした経験はありませんか。/最近のガッカリは福田康夫元官房長官」(『AERA』2006年8月7日号67頁、「国論分裂回避?それはないでしょ 康夫さんの器量」)。
- 梶山静六(元官房長官。1998年の総裁選に、所属する小渕派を脱会して出馬)「政治家にとって晩節を汚すとは、大勢に流されてものいわぬ羊となることであって、たとえ最後の一人になろうとも信じる道を訴え続けることが、選挙で選ばれた者の使命ではなかろうか」(『破壊と創造』講談社,2004,283頁。吉田昌平「記者の目-対照的な2人[福田康夫氏と梶山静六氏]の決断」「中日新聞」2006年7月29日朝刊が、ゴチック部分(編注:Webでは強調strong)を引用)。