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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻139号)』(転載)

二木立

発行日2016年02月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


1. 論文:厚労相の私的懇談会提言「保健医療2035」をどう読むか?
(「深層を読む・真相を解く」(50)『日本医事新報』2016年1月16日号(4786号):10-
11頁)

やや古い話題で恐縮ですが、今回は、昨年6月に塩崎恭久厚生労働大臣の私的懇談会がとりまとめた「保健医療2035」を検討します。私はこれを発表直後に読みましたが、視野は広いが具体性に欠けると判断し、本連載では取り上げませんでした。

しかし、その後、大臣の強い肝いりで、昨年8月に「保健医療2035推進本部」が設置され、提言具体化のための省全体での検討が始められました。さらに、昨年12月7日の社会保障審議会医療保険部会・医療部会「平成28年度診療報酬改定の基本方針」には、「2035年に向けて保健医療の価値を高めるための目標を掲げた『保健医療2035』も踏まえ、『患者にとっての価値』を考慮した報酬体系を目指していくことが必要である」と明記されました。

そこで、「保健医療2035」を無視することはできないと考えを改め、読み直しました。

総論と「健康の社会的決定要因」強調は評価できる

「保健医療2035」は冒頭、「人々が世界最高水準の健康、医療を享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築し、我が国及び世界の繁栄に貢献する」という目標を掲げています。次にそれを実現するための「基本理念:新たなシステム構築・運営を進めていく上で基本とすべき価値観・判断基準」として、「公平・公正(フェアネス)」、「自律に基づく連帯」、「日本と世界の繁栄と共生」の3つを示しています。さらに、「2035年の保健医療が実現すべき展望」として、「保健医療の価値を高める」、「主体的選択を社会で支える」、「日本が世界の保健医療を牽引する」の3つを掲げています。

このように崇高でしかも視野が広く、誰もが賛同できる「総論」を掲げた政府関係文書はきわめて珍しいと思います。このことは、委員の平均年齢が42.7歳と若々しく、しかも座長の渋谷健司氏(東京大学大学院医学系研究科教授・国際保健政策学)をはじめ「国際派」が多いためと思います。

私が「保健医療2035」の総論で特に注目したことは、「自律に基づく連帯」の具体的説明で、「個々人の自立のみに依存した健康長寿の実現はなく、必要十分な保健医療のセーフティネットの構築と、保健医療への参加を促す仕組みによって社会から取りこぼされる人々を生じさせないことも保健医療システムの重要な役割である」と強調していることです(11頁)。この部分に限らず、「保健医療2035」には「健康の社会的決定要因」を強調する指摘が随所にみられます。この点は、自助や自己責任のみを強調する安倍政権の多くの公式文書とは対照的です。

「リーン・ヘルスケア」等踊るカタカナ語

他面、「保健医療2035」にはカタカナ用語が非常に多く、しかもそれらの定義がきちんと説明されていないなど、言葉が踊っている個所が少なくないのが気になりました。その典型は、第4章「2035年に向けた3つのビジョン」の「リーンヘルスケア~保健医療の価値を高める」、「ライフ・デザイン~主体的選択を社会で支える」、「グローバル・ヘルス・リーダー~日本が世界の保健医療を牽引する」のカタカナ語3連発です。私には、副題の日本語表現で十分であり、カタカナ語を使うことにより、読者・国民の理解を妨げると思えます。

例えば、「リーン(引き締まった、贅肉の無い)・ヘルスケア」は2000年以降、アメリカやイギリス等で病院経営改革の流行語になっていますが、昨年発表された膨大な包括的文献レビューは、「『リーン』は見込みがあるが、現在までに得られた知見からは、それが医療に導入された場合の肯定的影響や課題について最終的結論を引き出せない」と結論づけています(D'Andreamatteo A, et al: Lean in healthcare: A comprehensive review. Health Policy 119:1197-1209,2015)。

歴史的に言えば、「リーン」は、日本経済が世界最強と謳われていた1980年代にアメリカのMITの研究者が日本の.自動車産業の「トヨタ生産方式」を研究し、その成果を体系化・一般化した生産管理手法の一種であり、それを国レベルの「保健医療システム」の改革ビジョンとするのは論理の飛躍です。

「具体的なアクションの例」は寄せ集め

「保健医療2035」の量的中心は「6.2035年のビジョンを実現するためのアクション」で、これが各論に当たります。ここでは上述した3つのビジョンに沿って、「2035年に目指すべき姿」と「具体的なアクションの例」が示されています。

しかし、大半はすでに「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年)で提起されたか、同報告書を踏まえて制定された医療介護総合確保推進法(2014年)や医療保険制度改革法(2015年)に基づいて、すでに実施しているか、検討を始めている施策です。それに財務省が経済財政制度等審議会「建議」等で求めている患者負担増や給付範囲の縮小が加えられており、国際貢献策以外、目新しさはありません。「保健医療2035」は「はじめに」で、「これまでの発想や価値観を転換させ」る必要を強調していますが、各論レベルではそれが何を指すのか理解できませんでした。

これは私の「感度」が鈍っているかもしれないと思い、小黒一正委員(法政大学経済学部教授)のブログ(「保健医療2035」政策提言の本質は医療版・前川レポートである)中の「かなり踏み込んだ提言」の例示を読みましたが、やはり理解できませんでした(http://agora-web.jp/archives/1644797.html)。

既存の施策・提言を超えた数少ない提言は、「保険者が、個人ごとの健康管理を的確にサポートすること」・「保険者は(中略)個人ごとの保健医療関連情報の統合と活用を推進する」ことくらいです(19頁)。しかし、このような形での保険者機能の強化は、個人のプライバシーを侵害する危険が大きいと思います。なお、権丈善一氏は、新著『医療介護の一体改革と財政』(慶應義塾大学出版会,2015,363頁)で、ご自身の10数年に及ぶ慶應義塾大学健康保険組合理事としての経験も踏まえて、保険者機能の強化そのものに疑問を呈しており、私も同感です。

財源論から逃げている

第7章「2035年のビジョンを達成するためのインフラ」についても、第6章と同じ印象を持ちました。一番残念だったのは、「財源確保方策」で、「公費(税財源)の確保については、既存の税に加えて、社会環境における健康の決定因子に着眼し、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税、また、環境負荷と社会保障の充実と必要性とを関連づけて環境税を社会保障財源とすることも含め、あらゆる財源確保策を検討していくべきである」と主張しながら、所得税の累進制、資産課税、企業課税の強化、及び消費税の再引き上げにまったく触れていないことです。(35頁)これは、それらに否定的な安倍首相・官邸の意向に配慮したものかも知れませんが、財源論から逃げていると言わざるを得ません。

「パラメディカル」等時代錯誤の用語も

最後に一言。「保健医療2035」には2つの時代錯誤の用語が使われています。1つは、根本的な「パラダイム」転換の1つとして、「キュア中心からケア中心へ」をあげていることです(10頁)。これは1980年代から主張されてきたパラダイム転換論ですが、キュアとケアは対立するものではありません。「社会保障制度改革国民会議報告書」は、「治す医療」から「治し・支える医療」(キュアとケアの両方を重視する医療)への転換を提唱し、現在では、それが政府・厚生労働省の公式見解になっっています。

もう1つは、「パラメディカル」という用語です(38頁)。この用語は1960~1980年代に使われましたが、「パラ(para)」には「副、準、助手」の意味があるため、医師(medical staff)に従属する語感があると批判され、1990年代以降は「コメディカル」(和製英語)に置き換えられています。

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2.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文
(通算119回.2015年分その10:7論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○リーン・ヘルスケア:包括的文献レビュー
D'Andreamattteo A, et al: Lean in healthcare: A comprehensive review. Health Policy 119(9):1197-1209,2015.[文献レビュー]

「リーン」(原義は「贅肉のとれた」。本論文では「ムダのない生産方式」の意で、一般名詞と区別するために、大文字で表記されている)はより良い、改善された、価値ベースの医療のための次代の革命であるように思える。過去15年間に、「リーン」はますます医療に適合・応用されるようになっている。それに伴い、リーン・ヘルスケアは2000年代初頭から研究の主要要素になりつつある。本研究の目的は、医療のような複雑な文脈での「リーン」導入についての研究の包括的文献レビューを行うことである。そのために2013年9月までに発表された実証的、理論的文献の包括的文献レビューを行い、主題分析を行ってデータの抽出と合成を行った。

最終的に243文献(うち実証研究は109)を対象とした。「リーン」はほとんどの場合、生産性を向上させる手段と理解されている。医療では、病院で一番検討されており、救急医療と手術が新しい研究領域である。アメリカがリーンの応用で世界をリードしている。実証研究の50%以上が、生産性や費用対効果が改善したと報告していた。理論研究では、主に、「リーン」導入のバリア、課題、成功要因に焦点が当てられている。持続可能性、測定の枠組み、批判的評価は研究が遅れたテーマといえる。特定の「組織全体への応用」(system side approach)の評価についての文献はまだごく少ない。結論として、「リーン」は見込みがあるが、現在までに得られた知見からは、それが医療に導入された場合の肯定的的影響や課題について最終的結論を引き出せない。

二木コメント-リーン・ヘルスケアについての初めての包括的な文献レビューと思います。「リーン」とは、日本経済が世界最強と謳われていた1980年代に、アメリカのMITの研究者が日本の自動車産業の「トヨタ生産方式」を研究し、その成果を体系化・一般化した生産管理手法の一種です。2000年前後から、欧米や日本の一部の病院で業務改善手法として導入されていますが、本論文によれば、その効果・評価はまだ定まってはおらず、しかも「組織全体への応用」を評価した文献はごく限られていることが分かります。多くの論文が「リーン」により生産性や費用対効果が改善したと報告している反面、厳密なランダム化試験により費用抑制を証明した論文はまだないようです。

○アメリカの病院の退院データを用いた専門職料金比
Peterson C, et al: Professional fee ratios for US hospital discharge data. Medical Care 53(10):840-849,2015.[量的研究]

アメリカの病院の退院データセットは典型的には施設料金(室料と食費。[正確には、医師以外の職員の費用も含む-二木])のみを含み、専門職料金(病院に患者を入院させ診療を行う開業医が患者に請求する料金。以下、医師料金)は除外している。本研究の目的は、病院の退院データの費用分析で用いるために、毎年の診断別「医師料金比」(PFR)を推計することである。Truven Health MarketScan(医療保険データ提供企業)の2004-2012年の入院患者(23,594,605人)と入院に至らなかった救急受診患者(70,771,576人)のデータを用いた。1回(入院・救急受診)当たりPFRは、1人当たりの入院総支払い額(施設への支払額+医師への支払い額)÷施設への支払い額いと定義した。特定の要因(患者の年齢、併発症等)を調整した最小二乗法による回帰モデルを用いて、調整済み平均PFRを、医療保険の種別、主要診断群等別に計算した。2012年の入院患者の調整済み平均PFR(入院前の救急受診を含む)は民間保険患者では1.264、メディケイド患者では1.177であった。このことは、医師への支払い額を含んだ入院総支払額が、施設への支払い額をそれぞれ26.4%、17.7%増やしていることを示している。2012年の救急患者の平均PFRは民間保険患者1.286、メディケイド患者1.440であった。

二木コメント-大規模データを用いて、アメリカの入院医療における施設料金と医師料金の比を詳細に推計した初めての調査と思います。PFRは日本人には分かりにくい概念ですが、日本流に言えば、医師費用は入院総費用の20.1%(民間保険)~15.0%(メディケイド)と計算できます。抄訳では省略しましたが、各PFRの信頼区間はきわめて狭く、このことは保険種別に、施設料金比の医師料金の全国的「相場」が存在する(施設料金が高い病院では医師料金も高い、およびその逆)ことを示しています。

○オランダの1994~2010年の年齢・疾患別入院医療費の趨勢
Wubulihasimu P, et al: Trends in Dutch hospital spending by age and disease 1994-2010. Health Policy 119(3):316-323,2015.[量的研究]

年齢別の医療費パターンとその変化を理解することは高齢社会では必須である。これを明らかにするために、いくつかのデータベースを結合して、オランダの40歳以上の全入院患者の1994-2010年の年齢区分・性・疾病分類別入院医療費の時系列データセットを作成し、疾病分類別の入院医療費の年齢区分・性別パターンの変化を解析した。調査期間中の入院医療費の支払い方式の変更(1994-2001年は病院別の年間予算、2001-2005年は出来高払い、2005年以降は診断群別包括払い)によってこのパターンがどの程度変化するかも調査した。その結果、入院医療費はすべての年齢区分で増加したが、増加率は非高齢者(40-59歳)でもっとも高かった。非高齢者での入院医療費増加は、心血管系疾患とがんの治療で特に特に大きかった。年間予算期と比べると、その後の出来高払い期及び診断群別包括払い期への移行で入院医療費は相当増加した:各期の1人当たり入院医療費の年間平均増加率は、それぞれ1.5%、4.2%、4.8%だった。ただし、支払い方式の変化による影響は疾患によって異なっていた。

二木コメント-1人当たり入院医療費の変化を、年齢区分、性、疾病分類、入院医療費の支払い方式の4つの視点を統合して解析した貴重な研究と思います。1人当たり医療費の増加率は非高齢者の方が高いことが(改めて)確認されています。

○[アメリカの2011年の]年齢・サービス別の1人当たりメディケア医療費:最高齢被保険者にハイライトを当てた最新データ
Neuman P, et al: Medicare per capita spending by age and service: New data highlights oldest beneficiaries. Health Affairs 34(2):335-339,2015.[調査報告]

2011年のメディケア医療費データを用いて、66歳以上の被保険者の1人当たり医療費を年齢・サービス別に調査した。5歳刻みの7つの年齢区分(最高齢は95歳以上)でみると、1人当たり医療費の最高は、総医療費と入院医療費では90-94歳、外来医療費では80-84歳であり、それより高齢になると低下していた。1歳刻みの1人当たり医療費のピークはサービス種類によって異なり、ホスピス104歳、スキルドナーシングホーム98歳、在宅医療96歳、入院医療89歳、外来83歳であった。対象を2011年の死亡者に限定すると、1人当たり医療費は平均33,486ドルであり、生存者平均の8647ドルの3.9倍であった。ただし、死亡者の1人当たり医療費のピークは70歳の42,933ドルであり、その後漸減して100歳では20,318ドルにまで低下していた。

二木コメント-日本の「平成25年度国民医療費」の1人当たり医療費の年齢区分の上限は「85歳以上」ですが、今後はこれの細分が必要と思います。

○10か国のプライマリケア医が複雑な医療ニーズをもつ患者の診療の課題について報告する
Osborn R, et al: Primary care physicians in ten countries report challenges caring for patients with complex health needs. Health Affairs 34(12):2104-2112,2015.[国際比較研究]

先進国は、医療ニーズが複雑化し、急性期医療に加えて、継続的な慢性疾患のマネジメントと社会サービスを必要とする高齢患者に対して良質の医療を提供するという大きな課題に直面している。2015年にアメリカとそれ以外の9か国(オーストラリア、カナダ、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、スウェーデン、スイス、イギリス)のプライマリケア医を対象に大規模インタビュー調査を行った。それにより、この点についての彼らの関心・不安を明らかにすことができた。電子媒体での情報交換は大部分の国で今後の課題となっている一方、アメリカとカナダでは2012年以降、プライマリケア医の電子カルテ導入が急増している。最後に、医師の職業に関連したストレスについてのフィードバック、医療の質が低下しつつあるとの認識、及び管理業務の負担増加は、医療改革を検討・実施する際には、第一線の医師の見解をモニターすべきことを示している。

二木コメント-要旨は素っ気ないですが、本文では、多面的質問により10か国のプライマリケア医の意識・認識の異同が示されており、プライマリケア研究者必読と思います。

○[EU加盟国で]強力なプライマリケア制度のある国に住むことは慢性疾患を持つ人々に益がある
Hansen J, et al: Living in a country with a strong health care system is beneficial to people with chronic conditions. Health Affairs 34(9):1531-1537,2015.[国際比較研究]

多数の慢性疾患が医療制度に与える圧力が増加しているという視点から、強いプライマリケアは慢性疾患患者の健康アウトカムの改善と関連があるかについて調査した。そのために、EU加盟27か国の国・個人レベルのデータセットを作成した。その際、人々の健康の自己評価と彼らが重大または未治療慢性疾患を持っているか否かに焦点を当てた。プライマリケアの強さは組織構造、アクセスの良さ、継続性、連携、包括性の5側面から評価した。

その結果、より強力なプライマリケア組織とより良い医療連携のある国では、慢性疾患を持つ人々の健康状態は、そうでない国の人々に比べて、より良好または非常に良好であった。特に慢性疾患を2つ以上持つ人々ではこの傾向が特に強かった:彼らの健康の自己評価は、彼らがより強いプライマリ組織構造、より良い医療連携、より包括的なプライマリケアサービスのパッケージのある国で、より高かった。一般的に言えば、強いプライマリケア制度にアクセスできることは慢性疾患を持つ人々にとって重要であり、その重要性は患者グループ(例:プライマリケアに感受性の高い疾患(糖尿病、気管支喘息または肺気腫、脳卒中、高血圧)を持つ患者)とプライマリケアの諸側面によって異なる。そのため、プライマリケアの改革は患者中心であるべきであり、かつ患者グループごとのニーズを考慮すべきで、さらにプライマリケアの組織と提供とのバランスを考慮すべきである。本研究では、プライマリケアのすべての側面で高得点だった国では、医療の平等度が高いか否かについても検討したが、明確なエビデンスは得られなかった。

二木コメント-執筆者は「バランスのある」結論と自賛していますが、私からみると予定調和的にすぎます。最後の1文は要旨には書かれておらず、本文から捕捉しました。なお、この論文では各国の1人当たりGDPは調査されていますが、1人当たり医療費は調査されていないため、各国のプライマリケアの水準または健康の自己評価と医療費水準との関連は不明です

○グラウンデッド・セオリーの方法を医療経験を把握し分析するために用いる
Foley G, et al: Using grounded theory method to capture and analyze health care experiences. Health Services Research 50(4):1195-1210,2010.[解説論文]

グラウンデッド・セオリー(GT)は確立された質的研究の方法であるが、医療サービスの利用者と提供者の経験についてGT研究を行うことの便益、限界、基本的特性について簡潔に解説した論文はほとんどない。GTは研究全体の方法論として用いることもできるし、データ分析の段階のみで用いることもできる。本論文では医療研究において質的研究者が用いているGTの主な構成要素と一般的手順を要約する。その際、我々がALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の医療サービス経験についてのGT研究を行った際に得た経験を紹介する。

特にアプローチするのが難しい人口集団に焦点を当てた研究では、GT研究のアプローチが他のアプローチよりもなぜうまくいくかについて論じる。次に、人々が医療サービスといかに関わるかについての理論を打ち立てる上で、GTの手順が柔軟であることに注意を喚起する。結論:GTは研究者が医療経験を把握し理解することを可能にする。GTの方法は、先行研究がほとんどないテーマの研究を行う際に、特に価値がある。GTを応用することにより、質的データの分析に構造と頑健さをもたらすことが可能である。

二木コメント-保健医療分野の研究でGTアプローチを用いる際、またはそのような論文を読む際のポイントを分かりやすく解説しています。「医療サービスの利用者と提供者の経験」についての研究が、GTの長所でもあり、適用限界でもあると思います。

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3.私の好きな名言・警句の紹介(その134)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の役割>

<組織のマネジメントとリーダーシップのあり方>

<その他>

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