総研いのちとくらし
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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻162号)』(転載)

二木立

発行日2018年01月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

1.私の日本福祉大学「最終講義」を2回行います

○1月9日(火)午後1時25分~2時55分、日本福祉大学奧田キャンパス320教室。
テーマ:近年の医療・福祉改革とソーシャルワーカーの役割-改革はソーシャルワーカーにとって危機か、好機か?。
対象:主として学部学生と教職員。

○2月24日(土)午後3時~4時半、日本福祉大学名古屋キャンパス8階教室。
テーマ:私の医療経済・政策学研究の軌跡。
対象:主として二木ゼミ(学部・大学院)OB・OGと教職員・院生、学外の研究者。

※共に無料です。2月24日の最終講義は私の「退職祝賀会」の第1部を兼ねます。
同日は、会場で、新著『医療経済・政策学の探究』の販売も行います。
「祝賀会」第2部参加ご希望の方は、私に直接ご連絡下さい。案内状をお送りします。

2.論文「『モラルハザード』は倫理の欠如か?-医療経済学での用法」を『日本医事新報』1月13日号に掲載します(「深層を読む・真相を解く」(71))。論文は「ニューズレター」163号(2018年2月1日配信)に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読み下さい。


1. 論文:『平成29年版厚生労働白書-社会保障と経済成長』を複眼的に読む
(「二木教授の医療時評(155)」『文化連情報』2018年1月号(478号):14-20頁)

はじめに

厚生労働省は2017年10月24日の閣議に、『平成29年版厚生労働白書(平成28年度厚生労働行政年次報告書)』を報告し、同日公表しました。副題は「社会保障と経済成長」であり、これが第1部のテーマにもなっています。

『厚生(労働)白書』(以下、『白書』)は過去何度も副題で「社会保障」を取り上げてきました。過去10年間だけでも4回取り上げています。それらは、平成20年版「生涯を通じた自立と支え合い-暮らしの基盤となる社会保障を考える」、平成22年版「厚生労働省改革元年-参加型社会保障の確立に向けて」、平成23年版「社会保障の検証と展望」、平成24年版「社会保障を考える」です。平成22~24年版は、いずれも民主党政権時代のもので、第2期安倍政権下の『白書』が副題に「社会保障」を取り上げるのは今回が初めてです。

意外なことに、『白書』が副題で「社会保障と経済(成長)」を取り上げるのは今回が初めてです(「医療時評」(156)で詳述するように、章・節レベルで取り上げたことは、「社会保障」を副題に含まない『白書』を含めて、何度もあります)。安倍政権の2016年6月の閣議決定「ニッポン一億総活躍社会プラン」で「成長と分配の循環」が打ち出され、取り組みが進められていることを踏まえて、今回の副題が選ばれたようです。

『平成29年版白書』第1部は、第1章「我が国経済社会の中の社会保障」、第2章「国民生活と社会保障」、第3章「成長という視点から見た社会保障」の3章構成です(全180頁)。以下、副題ともっとも関連のある第1章を中心に、過去の『白書』の記述との比較も交えながら検討します。

社会保障の役割と機能

第1章は3節で構成されています。第1節「社会保障の役割と機能」では、社会保障の目的が、社会保障制度審議会「1950年勧告」の「最低限度の生活の保障」を行うものから、同審議会「1995年勧告」の「広く国民に健やかで安心できる生活を保障すること」へと変化してきたことが示されています(4-5頁)。
なお、このような社会保障の目的・対象の拡大を最初に述べた白書は『昭和41年度版白書』(副題:生活に密着した行政)で、「総説」の「はしがき」の冒頭(1頁)で、次のように述べていました。「現代福祉国家は、人間の『健康で文化的な生活』が、現実の世界においては、各種の障害によって侵害されており、または侵害の恐れをもっていることを認識しつつ、『健康で文化的な生活を営む権利』を保障するためには、行政の力によってそれらの障害を除去し、発生を防止し、さらには、より健康でより文化的な生活を実現することが、必要であり、かつ効果的であるという考え方にたって、そのための行政を整備することを自らの任務としている」。

第1節は、「社会保障の機能は、主として、①生活安定・向上機能、②所得再分配機能、③経済安定機能の3つ」をあげ、それぞれについて詳しく検討しています(8-9頁)。この社会保障の3機能説は『平成20年版白書』から採用されています(7-15頁)。

「経済社会の変化と社会保障」で注目すべき3点

第1章第2節「経済社会の変化と社会保障」は4本柱で、それぞれ「我が国の社会保障の特徴」、「我が国の社会保障を取り巻く状況の変化」、「社会保障と税の一体改革」、「ニッポン一億総活躍プラン」を説明しています。私は本節で、以下の3点に注目しました。

第1点は、「我が国の社会保障給付の規模は、OECD加盟国平均をやや上回る水準」に達した反面、「高齢化の進展度合いから見ると、我が国の社会保障給付の水準は相対的に低い」と認めていることです(15-16頁)。「高齢化率と社会支出の国際比較」の相関図(図1)をみると、日本が「外れ値」であることは一目で分かります。この事実はほとんど報じられていないだけに貴重です。

なお、同じ関係が医療費についても言えることは、前田由美子氏が2016年に示しています(図2)(1)。私も本「医療時評」(145)で、「日本の医療費(対GDP比)は最近OECD加盟国中第3位になったが、加盟国の高齢化率の違いを補正すると、日本は『高医療費国』とは言えない」と指摘しました(2)。『白書』は、図らずもこの指摘にお墨付きを与えてくれたと言えます。

第2点は、「高齢者1人を支える現役世代の人数は大きく減少しているが、労働参加が適切に進んだ場合、非就業者1人に対する就業者の人数は増加する可能性」があることを、認めたことです(20-21頁)。「高齢者現役世代比と非就業者就業者比の推移と予測」図(図3)では、①「高齢者1人を支える現役世代の人数」は2000年3.9人→2010年2.8人→2030年1.9人へと大きく減少する反面、②「非就業者1人に対する就業者の人数」は同じ期間に、1.00人→0.93人→1.12~0.91人とほとんど変化しないことがキレイに示されています。この図は、「読売新聞」が権丈善一氏の主張と試算をベースにして2012年に報道した「人口構成の変化と就業者数の推移」図(図4)とほとんど同じです。昨年版(7頁)までの『白書』が①のみを述べ、「高齢社会危機論」を煽る役割を果たしてきたことを考えると、『平成29年版白書』が②の事実を示したことは画期的と言えます。

なお、過去の『白書』を調べたところ、31年前の『昭和61年版白書』が、②に近い指標を示していることが分かりました。具体的には、「年齢構造指数の推移」図(11頁)で、大正9年~昭和100年(西暦2025年)の「老年人口指数(老年人口÷生産年齢人口。①の逆数)だけでなく、「従属人口指数」((年少人口+老年人口)÷生産年齢人口。②の逆数に近い)を示していました。

第3点は、第1章第2節4に示されている「ニッポン一億総活躍プラン」に基づく「成長と分配の好循環メカニズムの提示」図(26頁)が、『平成22年版白書』に示されていた、民主党菅内閣の「新成長戦略によりもたらされる好循環のイメージ」図(「参加型社会保障と経済・財政の関係」(161頁))と類似していることです。このことは、「成長と分配の好循環」が「アベノミクス」・「一億総活躍プラン」の専売特許ではないことを示しています。

「分配」と「成長」の関係の分析は初めて

第1章第3節「『分配』と『成長』の関係」では、まず「経済成長と所得格差の関係」についての経済学の分野における議論について、「市場経済を重視する経済学」の考えとそれを批判するピケティ、アトキンソンの主張の両方を紹介しています。次に、「格差や再分配が経済成長へ及ぼす影響に関する[2000年以降の-二木]実証分析」を紹介し、「少なくとも[市場経済を重視する-二木]経済学の分野でよくいわれる『効率性』と『公平性』のトレードオフは、単純には当てはまらない、ということだけはいえるのではないだろうか」と控えめに述べると共に、「近年の分析では、格差は成長にマイナスの影響を及ぼす」との、OECDやIMFの研究を紹介しています(31-32頁)。

これらを踏まえて、最後に、以下のような、4つの「我が国への示唆」をあげています:「格差の是正は世界共通の課題、分配政策について考える必要性が高まっている」、「成長という視点をもって社会保障を考える必要」、「成長という視点からあるべき分配政策を見極めていく」、「成長の視点を踏まえた社会保障とは」(34-35頁)。

第3節のような視点の記述は『白書』では初めてであり、「我が国への示唆」の見出しが「成長」偏重のきらいがあるものの、その内容も概ね妥当と思います。

社会保障の経済成長等効果の定量的推計はない

以上、第1章について注目すべき点を中心に紹介してきましたが、本年の『白書』には、過去の「社会保障と経済」の関係を論じた『白書』で定番的に示されたことが一つ抜けています。それは、社会保障が経済成長・雇用・地域経済等に与える(好)影響の定量的推計です。

これを最初に行ったのは『平成7年版白書』(副題:医療-「質」「情報」「選択」そして「納得」)で、第1部第5章「国民経済と医療」で、医療経済研究機構が開発した医療部門の「産業連関表」等を用いて、「医療の生産の活発化は経済を活性化させる」ことや「医療は多くの雇用を創出している」ことを実証しました(123-139頁)。

『平成11年版白書』(副題:社会保障と国民生活)は、産業連関表等を用いて、社会保障全般の経済効果(1次効果、2次効果)、雇用に与える効果、地域経済に与える効果を定量的に推計しました(31-34頁)。その後も、平成20年版と平成22年版の白書は、同様の定量的推計を行いました。
「社会保障と経済成長」を副題とする『平成29年版白書』にそれがないのは残念です。

第2章の注目点と疑問

第2章「国民生活と社会保障」は、家計所得、賃金、資産、所得再分配の動向を膨大なデータに基づいて多面的に分析した「データブック」と言えます。
私はこの分野の専門家ではありませんが、次の2点に注目しました。

まず「家計所得の動向」(第1節)については、「1世帯当たり平均総所得金額減少の大きな要因は高齢者世帯割合の増加」だが、高齢者世帯以外の世帯でも「世帯総所得400万円未満の世帯割合が増加」していること、および世帯主が30~39歳、40~49歳、50~59歳未満の世帯では、いずれも、「世帯総所得300万円未満の世帯割合が増加」していることです(38-45頁)。

次に「賃金の動向」(第2節)については、「30~40歳代の男性一般労働者の所定内給与額は減少傾向」で、その理由は「バブル崩壊後の採用抑制と賃金制度の見直しによる影響の可能性」があることです(66-67頁)。なお、小野善康氏は新著『消費低迷と日本経済』で、2008年のリーマンショック後の就業者数の激減は男性就業者でのみ生じ、2012年以降の就業者数の増加は女性就業者のみで生じ、男性就業者は横ばいにとどまっていることを明らかにしています(3)

ただし、私は第2章中の「相対的貧困率の動向」と「所得再分配の動向」の記述について疑問・物足りなさも感じました。前者について、白書は「全世帯員、現役世代及び子どもの相対的貧困率は上昇傾向にあったが直近[2015年]では低下」していると述べています(60-62頁)。後者については、「当初所得金額階級別1世帯当たりの受給額・負担額」図(2013年)では、低所得層・中所得層(当初所得550万円未満)では、現物給付(保育・介護・医療)と現金給付を併せた「受給額」が「負担額」を上回っているし、400万円未満の層では現金給付だけでも負担額を上回っています。このことから、最近の貧困対策、所得再分配政策が効果を現しているように思えます。

しかし、著名な社会保障研究者の大沢真理氏(東京大学教授)等は、OECDのTaxing Wagesの最新の2015年データを用いて、社会的に特に弱い層(ひとり親世帯等)の現金給付は負担額を上回っていることを確認しています。このデータの対象はフルタイムの就業者で雇用者の社会保険を適用されているという設定ですから、現金給付は児童手当に限定されます。就業していない人を含めても日本の所得所得再分配は低所得者に対して薄いそうですが、就業している低所得者にとっては、「社会保障の逆機能」が生じており、彼らは「税・社会保障制度によって虐待されている」と厳しく批判しています(4)。『平成23年版白書』も、OECDの2008年報告書に基づいて作成した「子ども貧困率、当初所得と再分配後の比較」図で、以下のように述べています。「日本の『子どもの貧困率』に関しては、:国際的にみて高い水準にあること:再分配前後で比較した場合に、再分配後の方が貧困率が高くなること(日本のみ)が指摘されている」(109頁。ただし、ここでの「再分配」は現金給付のみを対象にしており、現物給付は含みません)。

貧困の克服と所得再分配が社会保障の原点であることを考えると、『平成29年版白書』が最新のデータを用いてこの点の「追試」をしていないのは残念です。

第3章は平板、国民意識の分断は深刻

第3章は「成長という視点から見た社会保障」という大変魅力的な章名です。しかし、第1節は年金・医療保険・介護保険等、第2節は「就労と所得向上の支援」、第3節は「社会保障分野における技術進歩」についての最近の施策に関する平板な解説にとどまっており、物足りなさを感じました。

第3章第4節では「社会保障の在り方に関する国民の意識」についての最新調査(2015年)結果が示されています。私は、「社会保障の給付・負担バランスは、高齢層や高所得層で負担増を容認する割合が高い」反面、低所得層(等価所得200万円未満)では低いことに注目しました。このような国民意識の分断は、低所得層における「負担感」の重さを反映しており、現在の制度・政策のままでは、今後の社会保障費拡大の財源確保が困難であることを暗示しています。

【注】里見賢治氏は1982年に社会の扶養負担が増加しないことを詳述

私は「医療時評(145)」で「今後も社会の扶養負担は増加しない」ことを指摘した時に、先行研究として、伊東光晴氏(1982年)、川口弘・川上則道氏(1989年)、権丈善一氏(2001,2015年)をあげました(2)。しかし、この時は、里見賢治氏が1983年に発表した「『高齢化社会』論と福祉政策-通説的『高齢化社会』論への疑問」をあげるのを失念していました。 里見氏は、この論文で前年の伊東氏の主張をより詳しく展開すると共に、年少人口と老年人口の「生計費の差」も検討し、「年少人口の平均必要生計費の方が老年人口のそれよりもむしろ高い、少なくとも前者が後者を下回ることはないと推計して大過」ないと結論付けました(5)。里見氏は、これらの主張を『日本の社会保障をどう読むか』で、さらに詳しく検討しています(6)

文献

[本稿は『日本医事新報』2017年12月2日号掲載の「『厚生労働白書-社会保障と経済成長』をどう読むか」(「深層を読む・真相を解く」(70))に大幅に加筆したものです。]

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2.論文:過去の『厚生(労働)白書』中の「社会保障と経済(成長)」関連の記述の変遷
(「二木教授の医療時評(156)」『文化連情報』2018年1月号(478号):20-28頁)

厚生(労働)白書』は『昭和31年度版』が発行され、『平成29年版』が60冊目になります(昭和42年版と平成6年版は発行されていません)。『平成29年版』を検討する基礎作業として、全『白書』の「社会保障と経済(成長)」関連の記述をチェックしました。具体的には手持ちの各『白書』の現物の副題と目次をチェックし、それを手がかりにして、本文中のの「社会保障」または「経済」関連の記述を読みました。本稿ではその結果を照会します。なお、すべての『白書』の全文は厚生労働省のホームページに公開されています。

『白書』のスタンスの変遷と注目すべき『白書』

『平成29年版』を含めて60冊のうち、副題に「社会保障」を含んでいたのは16冊で、ほぼ四分の一です。副題に「社会保障」が入ることには「波」があり、昭和48~52年版は5年連続、平成22~24年版(民主党政権時)は3年連続で「社会保障」を副題に含んでいました。ただし、「社会保障」が副題に含まれていても、「社会保障と経済(成長)」に触れていることは少なく、逆に副題に「社会保障」を含まなくてもそれに触れている『白書』も少なくありませんでした。

『白書』の記述から、厚生(労働)省の「社会保障(と経済)」に対するスタンスは大きく、以下の3つの時期に別れると感じました。

第1期は昭和31年度版(1956)~昭和44年版(1969)(~ギリギリ48年版)です。この時期は国民皆保険・皆年金制度発足前~高度成長期で、ほとんどの『白書』が社会保障の拡充を主張していました。この時期の『白書』で、「社会保障と経済」についての特に注目すべき記述があるのは昭和35年版と昭和43年版の2冊と言えます。

第2期は昭和50年版(1975)~63年版(1988)です(昭和45~49年版は過渡期)。この時期は、1973年のオイルショックを機にした低成長への移行期で、『白書』は一転して、社会保障の見直し・抑制を主張するようになりました。これは時の政権の「社会保障・福祉見直し」政策に対応しています。この主張が最も鮮明になされているのは『昭和58年版白書』です。しかし、この時期の『白書』で、「社会保障と経済(成長)」について正面から論じたものはありません。

第3期は平成元年版(1989年)以降で、社会保障費抑制のトーンは弱まるか、正面からはそれに触れなくなりました。それに代わって、この時期には「社会保障と経済(成長)」の関係を中立的・実証的に論じる『白書』が現れました。それらの中で特に注目すべきは、『平成7年版』(ただし医療に限定)、『平成11年版』、『平成20年版』、『平成24年版』(副題:社会保障を考える)の4冊だと思います。特に『平成24年版』は「社会保障の優れた教科書」にもなっており、本『医療時評』(107)で詳しく検討しました(1)

以下、上記3期別に、『白書』の「社会保障と(経済)」またはそれに関連した注目すべき記述を紹介します。白書の年(度)版の次の[ ]は副題です。「社会保障と経済(成長)」について少しでも触れた『白書』の年度名と副題中の「社会保障」、及び『白書』中の重要図表と重要表現はゴチック表示しました。]

第1期(社会保障拡充主張期)の記述

昭和36年(1961年)の国民皆保険・皆年金制度発足直前に発表された昭和31~35年度版『白書』は、5年連続で、「社会保障と経済」の関係を論じ、しかも社会保障拡充の主張は年々熱を帯びました。ただし、いずれも副題に「社会保障」はありませんでした。

『昭和31年度版 [国民の生活と健康はいかに守られているか]』は序章「わが国の人口問題と社会保障」の最後「社会保障制度の役割」で、以下のように述べました:「社会保障制度による所得の再分配によって、低位の所得階層に対して所得の補給を行い、その所得水準・生活水準を引き上げる」。「一方、社会保障制度についても、それが所得の『再分配』による施策である以上、国民所得の大きさとの均衡ということから、おのずからその規模と範囲を限定されることは否定できない」(9-11頁)。

『昭和32年度版[貧困と疾病の追放]』は第一章「国民生活と社会保障」第四節「社会保障-貧困追放への途」四「わが国社会保障の進路」の最後で次のように述べました:「社会保障は国民生活の安定策であるとともに、その合理化の施策であり、貧困と闘う個々人や個々の家族の努力を社会的に結集し、これを高度に効率化するための施策である(中略)。/中進国における社会保障の課題とは、かかる国民生活の合理化施策としての社会保障を、高度の経済成長の達成の要請とよく調和する形において、最も合理的・効率的に推進するという点にある」(51頁)。

このように、両年度版は、社会保障の役割を所得再分配に限定し、しかも「国民所得の大きさとの均衡」、経済成長との「調和」を強調していました。

『昭和33年度版[厚生省創立20周年記念号]』は、第一部「総論-国民生活と社会保障」第四節「社会保障への期待」三「社会保障と国民経済」で、社会保障の経済的役割として、「再分配機構」、「景気対策」、「景気調節的機能」・「経済の自動安定装置」、「雇用合理化効果」、「国民の消費生活を合理化し、資源の浪費を排除し、効率的に消費内容の向上を図る」をあげました(34-36頁)。これが『白書』での、社会保障の経済効果についての初出です。

『昭和34年度版[福祉計画と人間の福祉のための投資]』は第一部総説の序で、「経済計画に加えてこのような[国民生活の向上を図る-二木。以下、[ ]は私の補足]福祉計画」が必要、「経済計画のうえでこれまで消費としてとらえていたこれらの支出をあえて『人間投資』という概念では握する」、「人間の福祉のための支出、ここにいう『人間投資』は、まさに生産力効果をもつ『投資』」と主張しました(10~12頁)。これは、『白書』での「福祉計画」、「人間投資」論の初出と言えます。

『昭和35年度版[福祉国家への途]』は第一部第一章の序説で、「社会保障が経済成長にとってマイナスの効果を持つ」として消極的な対応しかしない考え方に対して、社会保障の経済効果として経済後退期の平準化効果を説き、「経済成長を重んじる立場に立っても、社会保障はじゅうぶん支持されなければならない」とし、「社会保障が人的能力の向上という面を通じて、経済成長に測りがたい至大の効果を持つということに着目するならば、社会保障の充実は、瞬時もこれをためらうべきではない」と主張しました。さらに、『白書』は、このような「社会保障プラス効果論」からさらに一歩踏み込み、「福祉国家における社会保障の実施は、基本的には、社会連帯と生存権尊重の思想から要請されるものであり、その要請は、いわば実利的判断を超越した絶対的なものに基づいている」として、減税、社会保障、公共投資の三つの施策のうち「社会保障の最優先性を主張」しました(8~11頁)。表現に一部行き過ぎの面もありますが、『昭和35年度版白書』からは、当時の厚生省の社会保障拡充に向けた熱い熱気が伝わってきます。

昭和36~38年度版の『白書』からは、3年連続で「社会保障と経済」の記述はなくなりました:『昭和36年度版[変動する社会と厚生行政]』、『昭和37年度版[人口革命]』、『昭和38年度版[健康と福祉]』。

『昭和39年度版[社会開発の推進]』は、第2部第1章第1節社会保障の国際比較で、初めての本格的な国際比較を行いました。その中の「[社会保障と]経済成長との関連」の項で「社会保障給付率と経済成長率との関連」(相関)図を示し、両者には「おおむね正の相関が認められる」として、「社会保障は、有効需要の下ささえ、人間能力の培養[ママ]などにより、経済成長を直接、間接に支援している」、このことは「『高成長、高福祉』の可能性のあることを示す」と主張しました(83頁)。

『昭和40年度版[40年代の道標]』は、序章第2節「社会保障の拡充」で、「わが国の社会保障制度は(中略)西欧諸国に比べてまだかなりの遅れがみられる」として、「少なくとも40年代中には、現在の西欧諸国と同程度の水準まで社会保障を拡充させていくということが、厚生行政の今後の大きな道標になる」と宣言しました(23-24頁)。

『昭和41年度版白書[生活に密着した行政]』には「社会保障と経済」についての記載はありませんでした。冒頭述べたように、『昭和42年度版白書』は発行されませんでした。

『昭和43年版「広がる障害とその克服」』は「年度版」から「年版」に表記が変わりました。本白書は『昭和35年度版』と並ぶ「熱い」白書で、異例なことに、厚生大臣は「昭和42年度厚生労働行政年次報告書の発表に際して」で、以下のように主張しました:「昨今、いわゆる財政硬直化にからみ、あるいは社会保障の充実を図ると経済成長が阻害されるとか、あるいは社会保障関係費の増高傾向が財政を圧迫し景気調整を困難にするとかの論をなすものが散見されますが、これは、以上述べてまいりました人間尊重の理念をその根底に置く厚生行政推進の観点からすれば、まことに寒心にたえないところであります。そもそも経済政策といい、財政政策といい、すべては望ましい国民生活の実現の手段であることを協商すべきでありましょう」。

大臣のこの熱いメッセージを受けて、「はじめに」の4「経済成長と[生活の]障害の克服」では、次のように主張しました。「厚生行政が最も根底において経済そのものをささえていることを忘れてはならないであろう。もとより、これらの施策は、経済の論理を超越した『人間そのものの尊重』という理念に基づいて実施されるものであるが、経済が人間の活動の一側面であることから当然に人間の健康を保持増進させ、生活の安定を図ることは、とりもなおさず、労働能力を高めて経済そのものの円滑な成長をささえる結果となることは否定すべくもない。(中略)このように厚生行政は、経済の側面からこれをみれば、その成長をささえるもっとも基本的な分野を担当しているということがいえるであろう」(15頁)。さらに、「経済成長率と社会保障給付率」[の相関図]を示し、「高い社会保障給付が経済成長を鈍化させるという関係は見出すことができない」ことを再確認し ました(18頁) 。この相関図は『昭和39年度版白書』の相関図の改良版と言えます。

『昭和44年版白書[繁栄への基礎条件]]は、総論第6節「社会保障の推進」で、社会保障給付費の① EEC グループ、②北欧及び英連邦グループ、③日本の間の比較を行い、「社会保障給付の水準を西欧諸国並みに引き上げていくことは、われわれの一つの目標である」と主張しました (40-45 頁)。なお、後述する『平成11年版白書』は、『昭和44年版白書』を引用し、社会保障は「繁栄の基礎条件」であると述べました (80頁) 。私は社会保障の国際比較の対象として、アメリカを入れていないのはたいへん見識があると感じました。

『昭和45年度版白書[老齢者問題をとらえつつ]』、『昭和46年版白書[こどもと社 会]』、『昭和47年版[近づく年金時代]』には、章・節名に「社会保障 」はありません。

『昭和48年版白書[転機に立つ社会保障] 』は初めて、副題に「社会保障」を用いましたが、本文の章・節名には「社会保障」はありませんでした。しかし 、総論の「むすびに」の最後で、「ゆとりある安定した国民生活を目ざす高福祉社会の実現」を掲げました(110頁) 。私は1994 年に出版した「 世界一」の医療費抑制政策を見直す時期』で、当時の「厚生省の方向転換の模索は伝統的路線への『先祖返り 』」と指摘し、『白害』の「『高福祉社会』を目ざす主張は、1970 年代前半まで継続した」として、この記述を引用しました (2)

『昭和49年版白書[人口変動と社会保障]』の章・節名に「社会保障」はありません。

第2期(社会保障費抑制主張期)の記述

昭和50~63年版は、第1期と逆に「社会保障費抑制」の主張を前面に出しました。

『昭和50年版白書[これからの 社会保障] 』は、3年連続で副題に「社会保障」が入っ ていましたが、そのスタンスはそれまでとは真逆でした。具体的には、「総論」のはじめにで、「高福祉の達成とそれに見合った負担の実現という二つの困難な課題」を提起し (5頁)、第l章第1節3「国際的にみた我が国の社会保障の水準 」で、「年金制度が既に制度的には西欧諸国のそれと比肩しうる」、医療費保障も「国際的にみて遜色がない」と主張しました (12頁) 。ただし、「社会保障と経済」の記述はありませんでした。

『昭和51年版白書[婦人と社会保障]』は「社会保障」を副題にしつつも、本文ではそれに関連するのは「社会保障に関する婦人の意識」 だけでした。

『昭和52年版白書[高齢者社会の入り口に立つ社会保障]』で特記すべきことは、総論第 1 章第l 節2「社会保障給付費及び負担の国際比較」で、「65 歳以上人口と社会保障給付費の推移」図(図1 )を示し、「現行制度はその潜在水準として欧米並み」と主張したことでした (11,13 頁) 。これは、日本の社会保障費水準は人口高齢化が進むと自動的に西欧並みになると恩わせる(錯覚させる)図の初出です。同様の図は『昭和58年版白書』(9頁)、 『平成8年版白書 』 (105 頁)でも示されました。しかし後述するように、『平成 20 年版白書』にはそれを否定する図が掲載されました。

このように、昭和48~52年版まで5 年連続で、「白書」の副題に「社会保障 」が含まれていましたが、「社会保障と経済」の記述はありませんでした。

『昭和53年版[健康な老後を考える]』は章・節名に「社会保障」はありませんでしたが、社会保障・福祉見直しを象徴する有名な(悪名高い?)三世代同居を「福祉における含み資産」と見なす主張が初めてなされました (91頁)。同じ表現は『昭和55年版白書』にも再掲されました(174頁) 。

『昭和54年版[日本の子供たち-その現状と未来]』は、総論第4章第3節「高齢化社会へ向けての社会保障の課題」で、「社会保障諸制度の効率化の推進」を掲げました(183頁) 。さらに、「我が国の社会保障給付費の対国民所得費は「西欧諸国にそん色のないものであるということができる。更に、現実に75年[西暦2000年]になり、医療費の伸び等のその他の要素を考慮すればこれを上回ることは確実である」と予測しました(183頁)。これは、『白書』における社会保障「効率化」の初出です。さらに、日本の社会保障水準が将来西欧諸国を「上回ることは確実」との認識に基づいて、その後、社会保障費の厳しい抑制政策が実施されました。この点で、記念碑的白書と言えるかもしれません。ただし、「社会保障と経済」についての記述はありません。

『昭和55年版白書[高齢化社会への軟着陸をめざして]』は 、総論第3章第2節2「」社会保障と国民経済」 (162-163頁)で、「社会保障と国民経済図」に基づき、「社会保障の経済効果」を「需要面からみた経済効果」について簡単に論じました。これは、第2期(社会保障費抑制主張期)の『白書』としては異例と言えます。

『昭和56年版白書[国際障害者年-『完全参加と平等』をめざして]』は、章・名に「社会保障」の記述はありませんでした。

『昭和57年版白書[高齢化社会を支える社会保障をめざして] 』は、昭和52年版以来5年ぶりに副題に「社会保障」をつけました。しかし 、「社会保障と経済」については、社会保障の「所得再分配の機能」にチラリと触れただけだした(11頁) 。

『昭和58年版白書[新しい時代の潮流と社会保障]』は、本編第1章第2節「社会保障の転換期」で、「欧米先進国の国々に共通した現象となっている社会の活力の低下」を踏まえて、「我が固独自の福祉社会の実現に努めなければならない。すなわち 、自立自助・社会連帯の精神、家庭基盤に根ぎす福祉、民間活力の活用、効率的で公平な制度を基本として将来にわたるゆるぎない活力ある福祉社会の建設をめざす必要がある」と主張しました(13頁) 。さらに、「社会保障制度の役割の明確化」として、「社会保障が担うべきものについては安定的にかつ有機的に機能しうる芯の強い制度としていく必要 」があり、「社会保障が果たすべき役割を超えるような需要に対しては、民間活力の積極的な導入を図っていく必要がある」と主張しました(14頁) 。本編の「おわりに」では「個人の自助努力を前提とした上で、国民の連帯による 相互扶助を組織化して社会の安定を図るという社会保障の原則ともいうべき考え方に立ち返る」ことを主張しました (134頁) 。これらの「社会保障の原則」 (というより従来の原則の変更)は、当時、中曽根内閣が臨時行政調査会をテコにして進めていた厳しい社会保障費抑制・福祉見直し政策に対応したものです。

『昭和59年版白書[人生80年時代の生活と健康を考える]』の本編第1章人生「80年時代への社会保障の対応」には、「社会保障と経済」の記述はありません。

『昭和60年版白書[長寿社会に向かつて選択する] 』は、第1章「長寿社会における社会保障」で、「公と民の役割を見直し、民間の創造力を最大限に発揮させる」(2頁)、「基礎的、必需的なレベルを超えるニードについては、適切な私的サービスを育成し、これに委ねていくべき」と主張しました (6頁)。 しかし、「社会保障と経済」の記述はありません。

『昭和61年版白書[未知への挑戦-明るい長寿社会をめざして]』の第1編第1章「社会保障制度の再構築へ向けて」は『昭和60年版白書』と同じトーンですが、やはり「社会保障と経済」の記述はありませんでした。本白書で注目すべきことは、「年齢構造指数の推移」図に、大正9年~昭和100 年(西暦2025 年)の「老年人口指数」(老年人口÷生産年齢人口)だけでなく、「従属人口指数」 ( ( 年少人 口 +老年人口)÷生産年齢人口)を示したことです(この意味は、「医療時評(155) 」参照) 。

『昭和62年版白書[社会保障を担う人々-社会サービスはこう展開する]』は、社会福祉士・介謎福祉士制度発足に対応していますが、「社会保障と経済」の記述はありません。

昭和63年版白書 [新たな高齢者像と活力ある長寿・福祉社会をめざして]』に含まれていた厚生省・労働省「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について」の「基本的考え方」の③は「人口高齢化の進展等に伴い、長寿・福祉社会を実現するための国民の負担は 、長期的にはある程度の 上昇は避けられないが、経済の発展、社会の活力を損なわない程度にとどめる」とされていました (201頁) 。しかし、これ以外の「社会保障と経済」の記述はありませんでした。

第3期(中立的分析期)の主な記述

平成元年~5年版の『白書』は5年連続で、副題にも章・節名にも「社会保障」が含まれませんでした:『平成元年版白書[長寿社会における子ども・家庭・地域]』、 『平成2 年版白書[真の豊かさに向かつての社会システムの再構築]』、『平成3年版白書 [広がりゆく福祉の担い手たち-活発化する民間サービスと社会参加活動]』、『平成4年版白書[国連・障害者の十年]』、『平成5年版白書〔未来をひらく子どもたちのために一子育ての社会的支援を考える]』 。

『平成7年版白書 [医療-質」「情報」「選択」そして「納得」]』は、第 1編第1 部第5章国民経済と医療第2 節「医療と産業」(123-139頁)で、医療経済研究機構が開発した医療・福祉領域の産業連関表等を用いて 、「医療サービスの生産の活発 化は経済を活性化させる 」こと、「医療は多くの雇用を創出している」ことを、定量的に示しました。これは、医療分野に限定されているとは言え、『白書』としては初めての産業連関表を用いた「社会保障と経済(成長) 」についての分析です。

『平成8年版白書[家族と社会保障-家族の社会的支援のために]』の第1部第3章第3節「新たな社会保障制度の確立に向けて」には、「社会保障と経済」の記載はありませんでした。

『平成9年版白書[「健康」と「生活の質」の向上をめざして ] 』は、第2編のIで世界の社会保障制度を論じ、「欧米諸国の社会保障制度」に加えて、初めて「アジア諸国の社会保障制度」を取り上げました。ただし、第1編の章・節名に「社会保障」はありませんでした。

『平成10年版白書[少子社会を考える]』は第2部第l章第1節社会保障構造改革の枠組みで、「民間活力の導入を促進する観点から、規制緩和を推進し、競争を通じて、より良質なサービスが受けられるようにしていくべき」と、今から振り返ると極めて甘い見通しを述べました (230-231 頁) 。

『平成11年版白書 [「社会保障と国民生活」]』は「社会保障と経済」について、初めて本格的に論じた白書です。第1編第1部第l章第3節2では、社会保障の機能を「①社会的安全装置(社会的セーフテイネット)、②所得再分配、③リスク分散、④社会の安定及び経済の安定・成長」の4 つに整理しました(31-34頁)。同第2章第4節3「社会保障の経済効果」では、産業連関表等により、社会保障の経済効果(1次効果、2次効果)、 雇用に与える効果、地域経済に与える効果を定量的に推計しました(80-95頁)。本白書は第2期の一連の『白書』と異なり、規制緩和や民間活力の導入にほとんど触れず、逆に憲法 25 条の理念・規定に3回も言及しました (16,25,29 頁 ) 。

『平成12年版白書[新しい高齢者像を求めて]』の第1編第1部第6章第 2 節「新しい高齢者像にふさわしい社会保障システムを求めて」にも 、第1編第2 部「社会保障構造改革に向けた取組み」にも、「社会保障と経済」の記載はありませんでした。

『平成13年版白書[生涯にわたり個人の自立を支援する厚生労働行政]』は、第1部第3章第2節「自立を支援する社会保障制度の整備」の(社会保障の役割)の項で、「社会保障が果たす機能は、社会のセーフティネットという点のみに求められるのではなく、医療や福祉分野が成長産業の一つとして雇用創出等の機能を果たすとともに、国民の消費活動を下支えすることにより経済の安定に寄与するという機能をも有している」と述べました (126頁) 。これは『平成11年版白書』のエッセンスとも言えます。

『平成14年版白書 [現役世代の生活像-経済的側 面を中心として]』も、第2部第l章「我が国の社会保障の現状」の(社会保障による所得再分配効果の)の項で、「社会保障の機能の一つである所得再分配効果も大きくなっている」として「ジニ係数」を示しました(107-108頁)。これは所得再分配効果を計数的に示している点では意味がありますが、『平成13年版白書』に比べ視野が狭いと言えます。

『平成15年版白書[活力ある高齢者像と世代間の新たな関係の構築]』と『平成16年版白書 [現代生活を取り巻く健康リスク] 』には、章・節名に「社会保障 」がありません。『平成17年版白書[地域とともに支えるこれからの社会保障]』は、『平成11年版白書』以来6年ぶりに副題に「社会保障」が含まれました。この白書の「地域(差)分析」は優れていますが、「社会保障と経済」の記載はありません。

『平成18年版白書[持続可能な社会保障制度と支え合いの循環-『地域』への参加と『働き方』の見直し]』は、第1部第3章第1節「公的制度のセーフネット機能により『安心の基盤』を確保する」で、「社会保障制度は(中略)日々の生活を支えるセーフティネットの仕組みである」と位置付けました(174頁)。しかし、この位置づけは、『平成11年版白書』、『平成13年版白書』に比べ狭すぎます。

『平成19年版白書[医療構造改革の目指すもの]』 は「医療と経済」の関係は分析しておらず、章・節名にも「社会保障」はありませんでした。

『平成20年版白書[生涯を通じた自立と支え合い-暮らしの基盤と社会保障を考える] 』は、第1 部第1章第1節2「社会保障の役割」 (2) で、社会保障の機能を「①生活安定 ・向上機能、②所得再分配機能、③経済安定機能(景気変動を緩和する機能や、経済成長を支えていく機能」の3つに整理しました (7-15頁)。これ以降の『白書』では、『平成29年版』を含めて、この3分類が踏襲されています。第1部第1章第3節3「社会保障と経済」では、産業連関表により、(1)「社会保障の生産波及効果」と(2)「社会保障分野における雇用[誘発効果] 」を示しました(28-32頁) 。 さらに、(3)「社会保障と経済成長」で、社会保障は「経済成長にとってマイナスの効果を持つとの指摘」に対して反論し、「経済社会の発展を支える重要なもの」であると主張しました (31-32頁)。 社会保障は経済成長にマイナスとの主張への正面からの反論は、『昭和43年版白書』以来、40年ぶりです。

『平成20年版白書』でもう一つ注目すべきことは、第 1 部第 1章第 3 節「社会保障給付の状況と国際比較」の「 [高齢化率と]社会保障の給付規模の国際的な比較」(相関図)で、日本の高齢化率が 6 か国中最高であるにもかかわらず、社会保障給付規模は第5位(最下位はアメリカ)であることを示したことです (24頁)(図2) 。これにより、『昭和54年版白書』の、2000年には日本の社会保障費水準が西欧諸国の水準を「上回ることは確実である」との予測の誤りが明らかになりま した。

『平成21年版白書[暮らしと社会の安定に向けた自立支援] の章・節名に「社会保障」はありません。

『平成22年版白書 [厚生労働省改革元年…~参加型社会保障の確立に向けて~』は第2部第2章第1節3「参加型社会保障(ポジティブ・ウェルフェア)と新成長戦略」で、産業連関表による「社会保障分野の総波及効果 」(社会保障分野の「総波及効果 」 は公共事業よりも高い)を示し、菅内閣の「新成長戦略によるもたらされる好循環のイメージ 」(「参加型社会保障と経済・財政の循環」図を示しました (156-162頁) 。「医療時評(155)」で述べたように、この図は『平成29年版白書』が引用している、安倍内閣の「ニッポン一億総活躍プラン」の「成長と分配の好循環メカニズムの提示」図 (26頁)と類似しています。

『平成23年版白書[社会保障の検証と展望] 』は歴史的分析中心で、「社会保障と経済」の記述はありません。この白書で注目すべきことは、「医療時評(155)」で書いたように、「子ども貧困率、当初所得と再分配後の比較」図に関して、「日本の『子どもの貧困 率』 に関しては、:国際的にみて高い水準にあること:再分配前後で比較した場合に、再分配後の方が貧困率が高くなること(日本のみ)が指摘されている」と書いたことだと思います(109 頁) 。

『平成24年版白書社会保障を考える]』は第1部第7章第2節3「社会保障は、経済成長と社会の安定に寄与し 、雇用を創出する」で、「社会保障には、経済を底支えし、経済を活性化する機能がある」(産業連関分析を踏まえた主張) 、「社会保障の経済的機能としては、セーフテイネット機能と総需要拡大機能」 (これは京極高宣説)があると主張しました(224-228頁)。これは、当時の民主党政権の主張(社会保障が経済成長を「牽引」)とは距離を置いた冷静な分析と評価できます。

このように、民主党政権時代の3回の白書はいずれも、副題に「社会保障」を含んでいました。それに対して、第2期安倍政権下の以下の4回の白書の副題には「社会保障」は含まれず、本文でも「社会保障と経済」 についての記述もありませんでした:『平成25年版白書[若者の意識を探る]』、『平成26年版白書[健康長寿社会の実現に向けて]』、『平成27年版白書[人口減少社会を考える]』、『平成28年版白書[人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える]』。

『平成29年版白書』は「社会保障と経済成長」を副題にしました。これの検討は「医療時評(155)」で詳しく行ったので、繰り返しません。

文献

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3.近著『医療経済・政策学の探究』の章立て
(勁草書房、2018年2月刊行予定、約650頁、5000円+税)

本書は、1985~2017年度の33年間の日本福祉大学在職中に発表した全著書(単著23冊、単著に準ずる共著2冊)の「総まとめ」です。序論でほぼ発行年順に各著書のポイントを解説しました。第1部には、各単著に収録した実証研究論文のうち、学術的価値が高いか先駆的で歴史的価値があり、現在でも読むに値すると自己評価した26論文を6つのテーマ別に、発表順に収録しました。第2部には、各著書の「はしがき」「あとがき」と目次を収録しました。私はすべての著書の「はしがき」で、冒頭にその著書の目的・意義を書いた上で、各章のポイント・売りを書き、「あとがき」でそれぞれの著書の前著出版以降の自分史・研究史、「思い」や心境(の変化)、今後の豊富等を書いてきました。

序論 私の医療経済・政策学研究の軌跡
第1節 全単著とそれに含まれる主要論文の紹介
第2節 日本医療の将来予測を行うために考案した分析枠組み・概念

第1部 テーマ別の主要実証研究
第1章 脳卒中リハビリテーションと地域・在宅ケアの経済分析

第1節 医療の質を落とさない医療費削減
-「脳卒中医療・リハビリテーションの施設間連携モデル」による経済効果の具体的検討
第2節 医療効率と費用効果分析-地域・在宅ケアを中心として
第3節 21世紀初頭の都道府県・大都市の「自宅死亡割合」の推移
-今後の「自宅死亡割合」の変化を予想するための基礎作業
第2章 人口高齢化と医療費増加
第1節 1980年代の国民医療費増加要因の再検討
第2節 人口高齢化は医療費増加の主因か?
第3章 技術進歩と医療費増加
第1節 CTスキャナーの社会経済学
第2節 MRI(磁気共鳴装置)導入・利用の日米比較
-日本でのハイテク医療技術と医療費抑制との「共存」の秘密を探る
第3節 慢性透析医療と医療費の日米比較
-医療費の支払い方式と水準が「医療の質」に与える影響
第4節 國頭医師のオプジーボ亡国論を複眼的に評価する
-技術進歩と国民皆保険制度は両立可能
第4章 医療提供体制の変貌-病院チェーンから複合体へ
第1節 わが国の私的病院チェーンはどこまで進んでいるか?
第2節 医療法人の病院チェーンは1980年代後半以降どのくらい進んだか?
第3節 保健・医療・福祉複合体の全体像-全国調査の総括と評価、将来予測
補論1 介護保険下の「複合体」の多様化とネットワーク形成
補論2 医療・福祉の連携か複合か-両者の対立は無意味、真理は中間にある
第4節 保健・医療・福祉複合体とIDSの日米比較研究-「東は東、西は西」の再確認
第5節 日本の保健・医療・福祉複合体の最新動向と「地域包括ケアシステム」
第5章 医師の所得と勤務形態および医師数と医療費の関係
第1節 医師所得は高すぎるか?
第2節 病院勤務医の開業志向は本当に生じたのか?
第3節 医師数と医療費の関係を歴史的・実証的に考える
第6章 終末期医療費
第1節 「終末期医療の在り方」の見直しにより老人医療費の抑制が可能、ではない
第2節 終末期医療費についてのトンデモ数字
第3節 後期高齢者の終末期(死亡前)医療費は高額ではない
第4節 「麻生発言」で再考-死亡前医療費は高額で医療費増加の要因か?
補章
第1節 わが国病院の平均在院日数はなぜ長いのか?
第2節 医療満足度の国際比較調査の落とし穴
第3節 老人病院等の保険外負担の全国調査-現実の保険外負担は厚生省調査の3倍

第2部(日本福祉大学在職中に出版した)全単著のはしがき、あとがき、目次
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4. 最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(通算142回)(2017年分その11:6論文)

論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○アメリカの1996~2013年の医療費増加に関連した諸要因
Dieleman JL, et al: Factors associated with increases in US health care spending, 1996-2013. JAMA 318(17):1996-2013,2017.[量的研究]

アメリカの医療費は1995~2015年に相当増加し、2015年には経済(GDP)の17.8%を占めている。既知の要因と医療費増加との経時的関係を理解することは、将来の医療費増加を抑止する政策努力に寄与しうる。本論文の目的は、アメリカにおける以下の5つの基礎的要因と医療費との関連を定量的に検討することである:人口規模、人口の年齢構成、疾病の罹病率または発症率、医療サービス利用、および医療サービスの価格と強度。そのために、1996~2013年の上記5要因のデータを、155の疾病、36の年齢・性グループ、「世界疾病負荷調査2015年版」による6タイプ、および保健指標・評価研究所「アメリカの疾病費用2013年推計」から抽出した。分解分析により、上記5要因の変化と医療費の変化の関連を推計し、疾病及び診療タイプ別のバラツキを推計した。暴露因子(exposures)は、人口規模の変化、人口高齢化、疾病の罹病率と発症率、医療サービスの利用、価格、強度であり、主なアウトカム指標は1996~2013年の医療費の変化である。

一般物価のインフレーションを調整後の年間医療費(入院、外来、小売り医薬品、ナーシングホーム、救急外来、歯科医療)は1996年の1.2兆ドルから2013年の2.1兆ドルへと、9335億ドル増加した。各要因の増加寄与率は人口増加23.1%、人口高齢化11.6%、罹病率・発症率の変化-2.4%(つまり費用抑制要因)であった。医療サービス利用の変化は医療費増加と統計的に有意な影響はなかった。医療サービスの価格・強度の変化の増加寄与率は50.0%であった。これら5要因の影響は疾病と診療タイプによりバラツキが大きかった。例えば、糖尿病の1996~2013年の医療費増加644億ドルのうち、444億ドルは医薬品費の増加によるものであった。以上の結果は、1996~2013年の医療費増加は主として医療サービスの価格と強度の増加と関連しているが、人口増加と人口高齢化との間にも正の関連があり、疾病の罹病率・発症率とは負の関連があるとまとめられる。

二木コメント-約20年にわたる医療費増加要因の詳細な分析です。分析方法は伝統的でこ、総医療費レベルでの結果は従来の知見の確認ですが、医療費増加要因を疾病別、性・年齢別に検討している点が新しいと思います。なお、日本の厚生労働省等による医療費増加要因分析では名目医療費が用いられるのに対して、アメリカでは一般物価の変動を除外した実質医療費が用いられるという大きな違いがあります。医療経済学的にはアメリカ方式が適切と思います(詳しくは、『「世界一」の医療費抑制政策を見直す時期』勁草書房,1994,200-202頁)。

○[ヨーロッパでの]医療費が慢性疾患の数に与える影響
Becchetti L, et al: The impact of health expenditure on the number of chronic diseases. Health Policy 121(9):955-962,2017.[量的研究]

ヨーロッパの50歳以上の成人の個人レベル及び地域(国)レベルのデータを含む大規模標本を用いて、医療費が健康アウトカムに与える影響を、回帰分析により検討した。その結果、医療費はその後の慢性疾患の数に有意の負の影響があることが分かった。この影響は、年齢、健康関連行動、ジェンダー、所得および教育により異なっていた。今回の実証的知見は、医療費と各国議会の政治的構成を関連づけた検討によっても、確証された。

二木コメント-要旨はごく短いですが、医療費が健康に与える影響には「時間差」があるという視点は面白いと思います。執筆者によると、医療費レベルが国レベル(ヨーロッパ)の健康状態に与える影響はすでに確認されており、本研究はそれを個人レベルでも確認したところに新しさがあるそうです。

○価値の乏しい医療サービス利用を減らすことを目的とした諸介入:体系的文献レビュー
Colla CH, et al: Interventions aimed at reducing use of low-value health services: a systematic review. Medical Care Research and Review 74(5):507-550,2017
[文献レビュー]

価値の乏しい医療を減らすための様々な種類の介入の効果は、実地診療に応用できるように適切にまとめられていない。本論文は介入の効果についての研究とその質を体系的にレビューする。対象は108文献であり、10種類の介入の効果が検討されていた。

その結果、医療の過剰利用における患者と臨床家の両方の役割変更に取り組んだ多要素からなる介入が、効果の乏しい医療をを減らす上でもっとも有望であることが分かった。臨床的な意思決定支援とパフォーマンスのフィードバックも確実なエビデンスのある有望な戦略である。供給者の教育はそれ自体でも、他の戦略と組み合わされた場合にも、変化をもたらす。効果に基づいた支払い(P4P)、保険者の制限、価値の乏しい医療の利用を抑制するためのリスク分担契約が有効か否かについては、さらなる研究が必要である(つまり、効果は不明)。文献は価値の乏しい医療を減らすために用いられている重要なエビデンスを示しているが、それの現実への臨床応用との間にはギャップがある。

二木コメント-44頁の長大論文であり、しかも執筆者によると、価値の乏しい医療を減らすことを目的とした介入研究についての最初の体系的文献レビューだそうです。この分野の研究者必読と思います。

○[アメリカにおける]避けられる救急診療部受診:出発点
Hsia RY, et al: Avoidable emergency department visits: a starting point. International Journal for Quality in Health Care 29(5):642-645,2017.[量的研究]

本研究の目的は、「避けられる」救急診療部(ED)受診について極めて保守的な定義をした上で、アメリカにおけるそれの特性を明らかにし、政策担当者に非緊急の救急外来に的を絞った介入についての示唆を与えることである。2005~2011年の「全国病院外来医療調査」データを用いて、極めて保守的な「避けられる」救急外来受診についての後方視的分析を行った。18~64歳の患者のED受診4億2400万件の記録から、受診後そのまま自宅に退院した115,081件の記録を検討した。「避けられる」ED受診は、細かい診断、スクリーニング検査、処置、薬剤処方のいずれも必要とせず、自宅に退院した受診と定義した。

総数では、全ED受診のうち3.3%が「避けられる」と判断された。5大主訴は、多い順に、①歯痛、②腰痛、③頭痛、④他の精神疾患に関連した症状、⑤咽頭痛であった。

国際疾病分類第9版に該当する3大疾患は、飲酒過剰、歯科疾患、鬱状態であった。アルコール関連疾患と気分障害は避けられる受診の6.8%を占め、歯科疾患は同3.9%であった。「避けられる」救急外来受診の相当数が精神疾患または歯科疾患によるものであるが、それらは救急外来ではきちんと治療できない。「避けられない」ED受診を減らすためには、精神医療や歯科医療へのアクセスを改善すること等が必要である。

二木コメント-アメリカのEDの知られざる一面を全国調査で明らかにした貴重な研究と思います。

○救急診療部に[病院の資源を]集中する:一文惜しみの銭失いか?オランダの病院における救急診療部の規模の経済とチェーンの経済についての実証研究
Blank JLT,et al: Concentrating emergency rooms: penny-wise and pound-foolish? An empirical research on scale economies and chain economies in emergency rooms in Dutch hospitals. Health Economics 26(11):1353-1365,2017.[量的研究]

本研究では、大規模病院の救急診療部(ED)に病院の資源を集中することが経済的に有利か否かを、病院医療の生産関数を用いて検討する。規模の経済だけでなく、チェーンの経済にも焦点を当てる。後者の用語は、ER受診後、経過観察の入院または病院の外来医療を必要とする患者の病院側費用の影響を意味する。個々の病院ごとに検討すると、産出物に特有の規模の経済が存在し、そのことは病院にとってはEDサービスを増やすことが利益になることを示している。しかし、このことは病院総体で見ると規模の不経済が存在することと一致しない。この直感的に矛盾する結果は規模の経済のパラドックスを暗示している。このパラドックスは、なぜ、一般的に言って、病院が大きすぎるかについても説明する。個々の病院では、産出物別の規模の経済から利益を得るために、ED等の特定のサービスを拡大するような内的圧力が存在する。しかしこのような規模拡大の財政的負担は病院全体が追っている。この結果から得られる政策的示唆は、ERへの資源の集中が特定の産出物の視点からは有利であるが、病院部門全体から見ると不利であることである。

二木コメント-個別の経済主体では合理的であっても、全体では非合理であることを「合成の誤謬」と言いますが、これはその見本と思います。ただし、「チェーンの経済」についてはよく理解できませんでした。Googleで検索しても、この用語はヒットしませんでした。

○ロシア革命1917-2017年[と公衆衛生]
Russian Revolution 1917-2017. American Journal of Public Health 107(11):1708-1743,2017[特集・評論]

『アメリカ公衆衛生学雑誌』2017年11月号が、ロシア革命百周年の特集を組み、下記の7論文を掲載しています。同号の表紙にレーニンの有名な肖像画も掲載されています。
*Morabia A: 反タバコ・プロパガンダ:ソ連対ナチスドイツ。
*Starks TA: タバコに対する革命的攻撃:1920年代のヴォルシェヴィキの反喫煙宣伝。
*Starks TA: 健康の宣伝、初期ソ連のヴォルシェヴィキ的生活。
*Grant S: ロシア革命の看護と公衆衛生の遺産。
*Rivlkin-Fish M: 現代ロシアの公衆衛生中の1917年の遺産:薬物嗜癖、HIV、中絶。
*Brown T, etal: ヘンリー・E・シゲリスト(1891-1957):医療史研究者、「社会化」医療の擁護者、そしてソビエト医療制度の礼賛者。
*Ladwig S, et al:我々の想像を大きく超える:アラン・グレッグの1927年のソビエト旅行時の日記。

(補足)2017年は日本の民生委員制度が発足して百周年にもあたり、全国・各地で盛大な記念行事が行われました。岡山県知事が、ドイツの救貧委員制度を参考にして、1917年に「済世顧問設置規定」を公布し、これが民生委員制度の源と言われています。

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5.私の好きな名言・警句の紹介(その157)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の役割>

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