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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻110号)』(転載)

二木立

発行日2013年09月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


1.論文:地方の中堅私大経営から見ると医療経営はうらやましい!

(『日本医事新報』「深層を読む・真相を解く(25)」2013年7月27日号(4627号):146-147頁)

私事で恐縮ですが、本年4月から日本福祉大学学長に就任しました。日本福祉大学は本年創立60周年を迎える福祉系の老舗私立大学で、6学部8学科4大学院研究科、学生数約13,000人を擁する地方の中堅大学でもあります。本部は愛知県知多半島南部の美浜町(人口約2.5万人)にあります。2015年度には知多半島北部の東海市に新キャンパスを開設し、看護学部を設置する予定です。

日本福祉大学は2008年度以来、慢性的な入学定員割れに悩んでいます。これは地方の中堅・小規模私立大学に共通した悩みです。そのためもあり、全国の私立大学法人中の赤字法人の割合は2011年度には41.8%に達しています(『月報私学』2013年2月号)。私の学長としての最大の任務は、2015年度の新キャンパス・新学部開設と「教育重視」の教育改革により、定員割れを克服し、本学を「ふくしの総合大学」として発展させることです。

この立場・視点からみて、医療(病院・診療所)経営は「うらやましい!」というのが率直な実感です。私が初めてこう思ったのは4年前に副学長・常任理事に就任した時で、それ以来、医療関係者向けの講演やインタビューでは時々触れてきました(『メディカル朝日』2010年11月号インタビュー等)。しかし論文化したことはないので、本稿で私が「医療経営はうらやましい!」と考える5つの理由を述べたいと思います。

人口高齢化で医療市場は拡大

第1のそして最大の理由は、人口高齢化により医療市場は今後も拡大するのに対して、人口少子化により、18歳人口は今後急減し、大学市場は縮小することです。

医療の主な対象である65歳以上の高齢者人口は、2000年の2204万人から2013年の3098万人へとわずか13年間で894万人(40.6%)も増えたし、今後も2025年までの12年間でさらに374万人(12.1%)も増える見込みです(国立社会保障・人口問題研究所)。

それに対して、大学入学者の主な対象である18歳人口は2000~2013年度の13年間に151万人から123万人へと、28万人(19%)も減少しました。ピーク時の1992年度(第二次ベビーブーム世代が18歳に到達)の205万人に比べると、なんと82万人(40%)もの減少です。さらに12年後の2025年度には108万人へと、さらに15万人減少する見込みです(文部科学省資料)。このように大学は、市場規模の縮小が運命づけられている典型的な「構造不況業種」と言えます。

医療は公的保険制度で守られている

第2の理由は、医療収入の大半が公的保険制度(法定患者負担を含む)で「守られている」のに対して、私立大学経常費中の国庫助成割合はわずか1割にすぎないことです。実はこの割合は、私立学校振興助成法(1975年成立)では「2分の1以内を補助することができる」とされ、同法の附帯決議では「できるだけ速やかに2分の1とするよう努めること」とされています。しかし、この割合は1980年度の29.5%をピークにして減少を続け、2011年度には10.5%にまで低下しています。

OECD加盟国中、日本の医療費水準(対GDP比)は「下位」ですが、高等教育への公財政支出水準(同上)は「最下位」です(2009年のOECD平均1.1%、日本0.5%)。

診療報酬が一定でも増収可能

第3の理由は収入構造の違いです。診療報酬は出来高払いまたは1日単位の包括払いなので、診療報酬が引き上げられなくても、医療機関は患者数を増やすか、診療密度を増すことにより増収が可能です。DPC方式は一般には「包括払い」とみなされていますが、患者数増加で収入を増やせるという点では、出来高払い的側面が残っています。

それに対して、大学の学費収入は究極の包括払いで、1年定員割れするとその影響が4年間(!)続きます。しかも近年の家計収入減少により、学費値上げは不可能です。ただし、入学者が常時定員を1~2割上回っているブランド大学では、売上高利益率は軽く1割を超しますし、2割台も珍しくありません。

学生獲得の「仁義なき戦い」

第4の理由は顧客構造の違いです。医療には地域性があり、患者の地域(医療圏)間移動はきわめて少ないし、地域内で医療機関の機能分化と連携=「棲み分け」が行われています。それに対して、受験生・学生は都道府県を超えて移動するので、大学間では全国レベルで彼ら獲得の「仁義なき戦い」「弱肉強食の戦い」が繰り広げられています。その結果、首都圏・関西圏のブランド大学の「二人勝ち」状態が続いており、地方の中堅・小規模私立大学は大苦戦を強いられています。

医療では居住地以外の都道府県に「流出」する患者の割合は、全国平均では、入院でも5.7%、外来では2.7%にすぎません(「平成23年患者調査」)。それに対して、大学進学者のうち県外の大学への「流出」率は、全国平均で58.0%にも達しています(「平成24年学校基本調査」)。

医師はよく働く

最後の理由は、医療機関と大学で中心的役割を果たす医師と教員との違いです。医師は(不平不満は言うが)長時間よく働きます。それに対して、文科系大学の教員は、勤務時間がはるかに短い「時間貴族」ですが、権利意識が非常に強く、その上医師に比べてはるかに「弁が立つ」方が多いので、医師以上に管理が大変です。ちなみに、医師の過労死は社会問題にもなりましたが、教員の過労死はあまり聞いたことがありません。

大学教授(48~52歳)の「決まって支給する給与」(各種手当てを含む。賞与換算分は含まない)は69万6054円で、同年齢の(役職のない)医師給与の118万7719円の58.6%にすぎません(人事院「平成24年民間給与の実態」)。しかし、両者の実労働時間当たりの実質「時間給」では、むしろ大学教授の方が高いと思います。

本連載(16)(本誌2012年9月8日号(4611号))で、「私はなぜ『医療は永遠の安定成長産業』と考えているのか?」について縷々説明しました。今回述べた5つの理由はそれを補強するものと思います。

政府の長年の厳しい医療費抑制政策により、医療機関の経営も「バラ色」ではないことは私もよく理解しています。しかし、私大経営に比べれば、まだ恵まれていることもご理解いただきたいと思います。

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2.論文:参院選後の安倍内閣の医療政策を読む

(『日本医事新報』「深層を読む・真相を解く(26)」2013年8月3日号(4658号):26-27頁)

7月21日投開票の参議院議員選挙では、大方の予想通り自由民主党が大勝し、衆参のねじれ国会が6年ぶりに解消しました。本稿では、この選挙結果、および昨年12月の安倍内閣成立以降の閣議決定、および自民党「J-ファイル2013総合政策集」(以下「J-ファイル」)を踏まえて、安倍内閣の今後の医療政策について簡単な予測を行います。

安倍内閣の政治基盤は盤石ではない

その前に、安倍内閣の「不安定性」について私見を述べます。参院選後、藤原帰一氏(国際政治学者)は、3年後に衆参ダブル選挙が行われたなら、「自民党の大勝によって2019年まで[今後6年間]安定政権が生まれる可能性がある」と気の早い予測を行っています(「朝日新聞」7月25日夕刊「時事小言」)。

私もその可能性は否定しませんが、次の3つの理由から、安倍内閣の政治基盤は議席数から考えられるほど盤石ではないとも考えています。(1)自民党は参院選の議席獲得面では大勝したが、比例代表での得票率は34.7%にとどまった。(2)安倍自民党は、原発、憲法、TPP、消費税等、国論を二分するテーマを避け「経済(アベノミクス)」一点張りの選挙戦術により支持を獲得した。(3)アベノミクスの三本の矢(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略)は副作用が大きく、来年以降は、経済が失速する可能性が少なくない。

診療報酬マイナス改定の可能性

医療政策にもっとも影響を与えるのは消費税の引き上げの有無です。「社会保障・税一体改革」では来年4月の8%への引き上げが予定されていますが、安倍首相は、その最終判断を秋に先送りする意向です。もし引き上げが見送られた場合には、財源不足により、来年4月の診療報酬改定で本体部分もマイナス改定になることは確実です。私は、消費税が予定通り8%に引き上げられた場合にも、「一体改革」で予定されていた医療・介護への正味1.2兆円の投入が見送られ、医療費全体はマイナス改定、診療報酬本体もギリギリでプラスマイナスゼロか、わずかのマイナス改定になる可能性が大きいと危惧しています。

その根拠は、財務省の強い影響下にある財政制度等審議会が「一体改革」で予定されていた「医療提供体制の重点化・効率化」が実行されない場合「公費の追加だけが行われることはありえない」と強く牽制しており、「社会保障制度改革国民会議報告」もこの点に踏み込んだ改革を示さない見通しだからです(「朝日新聞」7月26日朝刊)。

しかも、もしTPP参加に向けた米国との個別交渉で、米国が強く要求している新薬創出加算の恒久化や市場拡大算定ルールの廃止が先行的に実現した場合、薬価引き下げ幅が縮小する結果、診療報酬本体も相当引き下げられる危険があると思います。自民党の「J-ファイル」でも、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度の本格導入・恒久化を図る」(252)と明記されています。

医療提供体制改革と患者負担のダークホース

他面、医療提供体制、医療保険制度、地域包括ケア(システム)、介護保険制度については、既定方針通りの「部分改革」が、「社会保障制度改革国民会議報告」のお墨付きを得て、粛々と進められると思います。

厚生労働省の公式文書には明示されていない改革で私が今後実現する可能性が高いと思うのは介護療養病床廃止の再棚上げです。この点は昨年の衆議院「J-ファイル」と今回の参院選「J-ファイル」で次のように記載されました。「介護保険法改正により平成30年まで延長となった介護型療養施設のあり方に関しては、同施設の必要性を重視し、見直しを行います」。今後、「死亡急増時代」到来に備えて死亡場所を確保するためには、老人保健施設に比べ定員当たり死亡数が2~5倍も多い介護療養病床を廃止するのは得策ではないと政府が判断し、介護療養病床廃止が再棚上げされる可能性は大きいと思います。

患者負担増については、70~74歳の高齢者の一部負担の2割への引き上げ(2014年度以降に70歳となる人から順次実施)と紹介状のない大病院の受診者への定額負担の導入が実施されるのはほぼ確実です。

私が気になっているのは、昨年の衆院選「J-ファイル」に続いて、今回の参院選「J-ファイル」でも、「保険給付の対象となる療養範囲の適正化」の具体例として、唯一、「給食給付(医療上必要なものは除く)の原則自己負担化」が書かれていることです。このためには健康保険法改正が必要であり、しかも病院団体が強く反対するのは確実ですが、一般病床と医療療養病床に長期間入院している患者に対象を限定して実施される可能性があると思います。

混合診療全面解禁はありえない

私は、昨年の衆議院議員選挙直後の「談話」(本誌2012年12月29日号)で、「当面は、医療・社会保障制度の大きな改革は行われないと思う」が、「参院選でも自公両党が圧勝した場合は事情が変わる。その場合、その後3年間は国政選挙がないので、医療・社会保障分野に限らず、国民の反発を押し切って、相当強引な改革が行われる危険がある」と予測しました。

実は、私が一番危惧していたのは、参院選で日本維新の会が躍進し、自民党が憲法改正のために維新の会を連立に組み入れた場合、同党の公約に沿って、混合診療全面解禁等の医療分野への市場原理導入論が再燃することでした。しかし、橋下徹共同代表の慰安婦問題を巡る「自爆発言」と維新の会の支持率失墜で、この可能性は参院選前に消えました。

安倍内閣が6月14日に閣議決定した「日本再興戦略」には、土壇場で保険外併用療養費制度のうち「先進医療の対象範囲を大幅に拡大する」ことが盛り込まれました。しかし、参院選「J-ファイル」では、昨年の衆院選「J-ファイル」に書かれていた「現行の保険外併用療養費制度(評価療養)を積極的に活用し、保険収載されていない医薬品、医療機器等をより使用され易くします」という抑制的表現が踏襲されました。

安倍首相も、7月3日の日本記者クラブ主催の党首討論会で「日本再興戦略」の上記記述についての質問に答え、「いわゆる混合診療だが、これは先端医療について範囲を増やしていくもので、今の公的医療保険制度にはほとんど影響はないと言っていい」と断言しました。今後、混合診療全面解禁論が蒸し返されても、実現はありえないと思います。

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3.インタビュー:参院選の自民大勝で、 医療政策はどう変わるか-安倍内閣の成長戦略と医療政策の今後の行方

― 参議院議員選挙の結果、安倍内閣の政治基盤は盤石になったと考えてよいでしょうか。

二木 議席数だけをみると、自民党・公明党の連立与党は大勝しました。次の国政選挙はおそらく3年後の参院選までありません。ここで衆参ダブル選挙になる可能性があり、過去を振り返ればダブル選挙では自民党は常に大勝しています。ですから2016年のダブル選挙によって自民党がみたび勝利し、19年の参院選までの6年間にわたって政権は安定するだろうという見方が多いようです。東京大学大学院教授で国際政治学者の藤原帰一氏も、今回の参院選が「日本政治が相対的安定を迎える転機をつくりだした」と述べています(1)

私もその可能性は否定はしませんが、議席数だけでは見えてこない、以下の3つの要素を考慮すると、安倍政権の政治的基盤は盤石とまでは言えないと考えています。

第1に、今回の改選議席数だけを見れば自民党は121議席中65議席を獲得し過半数を確保しました。けれど非改選議席を合わせれば、242議席中115議席にとどまり、公明党の20議席を加えて漸く過半数に届く数です。憲法改正発議に必要な3分の2以上の議席には遠く及びませんでした。

政党への支持は、政党によっては候補者の擁立がない選挙区ではなく、比例代表の得票結果がより正確に表しています。自民党の比例代表の得票数は1846万票、割合にして34.7%で、3分の1の支持しかありません。しかも1846万票という数字は、民主党が大敗した10年の参院選で獲得した1845万票とほぼ同数です。今回は投票率が下がったという面はありますが、比例代表の得票数・率からみると、自民党への国民の支持が圧倒的とは言えません。

第2が、参院選の争点の設定の「うまさ」です。今この国には、原発再稼働、憲法改正、TPP、消費税引き上げ、そして社会保障改革といったたくさんの論点があります。どれも国論を二分する重大なテーマであり、しかもTPP以外では自民党の政策に反対の国民の方が多いようです。けれど自民党は、これらの問題をすべて隠し、アベノミクス一本に絞る選挙戦術を採用し、大量の議席を獲得しました。

第3の要素はアベノミクス、つまりデフレマインドを一掃する大胆な金融政策、機動的な財政政策、新たな成長戦略の3本の矢を柱とする経済政策そのものの成否です。金融政策はフリードマン、財政出動はケインズ、成長戦略はシュンペーターの論理であり、それらの寄せ集めで成り立つこの経済政策が成功する保証はありません。すでに参院選前から、大胆な金融政策と財政出動は種切れであることが明らかになっていました。3番目の成長戦略についても、特定の産業を念頭に置いた介入主義的政策が含まれるなど、市場競争に反する面もあり、私はきわめて懐疑的です。しかも来年4月に予定通り消費税が引き上げられた場合、激しいデフレが再燃する可能性があります。

以上から、今の段階で議席数だけをみて、今後も自公の安定・長期政権が続くと断定するのは拙速と思います。加えて、安倍首相は党内基盤が弱く、与党内の結束という面からも不安定さが窺え、05年の郵政選挙後に小泉内閣が行ったような独裁的政治を行うことは無理です。医療・社会保障分野に限らず、大改革が断行される可能性は低いと思います。

― 与党の勝利によって消費税率引き上げが現実味を帯びてきたと言えるでしょうか。診療報酬の次回改定へはどのような影響があるでしょうか。

二木 参院選の前までは、自民党が大勝すれば消費税引き上げは8月にも決定されるとみられていました。けれど選挙後、安倍首相は、9月発表の4~6月期国内総生産(GDP)の改定値を待って判断すると発言するなど極めて慎重な姿勢です。財政再建の道筋を示す中期財政計画は、税率引き上げを前提とするはずでしたが、前提とせずにまとめられるようです。

アベノミクスの立役者で内閣官房参与の浜田宏一氏も、増税時期の1年先送りや1%ずつの段階的引き上げにするなどの代替案を示しています(2)

この背景には、97年の橋本内閣の大失敗があります。緊縮財政によって医療費の自己負担割合の引き上げと消費税率の引き上げなどを同時期に一気に行ったために、景気は腰折れし、恐慌の一歩手前まで行きました。デフレ脱却を至上命令とする安倍内閣が、橋本内閣と同じ轍を踏まないようにと苦慮しているのは確かです。

もし消費税の引き上げが延期された場合、財源がありませんから医療費全体としても、診療報酬本体としても、大幅に引き下げられるでしょう。消費税が予定通り引き上げられた場合でも、医療費全体(診療報酬プラス薬価)はマイナス、診療報酬本体は良くてプラスマイナスゼロで、マイナスの可能性もあるとみています。社会保障・税一体改革では、医療・介護の拡充に正味1.2兆円の投入が予定されていました。けれど財務省の強い影響下にある財政制度等審議会が、投入の条件である「医療提供体制の重点化・効率化」が実行されない場合に「公費の追加だけが行われることはありえない」と強く牽制しているからです。

― 参議院選挙の結果を受けても、医療分野における大きな改革はないのでしょうか。

二木 自民党の選挙公約には、具体的な患者負担の増加はほとんど書かれていませんでしたが、参院選前から示されていた「部分改革」が実施されると思います。確実なのは、70~74歳の医療費の自己負担の引き上げです。現在は1割ですが、これは特例措置ですから、法定の2割負担に戻すのは難しいことではありません。ただし、消費税率引き上げと重なることへの懸念から、今後新たに70歳になる人から順次2割へと引き上げていく案が検討されています。さらに紹介状のない大病院の受診者に対する定額負担導入も、ほぼ確実です。

私が気になっているのは、自民党の昨年の衆院選「J-ファイル」に続いて、今回の参院選「J-ファイル」でも、「保険給付の対象となる療養範囲の適正化」の具体例として、唯一、「給食給付(医療上必要なものは除く)の原則自己負担化」という記載があることです。このためには健康保険法改正が必要なので直ぐには実現しないでしょうが、一般病床と医療療養病床の長期入院患者を対象に実施される可能性はあると思います。

昨年末のインタビュー(3)で参院選後はどうなるか分からないと述べたのは、医療分野への市場原理導入を正面から主張している日本維新の会が連立政権に参加する可能性、および竹中平蔵氏など小泉政権時代のブレーンと言われた人たちが安倍内閣でも重きをなす可能性があったからです。しかし参院選前にどちらも消えました。

自民党も、選挙に勝つために敢えて「参院選までは大きな改革はしない」とのメッセージを発していましたが、もともと大きな改革などできなかったのではないかと揶揄する声も聞かれます。いずれにせよ、少なくとも医療・社会保障制度については大きな改革は当面ないと思います。

― 混合診療の全面解禁はないとみていいでしょうか。全面解禁になれば製薬企業は保険外の自由価格市場に流れるとの見方もありますが。

二木 紆余曲折しましたが、日本再興戦略で「先進医療の対象範囲を大幅に拡大する」と記載されました。これで決着をみたと言えるでしょう。安倍首相も7月3日の日本記者クラブ主催の党首討論会で混合診療について、「先端医療について範囲を増やしていくもので、今の公的医療保険制度にはほとんど影響はないと言っていい」ときわめて抑制的に発言しました。

それに対して、毎日新聞は6月15日付の社説で、「製薬会社はあえて厳しい臨床試験を行わなくても高価格の自由診療を選ぶようになり、自由診療の比重が大きくなれば富裕層しか受けられない医療が増える。質の高い医療を受けるためには高額の保険に入らなければならず、米国の企業は従業員に民間保険を提供し、これが経営負担になっているといわれる」と主張しました(4)。大阪府医ニュースも「保険適用の対象になれば国が薬価などの公定価格を決めるので、製薬企業にすれば自由に価格を決定できる保険外併用療養費制度のまま残ることを希望する可能性がある」と述べています(5)。ともに、大手製薬企業と民間保険の両方が混合診療を望んでいるという認識ですが、それは不正確です。

私も、(米国の)民間保険会社は混合診療の全面解禁を望んでいると思います。しかし、製薬企業は日米とも、それを望んでいません。画期的新薬を保険外併用療養費制度の対象として早期に使用可能になることは望んでもそれはあくまで一時的な措置であって、できるだけ早く保険収載されることを求めています。なぜなら、混合診療が全面解禁され、画期的新薬が自由診療とされた場合、製薬企業が自由に高価格を付けても、それを利用できる患者はごく一部の富裕層に限られるからです。これでは1剤あたりの利幅は大きくても販売数量が伸びません。それに対して保険収載されれば、公定薬価は自由価格よりは引き下げられ、1剤当たりの利幅は小さくなりますが、患者負担は大幅に減るため、販売数量は大幅に伸び、トータルな売上高と利益は、ずっと大きくなるのです。

米国通商代表部も、小泉政権時代には確かに、混合診療の解禁を求めていました。どんな団体もそうですが、実現可能性のない時には大法螺を吹き、実現可能性があると慎重になります。彼らも最近は、公定薬価制度の存続を前提にした新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度の恒久化と市場拡大再算定ルールの廃止の2つに、医療分野の要求を絞っています。これは米国政府が柔軟になったのではなく、米製薬企業の利益を考えるとその方が良いからです。

― 自民党の総合政策集J-ファイルの12・13年版、および安倍内閣の閣議決定「日本再興戦略」では、予防医療の積極的な推進が記されています。

二木 予防医療の重視は安倍自民党の専売特許ではなく、民主党菅内閣の「新成長戦略」でも予防医療を重視していました。「新成長戦略」では「健康関連サービス産業」と呼ばれていたものが、今回は「健康寿命延伸産業」と言い換えられただけで、両者の今後の市場規模予測もほとんど同じです。それは当たり前で、両者とも、時の政権の指示を受けて、厚生労働省や経済産業省の同じ官僚がまとめたからです。

予防医療を重視するのには2つの思惑があります。1つはそれにより、病人・患者を減らし、ひいては治療費を抑制したいということです。もう1つは、成長戦略として保険診療、つまり国民医療費の枠内の医療とは別の、予防医療という民間主体の市場を拡大させることです。医療費のうち公費負担割合は約4割弱ですから、公費負担割合が同じであれば、保険医療費が増えれば公費負担も増えます。それに対して、保険診療外の全額自己負担の健康増進サービスが増えれば、公費負担を伴わずに成長戦略に生きるという思惑です。

ただし、予防によって医療費を削減できないことは、日・米両国で行われた膨大な実証研究で結論が出ています。例えば日本では、08年度から開始されたメタボリック症候群対策の先駆けとして、国民健康保険が02~06年にかけて全国33市町村でヘルスアップ事業(モデル事業)を実施しました。これについてシステマティックレビューを行った岡本悦司氏(国立保健医療科学院)は「プログラムの介入後1年間の医療費への効果はバラツキが大きいが、総じて4~5%程度の医療費膨張効果がある」ことを実証しました(6)

米国の厖大な実証研究でも、予防が治療よりも医療費を安くすることは証明されていません。下げるものもあれば、上げるものもあります。一番良い例が禁煙です。禁煙は、確かに短期的には医療費を減らします。しかし余命を延長する結果、生涯(累積)医療費は増えてしまうのです。オランダでのシミュレーション研究では、余命延長が15年内であれば累積医療費は減りますが、15年を超えると逆に増えました(7)。日本でも米国でも政治家や官僚は予防によって医療費が減らせると主張しがちですが、増える可能性の方が大きいと言えます。

次に、予防医療が保険診療とは別の「成長産業」になるかですが、やはり効果はないでしょう。ほとんどの人は短期的な視点しか持てませんから、若くて健康なうちから何十年後を見据えて、全額自己負担の健康増進サービスを購入する人など、ごくわずかでしょう。実は、厚生省は、1986年(今から27年も前!)に発表した「高齢者対策推進本部報告」で、「保健事業において健康産業の育成を図る」ことを目指したのですが、その後全額自費の健康産業はほとんど成長しませんでした。その結果、2006年に小泉内閣が成立させた医療制度改革関連法では、保険者自身が生活習慣病対策を行うことになったのです(8)

ですから私は、予防医療を推進する2つの思惑は、いずれも外れるとみています。

― 参院選前に交渉参加を表明したTPPが製薬産業へ与える影響についてお聞かせください。

二木 以前はTPPに参加すれば、国民皆保険が崩壊する、混合診療が全面解禁されるといった地獄のシナリオも叫ばれていましたが、今ではそうした浮ついた議論は下火になりました。他面、TPP賛成派の人の誰も、TPP参加による医療分野におけるメリットを挙げることができていません。TPP参加によって想定される「今そこにある危機」は、公定薬価と医療機器価格の規制緩和です。これによってブランド薬の薬価が上がれば、患者負担と保険診療費の両方が増え、後者により医療保険財政が悪化します。それが診療報酬のさらなるマイナス改定圧力になる可能性があります。

日本はTPPの全体交渉と並行して、米国との2国間交渉も行っています。自動車の関税撤廃や郵便局での米保険大手のアメリカンファミリー生命保険のがん保険販売などもそこで扱われ、米国の要求通りに「事前決着」しました。TPPの発足そのものは、当初予定の今年末から大幅に遅れる見通しですが、医薬品価格の規制緩和に関しては、TPP発足前に、早ければ来年4月の診療報酬改定前にも、米国の要求通りに政治決着する可能性があります。特に新創加算制度については、自民党の総合政策集J-ファイル2013で「本格導入・恒久化を図る」と明記されていますから。その場合、薬価の引き下げ幅は大幅に圧縮され、それで浮く医療費を財源とする診療報酬改定はますます厳しいものになるでしょう。

― 安倍政権は成長戦略の実現に向け、介入主義的な傾向があるようです。製薬産業に対しても、産業競争力会議および健康・医療戦略室の会合で、官房長官が大合併を勧告するような発言をし、政府の姿勢を示しています。

二木 前回のインタビュー(3)で、小泉元総理と安倍総理の違いについて話しました。小泉氏は新自由主義の権化のような人ですが、安倍氏は伝統的保守の人で、露骨な新自由主義的改革は強行しない反面、各産業に対して介入主義的になりがちです。日本再興戦略でも、産業への介入は医療に限定していません。しかし60年代の高度経済成長期ならまだしも、現代の成熟社会において特定の産業を対象にして政府が介入するターゲッティング政策が奏功しないことは明白です。政府による介入はするべきではないし、一枚岩ではない安倍政権ではとてもそこまではできないと思います。

(インタビューは2013年7月31日に行いました)

引用・参考文献


4. 論文:「福祉」から「ふくし」へ、そして「ふくしの総合大学」へ

(『日本福祉大学同窓会会報』111号:47-49頁,2013年8月10日)

私は、本年4月に学長に就任して以来、入学式式辞や新聞・雑誌のインタビューで本学の紹介をするときに、常に、次の2点を強調しています。(1)本学は、近年の「福祉」の領域・対象拡大を分かりやすく表現するために、漢字の「福祉」ではなく、敢えて平仮名の「ふくし」を用いている。(2)本学は「ふくしの総合大学」を目指しており、この「ふくし」は「いのち」(健康や医療)、「くらし」(漢字の福祉や経済)、「いきがい」(教育や発達)の3つを柱としている。これは、加藤幸雄前学長時代の説明を踏襲したものです。

私は、「福祉」から「ふくし」への発展および「ふくしの総合大学」という説明は、高校生・受験生・学生や一般の社会人にもたいへん分かりやすいと考えています。4~5月の3つの新聞・雑誌インタビューでも好意的に取り上げられました(「朝日新聞」4月23日朝刊、「読売新聞」(中部版)5月6日朝刊)、『週刊東洋経済』5月7日臨時増刊)。

しかし、教職員や本学同窓生の中には、「ふくし」、「ふくしの総合大学」という用語が「ふわふわしていて分かりにくい」、「核がない」等との疑問を持たれている方もいると聞きました。私自身は、平仮名表記の「ふくし」は決して「ふわふわ」したものではなく、その中核に貧しい人々や社会的に恵まれない人々を支える狭義の「社会福祉」、あるいは「万人の福祉のために、真実と慈愛と献身を」との本学の「教育標語」があると理解しています。

ただし、「ふくし」や「ふくしの総合大学」という表現のルーツまでは知らなかったので、私自身の勉強も兼ねて、本学の60年の歴史のなかでこれらの用語がどのように使われ始めたのか、および世の中で「ふくし」という表現がいつ頃から、どの程度使われているかについて調べてみました。

1.本論文の結論・要旨-社会福祉単科大学から「ふくしの総合大学」へ

2.創立後60年の中での本学の自己規定の発展・試行錯誤

(1)社会福祉の単科大学から「人文・社会科学系の総合的大学」へ-1970~1980年代

(2)「ハートウェア・ユニバーシティ」=「人間福祉複合系」の提唱-2000年代初頭

(3)「福祉」から「ふくし」・「ふくしの総合大学」へ-2004~2007年以降

[1]大学の公式文書から
[2]2006~2013年度の「大学案内」等から(「大学案内」の発行年はそれぞれ1年前)
<「福祉」から「ふくし」へ-2004年>
<「ふくしの総合大学」の登場」-2007年>

3.世の中の一部でも「福祉」から「ふくし」へ

[本稿は、本年5月31日に本学の全教職員にメール配信した拙稿に補足したものです。]

参考・引用文献


5.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文

(通算92回.2013年分その5:5論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○プラシーボを対照とした[新薬の治療効果の]低下は効果比較研究における新しい方向を示唆している
Olfson M, et al: Decline in placebo-controlled trial results suggests new directions for comparative effectiveness research. Health Affairs 32(6):1116-1125,2013. [量的研究]

「患者保護・医療費負担適正化法」(オバマ政権の医療保険改革法)は効果比較研究への強い支持を与えているし、この研究は実際に用いられている諸治療間の効果を比較し、それを根拠に基づいた診療の基礎にしようとしている。しかし歴史的には、治療効果研究の基本型はプラシーボを対照とした臨床試験で、特定の治療の効果がプラシーボと比較された。そこで、プラシーボを対照とした新薬の臨床試験の歴史的趨勢を明らかにするために、1966~2010年に英米の主要医学雑誌4誌(BMJ, JAMA, Lancet, New Eng J Med)に掲載されたプラシーボを対照とする315の臨床試験の結果を調査した。その結果、新薬のプラシーボ比の治療効果は著名に減少していた。1980年代までは、プラシーボ対比の治療効果が10を超える新薬もあったが、この比率は傾向的に低下し、2001年以降はほとんどの新薬が2以下になっていた。伝統的なプラシーボを対照とした臨床試験における治療効果の減少は、今後の効果比較研究においては、安全性、忍容性(tolerability)、費用を効果の指標として強調すべきことを示唆している。

二木コメント-論文名・要約とも、なんとも持って回った表現ですが、要するに、プラシーボと比較した新薬の治療効果が傾向的に低下し続けているということです。既存薬やジェネリック薬と比較すれば新薬の治療効果がさらに低下することは明らかで、効果が限定的な新薬に、開発費用が高額であることを理由にして高い薬価を付けようとする最近の政策動向(「日本再興戦略」等)は問題が多いと思います。なお、本論文は『医薬経済』7月15日号(20頁)と8月1日号(59頁)の連載「薬剤経済学」でも詳細に紹介されています。

○[アメリカにおける]電子医療記録の医療費への影響:地域での実践から得られた縦断的比較のエビデンス
Adler-Milstein, J, et al: Effect of electronic health records on health care costs: Longitudinal comparative evidence from community practices. Annals of Internal Medicine 159(2):97-104,2013.[量的研究]

アメリカ政府は全国レベルでの電子医療記録(EHRs)の導入を計画しているが、それが医療費に与える影響を予測する頑健な実証的エビデンスはない。そこで、外来レベルでの電子医療記録を特定地域全体に導入した場合の短期間の費用節減を評価した。国のモデル事業として、マサチューセッツ州の3つの地域で外来診療を行っている医師806人に医療電子記録を導入するための補助金が与えられた。対照群として、6月の地域が選ばれた。介入群の患者は47,979人、対照群の地域の患者は130,603人である。両群の患者の、2005年1月~2009年6月の毎月の民間医療保険の医療費請求データを比較した。この費用には、総医療費、入院医療費、外来医療費とその細分(薬剤、検査、放射線)が含まれたが、医療電子記録の導入費用は含まれなかった。

その結果、医療電子記録の導入は総医療費の伸び率に有意の影響を与えなかったが、外来医療費の伸び率は有意に抑制した。外来医療費を細分すると、画像診断費用のみが有意に低下していた。ただし、本研究はランダム化試験ではなく、しかも導入費用の補助を受けているので、この結果は「ベストシナリオ」の可能性がある。

二木コメント-この報告は、アメリカの医療系メディアでは「電子医療記録は医療費増加を抑制するかもしれない(may)」と大きく報じられたようです(例:HealthDay 2013.7.16)。しかし、費用に医療電子記録の導入費用が含まれない点で、医療の経済的評価としては根本的欠陥があります。しかも、この費用を除いた総費用の伸び率が変わらないのであれば、この費用を含めた正しい経済評価を行うと、医療電子記録の導入が総費用の増加率を加速することは間違いないと思います。

○ヨーロッパの50歳以上人口における民間医療保険
Paccagnella O, et al: Voluntary private health insurance among the over 50s in Europe. Health Economics 22(3):289-315,2013.[量的研究]

「ヨーロッパ健康、加齢および退職調査(SHARE)」データを用いて、11のヨーロッパ諸国の50歳以上人口の民間医療保険加入決定要因およびそれらの医療費に与える影響を調査した。まず、民間医療保険加入の決定要因は国によって異なっており、これは各国の医療制度の違いを反映している。しかし、ほとんどの国で、教育レベルと認知能力は民間医療保険加入とのあいだに強い正の関係があった。次に、民間医療保険加入が自己負担医療費に与える影響を分析した。民間医療保険加入の自己選択を調整するために連立方程式を用いて推計した結果、民間医療保険非加入者に比べて加入者の自己負担医療費が少なかったのはオランダだけであった。逆に4か国(イタリア、スペイン、デンマークとオー外リア)では、民間医療保険加入者の方が自己負担医療費が高かった。この理由は、民間医療保険に加入することにより医療利用が増えることだけでなく、保険者がモラルハザードや逆選択に対抗するために民間保険給付にも自己負担を導入しているためと思われた。

二木コメント-日本と同様に全国民(または大半の国民)対象の公的医療保険制度を有するヨーロッパ11か国の国民を対象にした、個票を用いた大規模かつ精緻な研究で、先行研究の検討や調査結果の政策への含意の検討もていねいに行われています。日本の民間医療保険研究者の必読文献と思います。ただし、民間医療保険が総医療費・公的医療費に与える影響については検討されていません。

○フィンランドにおける1985~2005年の処方薬・一般薬の自己負担額と[家計]所得に対する割合の趨勢
Aaltonen K, et al: Trends and income related differences in out-of-pocket costs for prescription and over-the-counter medicines in Finland from 1985 to 2006. Health Policy 110(2-3):131-140,2013.[量的研究]

フィンランドにおける処方薬・一般用医薬品の自己負担額と[家計]所得に対する割合の趨勢を1985年、1990年、2001年、2006年の「家計調査」データを用いて検討した。所得階級別家計(5段階)の年齢調整済み自己負担額は、共分散分析により比較した。金額はすべてインフレ調整済みの2006年ユーロ表示とした。

家計当たりの平均自己負担額は1985年の138ユーロから2006年の373ユーロへと、21年間に2.7倍増えた。自己負担額のうち処方薬分は各年とも7割弱で一定していた。各調査間の増加率は1990~1995年が一番高く(60%)、1995~2001年が一番低かった(10%)。自己負担額の家計消費総額額に対する割合は0.8%から1.6%に増加していた。下位20%の家計の年齢調整済み平均自己負担額はすべての調査で平均を下回っていたが、家計消費総額に対する割合は平均を上回っていた。以上の結果は、患者負担割合増加による公的医療費の節減は、自己負担額増加と所得階級別家計間の自己負担格差を増すことを示唆している。それに対して、医薬品価格が抑制された時期には、逆の変化が生じていた。

二木コメント-家計の医薬品自己負担額増加の推移を、平均値レベルだけでなく、所得階級別家計間の格差の拡大面でも実証した貴重な研究と思います。

○カナダの家計における私費負担医療費の増加
Law MR, et a: Growth in private payments for health care by Canadian households. Health Policy 110(2-3):141-146,2013.[量的研究]

カナダの公的医療保障制度は病院・医師サービスを包括的にカバーしているが、カナダ人は他の大半の国民よりも多額の私費負担医療費を支払っている。カナダ統計局の1998~2009年の家計調査データ(回答163,081人)を用いて、インフレ調整済みの家計の平均私費負担医療費(民間医療保険料と6種類の患者自己負担医療費の合計)を計算した。さらに、税引き後所得の10%以上を医療費に使っている家計の社会経済的特性を調査した。

2009年にはカナダの家計が支払った私費負担医療費総額は198億ドルに達していた。その内訳は、多い順に、民間保険料59億ドル、歯科の自己負担49億ドル、処方薬の自己負担42億ドル等であった。税引き後所得の10%以上を医療費に使っている家計の割合は1998年の3.2%から2012年の5.2%へと56%も増加していた。このような家計の割合は、高齢者がいる家計、低所得家計で有意に多かった。以上の結果は、この間、家計の私費負担医療費が相当増加したことを示している。

二木コメント-家計の私費負担医療費を、前論文と同じく大規模調査の個票を用いて、民間医療保険の保険料と患者負担医療費別に調査した貴重な調査研究と思います。


6.私の好きな名言・警句の紹介(その105)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の在り方>

<組織のマネジメントとリーダーシップのあり方>

<その他>

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