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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻197号)』(転載)

二木立

発行日2020年12月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

論文「日医総研『第7回日本の医療に関する意識調査」を『日本医事新報』2020年12月5日号に掲載します。本「ニューズレター」198号に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読みください


1. 論文:『令和2年版厚生労働白書』をどう読むか?

(「深層を読む・真相を解く」(104)『日本医事新報』2020年11月7日号(5037号):54-55頁)

厚生労働省は10月23日、『令和2年版厚生労働白書』を公表しました。その前の白書は『平成30年版』(昨年7月公表)ですから、『令和元年版』は発行されないことになります。このようなことは『平成6年版』が発行されなかった時以来、25年ぶりです。これは、本年突発したコロナ危機への対応に厚生労働省が忙殺され、それを発行する時間的・人的余裕がなかったためと思います。

今年度『白書』の副題(第1部のタイトル)は「令和時代の社会保障と働き方を考える」です。このテーマからも分かるように、第1部は社会保障全般と「働き方」(労働問題)」中心に論じており、「医療(改革)」についてはほとんど触れていません。そこで、本稿では、まず、第1部の検討を行い、次に、第2部「現下の政策課題への対応」の第7章第2節「安心で質の高い医療提供体制の構築」で注目すべき2つの記述を指摘します。

平成の30年と今後の20年を分析

第1部は、第1章で「平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容」を鳥瞰し、第2節ではそれを受けて、2040年に向けて「令和時代の社会保障と働き方のあり方」を展望しています。例年の『白書』と同様に、「事例」も豊富です。

第1章では①人口、②寿命と健康、③労働力と働き方、④技術と暮らし・仕事、⑤地域社会、⑥世帯・家族、⑦つながり・支え合い、⑧暮らしと生活を巡る意識、⑨社会保障制度という9つのテーマに沿って、平成の30年間の変容を分析し、一部は2040年に向けての変化を展望しています。②、④、⑦では新型コロナ感染症の影響もスケッチしています。

30年~50年という長いスパンの分析を読むことで、この間の日本の社会と「働き方」、及び国民意識の大きな変化を再確認でき便利です。私個人は、③「労働力と働き方」(第3節)に関して、平成の30年間に、男女ともに非正規雇用の労働者の数・割合が大きく増加したたことに改めて驚かされました:総数では1989年の19.1%から2019年38.3%へと19.2ポイント上昇、女では36.0%から56.0%へと20.0ポイント上昇(37頁)。言うまでもなく、非正規労働者の賃金は正規労働者に比べてはるかに低く、そのことは今後の社会保障の財源確保にも大きな制約を与えています。

⑦「つながり・支え合い」(第7節)では、おそらく『白書』としては初めて、「家族・親族がいない場合、施設入所時の身元保証が確保できず入所に支障が生ずるケース」の存在(89頁)や、「支援につながっていない人、手助けを求められない人の存在」(93頁)に注意喚起したことに注目しました。

社会保障の規模は対GDP比で見る

⑨「社会保障制度」(第9節)では、社会保障給付費の規模を1990~2017年度の実績値と2018~2040年度の将来見通し別に示しています(118-119頁)。私は、社会保障給付費の表示について、「名目額で見た場合、経済成長に伴う賃金・物価の上昇がそのまま社会保障給付費の増加として計上されてしまうことから、社会保障の規模の推移をとらえるには、社会保障給付費の対GDP比で見ることが適切」と明記し、「2040年にかけて、社会保障の給付規模は1.1倍に増加の見込み」と冷静に書いていることに注目・共感しました。この点は、多くのジャーナリズムや経済産業省が、社会保障給付費の名目額のみを示し、今後それが急騰すると危機感をあおるのと対照的です。

社会保障の今後の負担の動向についても、「2040年に向けて、社会保険料の負担規模は約1割、公費負担は2割強の増加の見込み」と冷静に書いています(123頁)。と同時に、日本の国民負担(対GDP比)のうち、租税負担は「一貫してOECD諸国を大きく下回る水準が続いている」ことも指摘しています(127頁)。しかし、今後、租税負担を増やすための財源については触れていません。これは、菅義偉新首相が「私の間と言うよりも、10年は消費税[引き上げ]は考えない」と明言しているためと思います。

「社会保障制度」についてもう一つ注目すべき記述は、「高齢化率と社会保障の給付規模の国際比較」図を示し、「我が国は最も高齢化が進んでいるが、社会支出の対GDP比は、我が国よりも高齢化率が低いフランス、スウェーデン、ドイツの方が我が国を上回っている」と説明していることです(123-124頁)。これは、日本の高齢化率が世界で突出して高い事実を無視して、日本の社会保障給付費や医療費の対GDP比が国際的に高いとする一面的主張への適切な反論となっています。

第2章「令和時代の社会保障と働き方のあり方」は第1章(127頁)に比べてごく薄く(44頁。事例を除くと28頁)、内容的にも特記すべき記述はありませんでした。

「質が高く効率的な医療」が復活

第2部「現下の政策課題への対応」は、現在の施策の説明であり、例年、特に新味はありません。第7章第2節「安心で質の高い医療提供体制の構築」も大枠ではその通りです。しかし、私は、次の2点に注目しました。

第1は、それの冒頭で「質が高く効率的な医療提供体制の構築」という、1987年の「国民医療総合対策本部中間報告」以来の厚生労働省の定番表現が復活していることです(337頁)。

本連載(92)(本誌4989号)で指摘したように、厚生労働省医政局は、424病院再編リスト公表後の自治体・病院関係者の激しい反発を受けて、昨年9月に公表した「地域医療構想の実現に向けて」で、「地域医療構想の目的は、2025年に向けて、地域ごとに効率的で不足のない医療提供体制を構築することです」と述べ、従来の文書では必ず「効率的」とワンセットで書かれていた「質が高く」または「効果的」という表現を削除しました。厳しく言えば、これは医療介護総合確保推進法(2014年)の第3条「厚生労働大臣は、地域において効率的かつ質の高い医療提供体制を構築する(以下略)」からも逸脱しています。しかも、この表現は「全世代型社会保障検討会議中間報告」(昨年12月)も踏襲しました。

そのため、今回、医療提供体制の構築についての伝統的定番表現が復活したことに安心しました。

慢性期以外の病床は微増

第2に注目したことは、「地域医療構想による2025年の病床の必要量」の図の「足元の病床機能(2015年7月現在)」133.1万床のうち、8.7万床が「休眠等」であることを初めて明示したことです(338頁)。これを除いた2015年の稼働病床総数は124.4万床となり、「2025年の病床の必要量」119.1万床より5.3万床多いにすぎません。

病床機能別に見ると、慢性期病床は2015年の35.4万床から2025年に28.4万床へ7.0万床減ると推計しています。これは現在の全介護療養病床(約5万床)と25対1の医療療養病床(約7万床)の大半が2023年度末までに介護医療院に転換し、制度上は病院でなくなることにより「超過達成」可能です。

高度急性期・急性期・回復期を合わせた病床は2015年の89.1万床から2025年の90.7万床へと1.6万床増加すると推計しています。また、従来の推計通り、高度急性期と急性期を約3割縮減し、回復期は約3倍に拡充するとしています。私は、高度急性期の縮減は不可避だが、急性期と回復期の境界は曖昧であり、しかも今回のコロナ危機により急性期の役割が再評価されたため、急性期を59.3万床から40.1万床へと19.2万床も減らすこと(回復期に転換)は非現実的と判断しています。

ともあれ、この図により、2015年以降声高に主張されてきた地域医療構想による病院病床の大幅削減説は崩壊したと言えます。

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2.論文:疾病の社会的要因の重視には大賛成。しかし、日本での「社会的処方」制度化は困難で「多職種連携」の推進が現実的だ

(「医療と介護2040」(ウェブマガジン)2020年11月4日アップ。
https://cksk.org/article/special/social-prescribing/6070.html
https://cksk.org/article/special/social-prescribing/6081.html

はじめに-疾病の社会的要因の重視には大賛成

私は、「社会的処方」導入・制度化論者が強調している疾病・健康の社会的要因(以下、疾病の社会的要因)の重視には大賛成です。なぜなら、私は元リハビリテーション専門医で、「障害者の全人間的復権」(上田敏氏)を目標とするリハビリテーション医学では、伝統的に、障害の医学的側面だけでなく社会的側面も重視してきたからです。

2001年のWHO(世界保健機関)総会で採択された「ICF(国際生活機能分類)」の大きな特徴は、生活機能の評価に「環境因子」という観点を加えたことです。環境因子は「人々が生活し、人生を送っている物理的な環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子」と定義され、それの詳細なコーディングも示されました(『ICF 国際生活機能分類』中央法規,2002,169頁)。

そのため、最近、保健医療分野で世界的に疾病の社会的要因が重視されていることに意を強くし、その研究や実践を主導している人々に敬意を持っています。

ただし、疾病の社会的要因に対する取り組みは国によって異なり、「世界標準」はありません。本稿では、イギリスとアメリカと日本における疾病の社会的要因に対する取り組みの実情を簡単に紹介します。それを踏まえて、日本でイギリス式の社会的処方を制度化することは困難であり、それよりも多職種連携を推進する方が合理的・現実的であると判断する理由を述べます。

イギリスの社会的処方

イギリスでは、国営医療の下で、GP(一般医)の一部が「患者の健康やウェルビーイングの向上などを目的に、医学的処方に加えて、治療の一環として患者の地域の活動やサービス等につなげる社会的処方と呼ばれる取組みを行う」ようになっています(以下、高守徹「英国で取組みが進む社会的処方」「損保ジャパン日本興亜総研レポート」2019(ウェブ上に公開))。2018年の調査によると、GPの4人に1人が社会的処方を行っており、イギリス政府は2018年に発表した「孤独に取り組むための政府戦略」の中で、社会的処方を普遍化することを目標とし、そのためのサポートを行うと述べています。

社会的処方には様々なスキームが存在しますが、その肝は「リンクワーカー」と呼ばれる人材が介在することで、GPが患者をリンクワーカーに紹介し、リンクワーカーが当該患者に地域の活動やサービスを紹介しています。リンクワーカーは医療専門職とは位置づけられておらず、オレンジクロス財団「英国社会的処方現地調査報告」(2019年。ウェブ上に公開)によると、「元々なんらかのコミュニティ活動や福祉に従事していた人」、「地域のNPOで活躍していた人たち」等多様ですが、ソーシャルワーカーは含まれないようです。

よく知られているように、GPに対する報酬支払いは登録患者数に応じた人頭払いが原則で、GPは登録患者の治療だけでなく、予防・健康増進活動にも責任を持っています。この土壌の上に、イギリスではGP中心(主導)の「社会的処方」が普及しつつあるのだと思います。

アメリカの最新の動き

アメリカでは伝統的に、「生物医学モデル」に依拠する臨床医学と「社会モデル」に依拠する公衆衛生学との長い対立の歴史があります。

しかし、最近は、臨床医学の側でも「健康の社会的決定要因」の重要性が見直されるようになっています。本年、世界最高峰の臨床医学雑誌New England Journal of Medicineに、臨床医学と公衆衛生との「分極化に架橋する」論評が掲載されました(Armstrong K, et al: NEJM 382(10):888-889)。

私が最近の動きで決定的だと思うのは、米国科学工学医学アカデミーが2019年に報告書「社会的ケアを医療提供に統合する」(Integrating Social Care into the Delivery of Health Care. National Academy Press)を発表したことです。本報告書は、「社会的ケア」を「健康関連の社会的リスク要因や社会的ニーズに取り組む活動」と定義し、それの医療提供への統合を促進するための活動を提起すると共に、5つの包括的目標を示し、それを促進するための諸勧告を行っています。その際、医師・医療職の業務を拡大するのではなく、ソーシャルワーカー等の福祉職を活用し、それをメディケア・メディケイドの償還対象に加えることを提唱するとともに、「多専門職チーム」の重要性を繰り返し強調しています。

日本の地域包括ケアと地域共生社会

日本では、疾病の社会的要因にストレートに取り組む動きは、まだ、ごく一部の医師・医療機関に限られています。しかし、私は、2000年前後から全国で草の根的に行われるようになり、厚生労働省も積極的に後押している「地域包括ケア(システム)」の先進事例で、患者・障害者が抱える社会的問題の解決に積極的に取り組んでいることに注目すべきと思います。その鍵が多職種連携であり、ソーシャルワーカーが「医療と社会(福祉)」をつなぐ上で大きな役割を果たしています。

地域包括ケア(システム)の構成要素は法的には、医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援の5つとされていますが、最近は「地域づくり」も含まれるようになっています。地域包括ケア(システム)の理念・概念整理と政策形成で重要な役割を果たしてきた地域包括ケア研究会は2016年度報告書で、中重度者を地域で支える仕組みや多職種連携の仕組みの構築を提起しました。

疾病の社会的要因に対する取り組みを含むものとして、もう一つ期待できるのが「地域共生社会」づくりです。特に本年6月に成立した改正社会福祉法には、福祉分野の地域共生社会づくりを促進するために、市町村が任意で行う「重層的支援体制整備事業の創設及びその財政支援」が盛り込まれました。地域共生社会と地域包括ケア(システム)の法的関係は曖昧ですが、今後は、両者を一体的に実施する市町村が増えると予想しています。

なお、改正社会福祉法を含む「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」の参議院「附帯決議」では、重層的支援体制整備「事業を実施するに当たっては、社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努めること」と記載されました。

おわりに-日本では社会的処方の制度化は困難

以上、3か国の疾病の社会的要因に対する取り組みを紹介しました。それにより、イギリスの社会的処方が「国際標準」でないことは示せたと思います。西岡大輔氏等の「社会的処方の事例と効果に関する文献レビュー」でも、社会的処方の文献の大半はイギリスのものであり、国際的広がりはほとんどみられません(『医療と社会』29(4):527-544,2020)。そのため、私は、日本には、イギリス流のGP(一般医)中心の社会的処方を制度化する条件はないと思います。

私は、個人的には、社会的「処方」という、医師主導を含意する用語にも強い違和感があります。現行の医事法制と診療報酬制度の下で社会的処方を制度化するためには、診療報酬上、医師が行う社会的処方に何らかの「加算」をつけることが一番簡単ですが、医療以外の「社会的」領域にまで医師の処方権を拡大することは、現代日本の保健医療福祉改革(地域包括ケアや地域共生社会づくり)で鍵概念となっている「多職種連携」(保健医療福祉専門職、さらには行政や地域住民も参加する多職種間の水平的連携)とも相容れません。

残念ながら、日本の大半の医師は、イギリスのGPのように、予防・健康増進活動や疾病の社会的要因についての教育はほとんど受けていません。私は、今後、日本の医学教育でもこの領域の教育を強めることが不可欠だと考えていますが、それを抜きにして、診療報酬上の社会的処方「加算」を制度化すると、コロナ危機等により経営困難に陥っている診療所や病院の医師が「加算」により収入を増やすために社会的処方を乱発し、医療費が不必要に増える危険もあります。医療費抑制を至上命令としている厚生労働省が、そのような「加算」を認めることはありえません。

そのために、私は、実現可能性がない社会的処方の制度化を夢見るのではなく、法的な裏付けを持って全国で進められている地域包括ケアや地域共生社会づくりの成功の鍵となっている多職種連携チームに医師、医療機関や医師会が積極的に参加し、チーム全体として疾病の社会的要因への取り組みを強める方が合理的・現実的と思います。

(本稿は『日本医事新報』2020年9月5日号(5028号)掲載の「私はなぜイギリス式の社会的処方の制度化は困難と考えているか?」に加筆したものです。)

【補注】介護保険の居宅療養管理指導改革は「社会的処方」とは言えない

10月下旬、複数のウェブ雑誌が、今後、厚生労働省が介護保険の居宅療養管理指導で「社会的処方を推進」するとの報道を行い、友人から、いよいよ社会的処方が制度化されるのか?との質問を受けました。しかし、その報道の元資料を丁寧に読むと、それは誤解であることが分かります。以下、その理由を説明します。

このような報道がなされたのは、10月22日の社会保障審議会・介護保険給付費分科会の資料4「居宅療養管理指導の報酬・基準について(検討の方向性)」の5頁に「いわゆる『社会的処方』について」が含まれたためです。ただし、これには①「骨太方針2020」の文章の抜粋「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会における様々な支援へとつなげる取組についてモデル事業を実施する ※下線部が、いわゆる『社会的処方』と呼ばれる取組」と、②「高齢者の社会的リスクに関する基礎的調査研究事業」の抜粋(中心は「英国で用いられている社会的処方の定義」の紹介)が示されているだけです。

逆に資料4の1頁の「これまでの分科会における主なご意見(居宅療養管理指導)」の冒頭には、「社会的処方については、その考え方がしっかりと理解され、浸透しなければ、展開は難しいため、社会的処方の事例を示したうえで十分な議論を行う必要があるのではないか」との社会的処方の早期の「展開」=制度化には否定的な意見が掲載され、それに続いて、「かかりつけ医の機能には、医療的機能と社会的機能があり、社会的機能に着目し、地域の関係機関についての情報提供をしていくことは取組として想定されるのではないか」との「多職種・多機関連携」につながる意見が書かれています。

資料4の3~33頁には居宅療養管理指導の改革に関する4つの論点が示されていますが、上記5頁を除いて、「社会的処方」の記述は全くありません。

「骨太方針2020」中の「社会生活面の課題」という表現は、論点①「基本方針を踏まえた居宅管理指導の実施と多職種連携」(3頁)と論点④「医師・歯科医師から介護支援専門員への情報提供」(33頁)の2か所で用いられていますが、そこで想定されているのは、居宅管理指導を行う医師(かかりつけ医)が書く「主治医意見書」や「診療情報提供書」に「社会生活面の課題」の記載欄を設けることだけです。当然それに対する介護報酬等の加算はありえません。

実は「骨太2020」の上記記載「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け」ることは医療を想定していますが、資料4では、それが介護保険の居宅療養管理指導の改革(医師・歯科医師から介護支援専門員への情報提供に「社会生活面の課題」を加える)にすり替え・限定されています。これを、「社会的処方」の制度化と呼ぶのは無理があり、逆に「社会的処方」制度化の棚上げ・先延ばしと言えます。

私が知り得た情報では、「骨太方針2020」に「社会生活面の課題」、「社会的処方」という表現が突然盛り込まれたのは、加藤勝信厚生労働大臣(当時)が、「社会的処方」の制度化を目指している研究者や実践家のレクチャーを受けて、それが医療政策の新しい目玉になると飛びついたためだが、彼はその後内閣官房長官になったので、現在では、厚生労働省内に「社会的処方」の制度化を積極的に推進しようとする人はほとんどいなくなったそうです。しかし、厚生労働省は、「骨太方針2020」の記載を無視することはできないので、「やってる感」を示すため、医療本体への「社会的処方」の導入は避け、介護保険の居宅療養管理指導に「社会生活面の課題」を加えることで<お茶を濁した>と私は推察しています(ただし、物証はありません)。私はこのやり方は合理的・現実的と思います。

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3.インタビュー:コロナ禍が地域医療構想に及ぼす影響と新内閣の医療改革方針を読む

(『国際医薬品情報』2020年10月12日号:8-17頁)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は我々の生活を一変させた。中でも医療機関は、COVID-19患者の受け入れ対応や感染を恐れる患者の受診抑制など、その影響は甚大だ。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が、加盟する4332病院に対して行った調査(5月18日発表)では、病院の外来患者・入院患者共に大幅に減少し、経営状況が著しく悪化していること、特に新型コロナ感染患者の入院を受け入れた病院では、経営状況の悪化が深刻であることが報告されている。

今も収束の兆しが見えない中、我が国ではCOVID-19対策を柱とする補正予算が二度にわたって計上され、ポストコロナを見据えた骨太方針2020が閣議決定されたが、それからわずか1か月余で安倍首相が辞任を表明し、新首相には安倍内閣を官房長官として支え、安倍路線継承を掲げた菅義偉氏が就任した。そこで安倍内閣時代のコロナ対策、骨太方針2020さらには菅義偉新内閣の医療・社会保障政策について、医療経済・政策学の権威である日本福祉大学前学長の二木立先生にお話を伺った。

予備費を活用し医療機関への公的支援を

――6月12日に成立した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を柱とする第二次補正予算では、COVID-19関連の医療体制等の強化として3兆円弱が計上されました。2兆円超が計上された新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金には、重点医療機関への支援や医療従事者への慰労金給付が含まれています。第二次補正予算についてどう評価なさいますか。一時的にも診療報酬を引き上げてはどうかという議論についてのご見解も伺いたい。

二木 この第二次補正予算は複眼的に見る必要があります。安倍首相は閣議決定した5月17日、医療提供体制や検査体制の充実を重要な柱に位置づけ、「2兆円を超える予算を積み増した」と説明しました。厚生労働省分は4兆9733億円で、そのうち2兆7179億円(54.7%)が「ウイルスとの長期戦を戦い抜くための医療・福祉の提供体制の確保」(以下、「医療・福祉の提供体制の確保」)に充てられています。

「医療・福祉の提供体制の確保」の82.3%は「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の抜本的拡充」2兆2370億円であり、これは第一次補正予算の「緊急包括支援交付金」1490億円の15倍です。このような巨額が積み増しされたことは、コロナと戦う医療機関・医療従事者への国民の支援・感謝の高まりを追い風にして、日本医師会等の医療団体が積極的な予算要求を行った成果と言えます。

この緊急包括支援交付金の抜本的拡充として、コロナ患者を受け入れる重点医療機関の病床確保等(4700億円)、コロナ患者を受け入れた医療機関等の医療従事者・職員への慰労金(2900億円)、医療機関・薬局等の感染拡大防止策等の支援(2600億円)等が新たに追加されました。「空床確保料」の補助(コロナ対応の空き病床に最大30万円超を補助)と医療機関の医療従事者・職員への慰労金を最大20万円、約310万人に支給することは、史上初めての画期的施策です。

第一次補正予算では「緊急包括支援交付金」の対象を医療機関のみを対象にしていたのと異なり、第二次補正予算では新たに介護・障害・子どもの3分野も対象に広げ、6091億円が計上された(「医療」は1兆6279億円)ことも画期的施策として評価しています。

他面、これらの支援はコロナ患者を受け入れた医療機関を対象としており、コロナ患者は受け入れていないが、患者の受診控え等により経営困難に陥っている医療機関への支援はほとんど含まれていません。この点の評価は新聞各紙も論調が二分しています。具体的には、ふだんから政府寄りの「読売新聞」と「日本経済新聞」は、財政支援はコロナ患者を受け入れている病院に限定すべきと主張しています。】]

私は、医療機関は公私の区別を問わず、国民の健康を守るために公的役割を果たしている社会的インフラ、「社会的共通資本」であり、「医療安全保障」の視点からも、医療機関の倒産や機能低下を防ぐために経営困難に陥っている医療機関全体に対する公的支援が必要と思います。

公的支援の財源として、自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部は5月18日に「新型コロナウイルスに伴う医療提供体制等への補正予算額について」を取りまとめ、診療報酬による補填(減収補償・休業補償)を提言しました。「前提条件」および「計算式」によってコロナ非対応病院・診療所も補填対象に含める内容で、説得力のある算出根拠を示していると思いますが、その財源を診療報酬に求めることは、患者負担増による更なる医療機関離れが加速する危険があります。

また神奈川県保険医協会は、6月3日の政策部長談話「日本の医療提供体制を守るため診療報酬の『単価補正』支払いを求める」にて、診療報酬の「単価・変動補正」導入を提案しています。それは、例えば前年の8/10へ減収となった場合は、診療報酬1点単価を10円×10/8=12.5円と補正するというものです。しかし患者負担は1点10円のまま、医療機関への支払基金や国保連合会(審査・支払機関)からの支払い分に適用すればよいとされていますから、患者負担の増加はありません。理論的には面白いと思いますが、現時点では実現可能性は不透明です。

私は緊急措置として、第二次補正予算で計上された「予備費」の活用が好ましいと思います。予備費10兆円のうち2兆円は医療体制強化に充てられることになっていますから、まずはその2兆円を用い、不足するようであれば使途未確定の5兆円の一部を充当すべきです。横倉義武日本医師会会長(当時)も厚生労働大臣への要望書「医療機関等へのさらなる支援について」(6月9日)において、同様の財源による支援を求めています。

私は、迫井正深新医政局長の就任記者会見での以下の見識ある発言に大いに期待しています。「新型コロナ患者の有無にかかわらず、医療機関をつぶさない対応は必要であり、支援策を財政当局と協議しているところだ。/8月28日の新型コロナ対策のパッケージにおいても、医療機関の経営支援は明記されており、予備費の活用を含め対応を講じる」(『社会保険旬報』2020年9月21日号:10頁)。

「効率」一辺倒で余裕のないスタンスの見直しへ

――COVID-19感染者増とともに社会問題化したのが医療資源の逼迫、特に病床不足です。
地域医療構想として、厚生労働省は約440の公立・公的病院の再編・統合を今秋までに検討するとしていました。COVID-19の影響で事実上延期されていますが、公立・公的病院の再編・統合は進むでしょうか。31年4月1日現在、特定感染症指定医療機関、第一種及び第二種の感染症指定医療機関全体のうち、公立病院及び公的病院が占める割合は、感染症病床全体の九割以上とされています。地域医療構想全体にどのような影響があるでしょうか。コロナ対応で第一線を担った保健所の機能については見直しがあるでしょうか。

二木 保健所については、1994年施行の地域保健法により、対人保健サービスの多くが保健所から市町村の事業に移管された結果、保健所数は1994年の848か所から2019年の472か所へとほぼ半減し、保健所がコロナ対応を迅速に進める上で重大な障害になりました。全国20の政令指定都市のうち複数の保健所があるのは福岡市だけです。逆に、今回、コロナ患者が大量に生じた大阪市は、人口が全国第2位(274万人)であるにもかかわらず保健所が1か所しかないだけでなく、支所もありません。

鈴木康裕厚生労働省医務技監も「保健所の人員はずっと減らしてきているので、大変な状況になってしまいました。今後は、こうした状況をしっかり受け止められる行政システムを作っておくべきだと思います」と発言しています(*1) から、今後、COVID-19が収束した後にも、将来の新たな感染症の発生に備えて保健所の機能強化が図られる可能性は大いにあると思いますし、私は、機能強化は絶対に必要だと思っています。

地域医療構想については3つの見直しが図られると思います。第1に、現在の地域医療構想の「2025年の医療機能別必要病床数」には感染症病床が含まれていませんが、それが加えられるのは確実です。感染症病床は2000年の2396床から2018年には1882床に減少していますが、将来の新たな感染症の発生に備えて、病床数の大幅増加が図られると予測します。この点については、横倉義武日本医師会会長(当時)も、5月26日の緊急記者会見で「二次医療圏毎に感染症病床を一定数確保することが必要だ」と述べ、議論を急ぐ必要があるとの考えを示しました。

第2に、「2025年の医療機能別必要病床数」で想定されている高度急性期・急性期病床の大幅削減の見直しが図られると予測します。その際、ICU(集中治療室)の大幅拡大は必須です。ICUの定義は国によって異なりますが、厚生労働省医政局「ICU等の病床に関する国際比較について」(本年5月6日)に基づいて、日本の「人口10万人当たりICU等病床数」に「ハイケアユニット入院管理料の病床」を加えても13.5床で、ヨーロッパで医療崩壊を防いだドイツの29.2万床の半分以下(46%)にすぎず、医療崩壊が生じたイタリア(12.5床)、フランス(11.6床)と同水準です。

公立・公的病院の再編・統合計画も大幅な見直しを迫られるでしょう。COVID-19対応で最も活躍したのは、従来、病床利用率が低く無駄が多いと指摘されていた公立・公的病院でした。吉田学医政局長は公立・公的病院がCOVID-19患者の7割を受け入れたと報告しています(2020年6月9日衆議院厚生労働委員会)。私は、その理由は、コロナ患者を受け入れやすい高機能病院では公立病院の割合が高いだけでなく、公立病院の病床利用率が民間病院よりも低く、結果的に患者を受け入れる「余裕」があったためでもあると、推察しています。高市早苗総務相も6月25日の「全世代型社会保障検討会議」で、公立病院は新型コロナの感染症患者の受け入れで非常に大きな役割を果たしていると強調し、こうした役割を踏まえて地域医療構想の実現に向けた議論を進める必要があると主張していますから、病床削減計画や医療費抑制を目的とする公立・公的病院の再編・統合は相当見直されると思います。ただし、機能強化のための再編・統合は今後も進められます。

第3に、「効率」一辺倒で余裕のない地域医療構想のスタンスが見直され、将来生じる可能性がある様々な大災害(新たな感染症の発生、南海トラフ地震や首都直下型地震等の大地震、さらには富士山噴火等)にも迅速に対応する「医療安全保障」という視点から、各都道府県および全国で、ある程度余裕を持った病床計画(特に高度急性期・急性期病床)が立てられるようになるだろうと、やや期待を込めて思っています。

地域医療構想では2025年の必要病床数を推計する際に、高度急性期病床の病床利用率を75%、(一般)急性期病床のそれを78%に設定しています。実は私は2015年にこの数値を見たときは随分低いと感じたのですが、今回のコロナ危機を踏まえると、この程度の余裕があれば危機が突発しても対応できると思い至りました。

しかし、現在の診療報酬では、病院は90~95%の病床利用率を維持しないと黒字にならないような構造になっています。そのため今後の重要課題は、地域医療構想が前提とする70%代後半の病床利用率でも十分に経営が成り立ち、適正利益(概ね5%)が確保できるような入院の診療報酬を設定することです。そうすれば普段90%程度の病床利用率を達成している病院は着実に「内部留保」を積み上げることができ、今回のように患者の受診控えが突発しても、経営危機に陥ることはないと思います。

――安倍内閣は7月17日「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」を閣議決定しました。印象的なのは、ポストコロナ時代の経済社会の「新たな日常」という表現です。この「新たな日常」をデジタル化によって実現するという手段は明記されていますが、そもそも具体的な像が見えにくい印象です。まずは印象をお聞かせください。

二木 「骨太方針2020」全体のキーワードは、コロナ後の「新たな日常」の実現とそれを支えるための「デジタル化の推進」です。「新たな日常」は目次だけで9回も用いられ、本文でも約30回使われ、そのすべてが括弧付きで強調されています。

ただし、この新語の説明・定義はどこにも書かれていません。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が5月4日の「提言」で用いた「新しい生活様式」よりはるかに広い意味でも用いられており(例:「新しい未来における経済社会の姿の基本的方向性」3頁)、両者は同じではありません。

安倍首相がこの言葉を最初に用いたのは、5月4日の記者会見時で、このときは「三つの密を生活のあらゆる場面で、できる限り避けていく」と、専門家会議の「新しい生活様式」と同じ意味で用いました。しかし、5月14日の記者会見では、「コロナの時代の新たな日常を取り戻していく」等、より広い意味でも用いるようになり、「骨太方針2020」ではその意味がさらに拡散しました。

この用語の定義は西村康稔経済再生担当相の7月14日記者会見でも質問され、大臣は、それには「広い意味と狭い意味」があり、「広い意味で言えば、社会全体で社会構造、経済構造全体を考えていけば(以下略)」と、しどろもどろの説明をしました。

「新たな日常」が「骨太方針2020」の「マジック・ワード(呪文)」になっていることは、どの分野の改革でも明確な理念を持たず、政権を維持するために、新しい人目を引く新語を次々と作っては使い捨てていく安倍内閣の特徴をよく示しています。

医療分野においては、「骨太方針2020」において初めて「医療提供体制の強化」が用いられたことは注目すべきです。「骨太方針2019」(60頁)で、「医療提供体制の効率化」(内容的にはそれの縮小)が掲げられていたのとは様変わりしています。ただし、その中身はコロナ対応に終始しており、不可欠なはずの地域医療構想の見直しにも全く触れていません。一番問題だと思うのは、コロナ危機のために大半の医療機関が経営困難に陥っているにもかかわらず、それに対する対策がほとんど書かれていないことです。31頁には、「累次の診療報酬上の特例的な対応や新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金等による対策の効果を踏まえつつ、患者が安心して医療を受けられるよう、引き続き、医療機関・薬局の経営状況等も把握し、必要な対応を検討し、実施する」と書かれています。しかし、これは2021年度予算で対応すると述べているに等しく、「今そこにある危機」に対する緊張感に欠けています。

――社会保障では、先生は骨太方針2019について、2018同様「全世代型社会保障」が登場するが、それは社会保障というより労働・雇用政策という面が強くなっていると指摘されていました。骨太方針2020では、そもそも「全世代型社会保障」なる表現が消えました。これはある意味2019年の流れに沿ったものと言えるかもしれません。どう評価されますか。

二木 「全世代型社会保障」を最初に提起したのは「社会保障制度改革国民会議報告書」です。ここでは、「全世代型の社会保障への転換は、世代間の財源の取り合いをするのではなく、それぞれに必要な財源を確保することによって達成を図っていく必要がある」と強調していました。しかし、安倍政権では「社会保障の機能強化」自体が消えましたので、そもそも財源を探す必要がなくなったわけです。安倍首相は昨年7月の参議院議員選挙時に、消費税率の10%を超える引き上げは「今後10年間くらいは必要ない」と繰り返し明言し、社会保障拡充に不可欠な負担増の議論を封印しましたが、あのようなことは言うべきではないと思います。

安倍政権下の骨太方針で「全世代型社会保障」が使われたのは2017~19年です。17年では少子化対策の項目で、18年には子育て少子化対策都財政健全化との関係で述べられました。ところが19年には子育て関連は消え、①70歳までの就業機会確保②中途採用・経験者採用の促進③疾病・介護の予防―が3本柱になりました。そして20年には「全世代型社会保障」自体が消えています。

19年の①、②は「労働・雇用政策」ですから、そもそも「社会保障」とは異なります。労働・雇用政策と社会保障政策は社会政策(Social policy)の両輪の関係にあるものです。

「社会的処方」は日本の風土に馴染まない

――「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会におけるさまざまな支援へとつなげる取り組み(社会的処方)についてモデル事業を実施する」と明記されています。唐突な印象も受ける「社会的処方」は日本にも浸透するでしょうか。

二木 私は元リハビリテーション専門医です。「障害者の全人間的復権」を目標とするリハビリテーション医学では、伝統的に、障害の医学的側面だけでなく社会的側面も重視してきました。ですから、疾病の社会的要因を重視していることに意を強くし、主導する研究者には敬意を持っています。

ただし、社会的要因を重視するためのアプローチは各国の実情に応じて選択されていくべきだと思います。

「社会的処方」は英国NHS発祥の制度です。英国では、国営医療の下で、一般医(GP)の一部が「患者の健康やウェルビーイングの向上などを目的に、医学的処方に加えて、治療の一環として患者の地域の活動やサービス等につなげる社会的処方と呼ばれる取り組みを行う」ようになっています。

よく知られているように、GPに対する報酬支払いは登録患者数に応じた人頭払いが原則で、GPは登録患者の治療だけでなく、予防・健康増進活動にも責任を持っています。英国の「社会的処方」はこうした土壌があるからこそ導入され、普及しつつあるのだと思います。

日本にはこうした土壌はありません。私は、疾病の社会的要因への取り組みとして、「地域包括ケア(システム)」、「地域共生社会」の枠組みが利用され始めていることに注目しています。厚生労働省も積極的に後押ししている地域包括ケア(システム)の構成要素は法的には、医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援の5つとされていますが、最近は「地域づくり」も含まれるようになっています。先進事例では、ソーシャルワーカーが医療と社会(福祉)を繋ぐ上で大きな役割を果たしています。

本年6月に成立した改正社会福祉法には、福祉分野の地域共生社会づくりを促進するために、市町村が任意で行う「重層的支援体制整備事業の創設及びその財政支援」が盛り込まれました。地域共生社会と地域包括ケア(システム)の法的関係は曖昧ですが、今後は、両者を一体的に実施する市町村が増えると予想しています。

なお、改正社会福祉法を含む「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」の参議院「附帯決議」では、重層的支援体制整備「事業を実施するに当たっては、社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努めること」と記載されました。

「地域包括ケア(システム)」、「地域共生社会」のいずれも、鍵となるのは多職種連携です。医師への権限集中を見直し、他の職種の役割を拡大して連携・協働していこうという流れが着実に作られてきたのです。

一方「社会的処方」は医師中心、しかも医師法での独占規定がある医業ではなく、社会的分野にまで医師中心の医療を拡大しようとするものです。

仮に日本で社会的処方が制度化された場合、その報酬は「社会的処方加算」として加算を付けることになるでしょう。そうすると、粗製濫造で加算を付けられてしまう懸念も生じます。

日本の医療の変革は、日本の医療の現実と歴史を踏まえてしか、成し得ません。これは私の持論であり、信念でもあります。英国の社会的処方は決して、疾病の社会的要因に対する取り組みの世界標準ではありませんし、日本がそのまま導入しても根付くとは思いません。

なお私は、政策については、中身とプロセスを見て評価します。「社会的処方」については、学術的な報告も殆どなく、厚生労働省の審議会や検討会での検討も一切ありませんでした。ですから、たとえ仮に素晴らしい中身であったとしても、手続きを無視しているという点において反対します。

小泉内閣より厳しかった安倍内閣の医療費抑制

――第二次安倍内閣の医療政策の位置づけ、その政策の特徴、そして成果について、どのように評価されていますか。民主党政権後ということもあり、医療政策はどう変化したのか。また、在任期間中の数々の取り組み(医療・社会保障改革(方針)、地域医療構想、医薬品等の費用対効果評価、医療保険制度の改革)について、先生の評価をお聞かせください。

二木 安倍内閣の医療政策は一枚岩ではありません。安倍首相と経産省中心の官邸主導で行われたこと、と厚労省主導で行われたことは区別しなければなりません。その上でまとめると、4つの特徴が挙げられます。

1つ目は、安倍首相と官邸の主導で、厳しい医療費抑制政策を復活させたことです。その厳しさは小泉内閣時代よりも厳しいと言えます。国民医療費の年平均伸び率を過去の政権と比較しますと、第2次安倍内閣時代の2013~17年度の5年間では平均1.9%に過ぎません。民主党政権時代の2010~12年度の平均2.9%を遥かに下回り、厳しい医療費抑制策を取った小泉内閣時代の平均1.3%に近い値です。

医療費の伸び率と経済(GDP)の伸び率はパラレルになることは関係者の常識になっており、小泉政権時代ですら、国民医療費の対GDP比は微増しました。しかし第2次安倍内閣は、GDPは上がりましたが、医療費の対GDP比は7.9%前後に固定され、医療費と経済の関係は完全に失われました。

2つ目に、消費税率引き上げを2回延期したことです。これも安倍首相のイニシアティブでした。これにより財源を4年間で20兆円を失うことになり、社会保障の機能強化が妨害されました。

3つ目は、医療分野への市場原理の部分的導入を試みたが、殆どが失敗に終わったことです。これも首相と官邸の主導です。

4つ目は、「地域包括ケア」と「地域医療構想」を推進したことです。ただし、これは首相や官邸主導ではなく、厚生労働省が医師会などの協力を得て粛々と進めた結果です。

医療政策は、医療保険制度改革と医療提供体制改革の2本柱から成ります。医療保険制度改革は予算が絡みますから首相官邸や財務省が掌握しています。これに対して、医療提供体制改革は、基本的には予算「非」関連施策で、しかも専門的な内容になるために、厚労省以外は口を出せないのです。これがもし国営あるいは公的医療の国だったら、統制できますが、日本は民間医療機関が主体ですから、厚生労働省が医師会などの医療団体の了解や合意を得ながら、少しずつ進めるしかありません。

なお、地域包括ケアが公式に提案されたのは2003年の小泉政権時代です。医療政策のうち医療提供体制については、政権に左右されることなく、厚生労働省の主導により連続性が保たれていることが改めて明らかになりました。

――予算が絡む医療保険制度改革部分については、安倍内閣の「自助」の理念が入っているのでしょうか。

二木 確かに安倍内閣は一貫して、「自助」を中心とする「自助・共助・公助」を理念として掲げており、アベノミクスの第1弾、2013年の「3本の矢」には社会保障や再分配は何も含まれていませんでした。しかし「一億総活躍社会」を目ざした2015年の新・3本の矢には社会保障が明記されました。「自助第一」を掲げながらも再分配も大事にするようになり、国内政策はずいぶん現実化しました。

新首相の社会保障・医療改革への関心は極めて低い

――安倍内閣の路線継承を掲げて当選した菅義偉新内閣の医療・社会保障政策をどう予測しますか。

二木 「自民党総裁選2020政策パンフレット」によれば、菅義偉氏は「安倍路線の継承」を一枚看板にしているため、社会保障・医療改革に関しては、大枠では安部内閣の方針を踏襲すると言えます。具体的には、安倍内閣以前から、厚生労働省が日本医師会等との協議・合意に基づいて進めてきた、地域医療構想や地域包括ケア(システム)、地域共生社会づくりが進められることは確実です。驚いたことに、6本の柱を謳うこの総裁選パンフレットにおいて「少子化に対処し安心の社会保障を」は5番目の柱であり、序列が低く、しかも、医療にはほとんど触れていませんでした。

私は8月28日に安倍晋三首相が退陣の意向を表明してから、菅氏の著作・論文・発言を集中的に読みましたが、それらに社会保障・医療(改革)への言及は殆どありませんでした。例えば、菅氏が『文藝春秋』10月号(94-101頁)に発表した「我が政権構想」は社会保障・医療改革に全く言及していません。菅氏の唯一の著書で、2012年3月(民主党政権時代)に出版した『政治家の覚悟-官僚を動かせ』には、菅氏の衆議院議員としての業績が網羅的に書かれていましたが、社会保障・医療保障についての言及はありません。

実は、菅氏は小泉内閣時代に総務大臣として、旧「公立病院改革ガイドライン」のとりまとめに着手し、それは公立病院の民営化や経営効率化を正面から打ち出していたのですが、なぜか、それにも全く触れていません。菅内閣官房長官に直撃してまとめた大下英治『内閣官房長官』は、菅氏の「伝記」とも言えますが、やはり社会保障・医療保障への言及はほとんどありません。

日本経済新聞9月6日朝刊の単独インタビューでも、医療については「オンライン診療恒久化」にしか触れていませんでした。医療社会保障に関連する政策として掲げられたのは、このオンライン診療恒久化と不妊治療の保険適用のみです。自己が必要と判断した個別の改革を実現しようとする執念・突破力は非常に強く、自民党総裁選挙時も「政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は異動してもらう」と明言した方ですから、この2点に関してはこれまでの柵を廃して強行実現しようとすると思いますが、それらは医療改革の柱とはなり得ません。なお、オンライン診療恒久化は「オンライン診療・教育は恒久化」と書かれているように、医療政策というよりは、デジタル社会化(デジタル庁創設を含む)の一環と位置づけているようです。小泉政権誕生以来20年にわたって、良くも悪くも改革の柱の1つであり続けてきた社会保障が、これほど軽く扱われていることに衝撃を覚えました。

菅氏は総裁選パンフレットにおいて「『自助・共助・公助』で信頼できる国づくり」を掲げました。9月12日に開かれた自民党総裁選挙討論会でも、菅氏は自己の「国家像」について、目指す社会像は自助、共助、公助、そして絆だ。まず自分でやり、地域や家族が助け合う。その上で政府が守る」と述べました。これは『政治家の覚悟』(197頁)にも書かれている菅氏の信念です。

「自助、共助、公助」論自体は、自由民主党の伝統的な方針です。しかし、まだコロナの収束も見えず、「公助」の役割とそれへの国民の期待が大きくなっているこの時期に、そして菅氏自身が「国難の新型コロナ危機を克服する」ことを新政権の第1の課題に挙げていながら、「まず自分でやる」ことを強調する姿勢には違和感を感じました。

安倍首相の国家観は保守的であると同時に、先ほど述べたように「ウェット」な側面もありました。それに対して菅氏は非常に「ドライ」かつ強権的で小さな政府志向が強く、この点では小泉元首相や竹中平蔵氏に近い。菅氏は第3次小泉内閣時代に総務大臣を努めた竹中氏の下で副大臣を務めた間柄でもあります。

顧みると、安倍内閣時代の診療報酬改定では薬価部分は毎回引き下げられてきました。その安倍内閣の薬価引き下げ・薬価制度改革を陰で仕切ってきたといわれているのが官房長官だった菅氏です。具体的には、2016年度のオプジーボ薬価の特例的・連続的大幅引き下げ(当初薬価の4分の1)、2016年12月の四大臣合意「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」、そして2021年度から実施される毎年の薬価改定(引き下げ)です。実は2021年度の薬価改定に不可欠な2020年度の薬価調査は、コロナ危機のために調査が困難であることを理由にして、製薬団体だけでなく、日本医師会等も反対しましたが、菅官房長官が譲らず、「骨太方針2020」に盛り込まれました。

私は、薬価改定(引き下げ)自体は製薬団体以外は強く反対しないため、今後、コロナ患者が激増しない限り、来年度実施される可能性は強いと思います。ただし、それは診療報酬改定と切り離されるため、薬価引き下げで浮いた原資の診療報酬本体への振り替えは全く生じないため、医療機関の経営困難が加速する危険があります。

――新型コロナ対策として、予備費から1兆円超を支出することが決定されました。財源をどこで調整するかを考えると、またターゲットにされやすいのかもしれません。

二木 私は社会保障の拡充には賛成ですが、それを求める場合は必ず財源を示す必要があると思います。例えば、竹中氏のように小さな政府指向あれば、消費税率を上げずに小さな政府を目ざすというのは筋が通りますが、社会保障の機能強化を求めるばかりでその財源を示さず、消費税率引き上げにも反対するというのは無理があります。

保健所の機能強化や医療提供体制の強化に必要な財源については、租税財源の特別措置による補完が必須と考えています。その際は、横倉前日本医師会会長の言葉を借りると、消費税だけに頼る「一本足打法からの脱却」を図り、租税財源を多様化させることが不可欠と思います。さらに、東日本大震災後の「復興特別税」と同様の「コロナ復興特別税」(仮称)の導入を期待しています。

一部には、MMT(現代金融理論)に依拠して主権国家は国債を無制限に発行できるとの主張も見られますが、それは誤解で、MMTも「インフレが政府支出の制約となる」ことを認め、その「場合は政府支出を増やすのではなく、むしろより多くの税金を課し、通貨に対する需要を増加させるべき」と主張しています(*2) 。言うまでもありませんが、そのときは厳しい歳出削減も同時に行われ、社会保障関係費も大幅に抑制されます。

オンライン診療恒久化を巡る攻防は必至

――菅首相が恒久化の方針を示しているオンライン診療は、果たして浸透していくでしょうか。浸透すると、患者が有名な医師に集中して「地域完結型医療」のバランスが崩れてしまう懸念もあります。

二木 有名な医師に全国から患者が集中するという事態は起こらないと思います。なぜなら厚生労働省は8月26日に発出した事務連絡で医療機関に実施要件の順守を改めて求めるとともに、対象患者は生活や就労の拠点が医療機関と同一の2次医療圏内にあることが望ましいとの考えを示していますし(*3) 、オンライン診療は実は対面よりよほど時間が掛かると言われおり、3分診療とはいきません。また、診療から処方まですべてオンラインで本格的に実施するには相当の設備投資が必要になりますから、対面より低く設定されている今の点数では到底足りません。そこで普及させるためには、高い点数を付けるか、少なくとも対面と同等にしなければいけない。しかしそれでは患者にメリットは無く、医療費も増えてしまいます。そもそもオンライン診療を歓迎するのは多忙なビジネスパーソンでしょうが、彼らに対応するために時間外診療を広げれば、今度は医師の働き方改革に矛盾します。

緊急時は別として、そもそも高齢者は直接診てもらい話を聞いてもらってこそ安心を覚えますし、有用性が主張される僻地であっても訪問診療や在宅医療と組み合わせる方が現実的ではないでしょうか。国民全体で見れば、オンライン診療はあくまで補助的な位置付けに留まると思います。

実は、菅政権も踏襲を表明している「骨太方針2020」では、2箇所のオンライン診療についての記述には大きな温度差があります。20頁では「診察から薬剤の受け取りまでオンラインで完結する仕組みを構築する」と明言しながら、31頁では「時限的措置の効果や課題等の検証について、受診者を含めた関係者の意見を聞きエビデンスを見える化しつつ、オンライン診療や電子処方箋の発行に要するシステムの普及促進を含め、実施の際の適切なルールを検討する」と書かれています。

菅氏は、先ほど挙げた日経新聞9月6日の単独インタビューで「オンライン診療恒久化」に触れる一方で、他の新聞(「読売」、「朝日」)の単独インタビューでは「オンライン診療恒久化」には触れていませんでした。ただし、9月8日の自由民主党総裁選所見演説会では「ようやく解禁されたオンライン診療は今後も続けていく必要がある」と述べています。

オンライン診療は、現在は新型コロナウイルス感染への対応として、特例で、初診を含めた全面解禁となっています。私はオンライン診療の拡大には決して反対ではありませんが、初診患者を問診と視診のみで診断・処方することは誤診や見落としのリスクがあるため、初診患者を無条件にオンライン診療の対象に含めた恒久化には反対です。日本医師会も4月の定例会見で、「全くの初診からのオンライン診療の実施は、情報のない中での問診と視診だけの診断や処方となるため、大変危険である」との従来の見解を改めて説明し、コロナ対策としての全面解禁は「特例中の特例であり、例外中の例外である」ことを強調していました。

厚生労働省も8月26日に発出した事務連絡で医療機関に実施要件の順守を改めて求めるとともに、対象患者は生活や就労の拠点が医療機関と同一の2次医療圏内にあることが望ましいとの考えを示しました(*4) 。

中川俊男日本医師会会長は、菅首相の方針を受けて、9月24日の記者会見で、以下の3つの「基本スタンス」を示しました(*5) 。「▼ICT、デジタル技術など技術革新の成果をもって、医療の安全性、有効性、生産性を高める方向を目指す▼オンライン診療については、解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に、適切にオンライン診療で補完する▼新型コロナウイルス感染症拡大下でのオンライン診療にかかる時限的・特例的対応については、すでに検討会(オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会)で検証が行われつつあるが、あらためてしっかりした検証を行うことを要請する。」

私は厚生労働省が8月26日に発出した「事務連絡」と日本医師会のこの「考え方」は合理的と思います。

今後は、初診患者の「オンライン診療の恒久化」を巡って、首相と官邸、厚生労働省、日本医師会間で激しい攻防が生じるでしょう。しかし菅首相の豪腕を持ってしても、それの無条件解禁は困難で、患者の安全を確保するためのさまざまな条件・規制が加えられると思います。

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4.新著出版記念インタビュー:コロナ危機後を展望し診療報酬改革、地域医療構想を」

(『文化連情報』2020年12月号(513号):18-24頁)。

コロナ禍が生んだ医療への「弱い」追い風

― 先生の新著『コロナ危機後の医療・社会保障改革』が出版されました。この機会に、いくつかお聞きしたいと思います。新型コロナウイルス感染症の問題ですが、相当な規模の補正予算が付きました。どう評価されていますか。

二木 一番強調したいことは、コロナ危機が中期的には日本医療への「弱い」追い風になるということです。私は、短期的には大変なことは確かだが、5年くらいの単位で見れば、強くはないが弱い追い風になると見ています。

コロナ禍で、国民や患者、マスコミが医療あるいは国民皆保険制度、貧富の差なく医療を平等に受けられることの大切さ・すばらしさを体感したと思います。

少し前までは、医療には無駄があるとか、告発や医療事故の報道が中心でしたた。それが今回は「医療機関が頑張っている、感謝しなくてはいけない」「医療経営が大変な危機に陥っている、このままでは大変なことになる」と新聞が何度も報道しました。これはものすごく大きくな変化で、今までと比べると考えられないくらいの補正予算が付きました。根底には、国民意識、ジャーナリズムの認識の変化があると思うのです。

― 「弱い」追い風とはどういう意味でしょうか。

二木 なぜ強いと言わないかというと、中期的な財源をどう確保するが未解決だからです。今回の第2次補正予算はいわば緊急避難で1回きりです。私は、国民皆保険なのだから社会保険料を基本にして、消費税を含めた租税に加えて、今回は東日本大震災の時のようにコロナ復興特別税といった目的税で補うことを考えないといけないという意見です。

しかし残念ながら国民の意識はそこまでになっていません。新聞の論調も、コロナ患者を受け入れている病院に支援を限定(『読売新聞』、『日本経済新聞』等)と、すべての医療機関に焦点を当てるべき(『朝日新聞』、『毎日新聞』、『東京新聞』等)とで、分裂しています。第2次補正予算の予備費10兆円のうち、医療に2兆円が充てられることが決まっていますが、それに加えてまだ使途が決まっていない5兆円がどこまで医療に使われるのか。医療団体ががんばって、中くらいの追い風にすることが大事です。この程度の予算執行では、まだまだ序の口なのです。

医療機関全体への減収補償が必要

― コロナ患者を受け入れていない医療機関も含めて、コロナ禍に対して地域医療を支え合っていますが、菅新政権は医療機関全体の支援になかなか踏み込もうとしていません。

二木 菅内閣が発足した9月16日に閣議決定した「基本方針」には、医療機関全体を支えるとは書いていません。財務省の壁があるのです。

自民党の医系議員団が、緊急避難的に減収額のうち8割を診療報酬を上げて補償することを提案しました。画期的だと思います。ただこれだと自動的に患者負担が増えてしまう。それに対して神奈川県保険医協会の提案は面白い。医療機関の収益の減った分を逆数で掛けて、簡単に言うと2割減ったら1.2倍の診療報酬にするというものです。しかも患者負担は同じにするという。患者目線であり、大きな問題提起になったと思います。

余裕ある稼働率で経営できる診療報酬を

― 先生は「病院経営に余裕を持たせるための診療報酬改革」を強調されています。

二木 コロナ自体は100年に1度などと言われていますが、現実には、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして今度のコロナ危機と、それぞれの領域では100年に1度のことがしょっちゅう起こることを想定すべきです。

今回のコロナ危機で明確になったことは、医療はある程度余裕がなければだめなのだということです。要するに「人間の生活の安全保障」の視点です。

実は厚生労働省は、地域医療構想で2025年の必要病床数を推計するにあたって、病床稼働率を高度急性期は75%、一般急性期は78%と「余裕」をもって設定して計算しています。しかし現実には、稼働率90%~95%でやらないと病院経営が成り立たないというのは、働き方改革との関連を含めて無理があります。

稼働率75%、78%でも、収支差額率5%ぐらいの適正利益が出せ、ある程度の内部蓄積ができるような診療報酬水準を目指すべきです。こうした問題をぜひ医療界は要求したほうがいいと思います。

医療は社会維持のためのインフラ

― しかし、国は医療機関の淘汰を待っているのではないかというペシミストの関係者も多いです。

二木 淘汰を待つというのは、少しうがち過ぎだと思いますが、近年、受診率が入院・外来とも徐々に低下していて、それがコロナ禍で加速度が付き、完全に元どおりに戻るかどうか厳しい面もあるのは事実です。

しかし、日本の医療機関は、生き延びる、つぶれないという意味での活力は相当持っています。これまでも、2000年代初頭には「一般病床半減説」といった煽情的な報道がありました。しかし、医療は社会的共通資本(故宇沢弘文東京大学名誉教授)であり、人間社会を健全に維持、発展させるためのインフラストラクチャーなのです。それが破壊されたら、日本社会の底が抜けてしまいます。

医療の実態を知らない経済産業省や同省系の研究者は机上の空論を言っているかもしれませんが、少なくとも厚生労働省はそんなことは考えていない。政府は一枚岩という誤解がありますが、財界や経済産業省と厚生労働省の政策・考えは違うのです。財務省は厳しい医療・社会保障費抑制を求めていますが、経済産業省には極めて批判的です。

医療危機の一番単純な定義は、患者さんが適切な医療を受けられないことです。そんな医療危機が起こったら、厚生労働省どころか政府の負けなのです。そんなことはとてもできないですよ。

地域医療構想は3つの見直し

― 再協議を求められる地域医療構想への対応ですが、コロナ危機後の見直し課題はどのようなことになりますか。

二木 地域医療構想の理念自体は決して悪くないのです。病床数のみに議論が集中しがちですが、本来の考え方は違います。在宅医療や老人施設を含めてトータルに見通しをつくるということ。上からの統制ではなくて各都道府県レベルで関係者が自主的に議論するということ。それと、意外なのですが病床削減とか、医療費抑制は目的にはしていないということ。こうした点は厚生労働省も日本医師会も合意しています。ただ、経済産業省や経済財政諮問会議は誤解して、病床を減らせば医療費が安くなるだろうと、地域医療構想を医療費削減のツールにしようとするから話がこじれるのです。

見直しの一つ目は、構想に感染症病床を今まで入れてなかったのはミステイクですから、これは確保する必要があります。当然、公立病院・公的病院中心になります。

― ICU(集中治療室)の問題も浮上しました。急性期病床を極端に減らせないという課題もあります。

二木 二つ目がICUです。OECDのデータで見ると日本のICUの数は極端に低い。けれども日本には、HCU(集中治療室と一般病棟との中間に位置する高度治療室。4:1の看護配置)といった準集中治療管理室が存在します。諸外国だとこれらもICUに入れて計算します。ですから日本のICUは極端に少ないわけではなく、やや低めぐらいというところです。ICUを増やすといいますが、何十倍にも増やすという意味ではありません。

急性期を極端に減らさない医療安全保障の視点

二木 三つ目が医療安全保障という視点です。極端に病床を減らすのではなくて、視点を変えるということです。よく、お年寄りはケアで十分だから急性期病床は要らないなんて言われますが、そんなことはありません。高齢者でもほとんどは、まず急性期なのです。コロナ禍ではっきりしましたが、日本では貧富の差だけではなくて、年齢の差もなくコロナ患者を平等に扱っています。これは他国と違い、命の選別は日本ではしないということです。「治す医療から支える医療へ」「キュアからケアへ」という言い方が、いかにおかしかったか。社会保障制度改革国民会議報告書は、「治す医療から治し・支える医療への転換が必要だ」と提起したのです。コロナ禍により急性期病床はそんなに減らせないことがはっきりしたと思います。

それから、コロナ禍でもう一つ分かったのは、高度急性期を一部の病院に集中・限定するのではなく、複数確保しておかないと危ないということです。その病院が院内感染を起こしたらおしまいですからね。

統廃合リスト問題は仕切り直し

― 昨年、厚生労働省が統廃合を含めた再編の検討を求めて対象の病院名を公表し、424ショックと言われました。

二木 公立・公的病院の実名リスト公表は、官邸や経済財政諮問会議の圧力がかなりあったのだろう思います。本来の地域医療構想は病床抑制を目的にしていないのに、それを誤解した、上からの圧力です。一方で、地域医療構想の調整がうまくいかない都道府県の方から何とかしてという要望も厚生労働省に上がって、両方の圧力・要望で出てきたものだと思います。

直後にコロナ危機が起きて、リストに掲載された病院を含めて公立・公的病院が中心的役割を果たしました。厚生労働省も総務省もこれを認めていますから、リスト問題は仕切り直しになるでしょうね。

あと、病床数の削減目標数が大幅に縮小し、2015年の新聞報道の20万床減から、最近では5万床減になった。いかに計算がいいかげんかが分かります。名目で5万床減らすとしたら、介護療養や医療療養の一部病床を介護医療院に移すだけで達成できてしまう。さらに、少なくとも9万床あると言われている長期の「休眠病床」を返上することで、無理なく達成できてしまうのです[補注:10月23日に公表された『令和2年版厚生労働白書』では、2015年に「休眠等」病床が8.7万床あるとの推計が初めて示されました(338頁)]。

社会保障政策の構想が希薄な菅首相

― さて菅新政権に関してですが、社会保障についてはあまり政策構想の表明がないように思います。

二木 本誌先月号の「医療時評」でも書いたとおり、安倍前首相には「ウェット」な側面があるが、菅氏は逆に「ドライ」かつ強権的で「小さな政府」志向が強いと見ています。

菅首相の唯一の著書である『政治家の覚悟』(2012年、文藝春秋企画出版)を読んで2つのことが分かりました。最近、文書管理の重要性を語った部分を削除して文春新書として再出版されて問題になりましたね。

菅首相は、いい悪いは別にして、安倍前首相と違って国家観がありません。安倍前首相は強烈な戦前回帰的な保守の国家観がありました。菅首相はそれは全く持っていなくて、憲法改正の「け」の字も書いていないのです(笑)。もうひとつは、医療はもちろん、社会保障に関しては一言も触れていないことです。

菅首相は、第一次安倍政権の時に総務大臣として自治体病院の民営化・経営効率化を正面から打ち出した「公立病院改革ガイドライン」の策定に着手しました。彼にとってこれはある意味で業績なのですが、著書の『政治家の覚悟』では一切触れていません。『文藝春秋』2020年10月号(特集・安倍退陣の衝撃)に、菅首相の「我が政権構想」という長い論文が載っていますが、ここでも医療・社会保障については何も書いていません。

簡単に言うと、医療や社会保障にはもともと興味を全く持っていない人なのでしょうね。しかし、安倍政権を継承するということですから、地域医療構想と地域包括ケアの大枠は変わらずそのままいくと思います。

不妊治療やオンライン診療は無理筋

― やや唐突感をもって、不妊治療やオンライン診療のことだけは強力に打ち出していますね。

二木 突然出てきた、不妊治療の保険診療化とオンライン診療の恒久化という“2点突破”の政策は問題があります。このふたつは医療改革の本筋ではなくて、マイナーな周辺的なことですから、携帯電話の通信料値下げと同様の人気取り的なものでしょう。

不妊治療に対する補助金を増やすことはすぐできますが、保険診療に組み込むことは、現実には、そう簡単ではないのです。不妊治療は広い意味での先端医療なので治療方法はいろいろあり、自由診療ですから料金にものすごく差があります。これを保険診療にするということは、治療方法を標準化して、なおかつ料金も一律にする、つまり下げるわけですから、不妊治療を行っているほとんどの医療機関は反対します。標準化のための日数もかかります。

オンライン診療のほうは、医療改革というよりは、デジタル庁の創設、デジタル行政・デジタル社会化の象徴として、教育のデジタル化とワンセットで位置づけられています。オンライン診療はコロナ禍を理由にして、初診患者にも「時限的・特例的」に認められましたが、実態はパソコンを使ったものはあまり多くなく、電話再診が中心のようです。焦点は初診の取り扱いですが、オンラインですべての初診の患者を診察して薬を出すのは危険です。成りすましもあります。現在は菅首相の力が強いですから、言葉の上では初診を含めて「原則解禁」となる可能性もありますが、実際には、初診患者のオンライン診療の無条件解禁は考えられず、医療の安全を確保するためにさまざまな条件がつけられると思います。

毎年薬価改定にはこだわり

二木 菅首相が言ってないことで起こると予測されることは、薬価の引き下げです。安倍内閣のときのオプジーボの4分の1への薬価大幅切り下げ、四大臣合意「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(薬価の毎年改定)は、当時の菅官房長官が主導したのは有名な話です[補注:菅首相は10月26日の所信表明演説で、「毎年薬価改定の実現に取り組む」と明言しました]。

製薬団体、医師会、医療団体とも今年の薬価調査は無理だと言ったのに、骨太方針2020に「本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定について……」と、実施を前提とする表現を盛り込みました。あれにこだわったのが菅首相なのです。

来年度の薬価の引き下げはやるのではないかと思います。薬価の引き下げ自体は決して悪いことではないですが、来年は診療報酬改定がないですから、薬価引き下げをしてもそれを原資にして診療報酬本体に移すことができなくなってしまいます。

前政権の軌道修正から「自助」へ揺り戻し

― 菅首相はことさら「自助」を強調しています。むしろ前政権より強権的な姿勢も気になります。

二木 「自助」重視の「自助、共助、公助」論自体は、自由民主党の伝統的な方針です。ここで大事なのは、8年弱の安倍政権の後半はかなり軌道修正している点です。前半では、安保法制等かなり強引なことをやったイメージがありますが、後半は違います。2016年の「ニッポン一億総活躍プラン」は、明らかに「再分配」にウエートを移した政策です。全世代型社会保障改革は、自助と共助と公助のバランスを取るという意味だというのが大方の理解です。

そういう流れがあったのに、菅さんがあえて「まず自分でやり、地域や家族が助け合う。その上で政府が守る」と強調したのは、「社会保障の機能強化はしない。公助を重視しない。安倍前首相が軌道修正したようにはやりませんよ」という宣言だということになります。財源論では、「(安倍前首相と同じく)10年は消費税は考えない」と明言しましたから、必要な財源を確保しての「公助」の強化は行わないでしょう。

怖いと思ったのは、総裁選候補者のときのテレビでの発言で、「政府の方針に反対する人は首を切る」と得々と述べていたことです。不妊治療の保険診療化とか初診患者のオンライン診療の無条件の恒久化は、現実問題から言って無理だと思いますが、まさに上意下達です。小泉さんも安倍さんも、そんなピンポイントな言い方はしなかった。経済財政諮問会議等の委員会を使って指示をしていました。それすら飛び越えてしまってやるのは、ちょっと危ういと思いますよ。

医療の「アクセス」(公平)は大前提 「費用」と対立させない

― 新著で先生は、医療政策の3大目標(質・アクセス・費用)のトリレンマ説の妥当性について触れておられます。

二木 この言説は、「医療の質」、「医療へのアクセス」、「医療の費用」の3つはトレードオフの関係にあり同時に満たすことはできない(トリレンマ)というもので、日本の医療政策の研究者や関係者の間で自明のことと思われています。しかし世界の文献を調べてみたところ、明確な根拠を示した文献はどこにもないのです。「詠み人知らず」の俗説、都市伝説です(笑)。

日本を含めて国民皆保険制度あるいはそれに類する公的制度がある高所得国では、少なくとも医療の基本は平等・公平に受けられる(アクセス)という点は常識、大前提です。そのうえで、政策選択として医療の質と費用とのバランスをどうするかという議論になります。大前提であるアクセスまでも同列に3つの目標として論じて、医療費と対立させることはできないのです。日本の医療政策の歴史を分析してもそんな発想はありません。

しかも、目標が3つというのはちょっと古くて、たとえばOECDは「エンパワメント」を加えて、患者の権利・役割の強化を強調しています。

トリレンマ説は、国民皆保険制度をいまだに持たないアメリカのローカルな仮説だと私は考えています。

「医療の質」患者の価値観・期待も重視して

― 医療の質に関して、先生は「アウトカム」(結果)評価の一辺倒ではなく「プロセス」(過程)評価の重視を主張されています。

二木 リハビリテーションをはじめとして診療報酬にアウトカム評価が入ってきており、良くなる可能性の低いお年寄りは受けないといったことが起こりかねないと問題になっています。アウトカムは大事ですが、プロセスの評価も同格で重視して扱うべきです。加えて、「アウトカム」=「客観的指標」という誤解があります。

すでに1980年、つまり30年前にミシガン大学のドナベディアン(1919~2000)は、「アウトカム」と「プロセス」(過程:実際に行われた診療や看護の内容)、「ストラクチャー」(構造:施設、医療機器、スタッフ等)の3つを、同格で扱うよう提唱しています。また、アウトカム評価には健康上の結果(客観的側面)だけでなく、患者満足度と医療従事者満足度(主観的側面)も含めるとしており、今ではこれは国際標準になっています。厚生労働省もEBM(Evidence-Based Medicine)について、「利用可能な最善の科学的な根拠、患者の価値観および期待、臨床的な専門技能の3要素を統合するもの」と定義しています。これはまともな説明であり、今後の医療の質にかかる診療報酬改革においても重要な考え方になると思います。

― 1年半ぶりの時論集となる新著を拝読させていただき大変勉強になりました。

二木 『文化連情報』で「医療時評」を連載開始したのが2004年の10月号からで、11月号で185回目となります。新著に収録した24論文のうち17論文が『文化連情報』初出です。「医療時評」を中心とした時論集は今度で9冊目となり、これだけたくさん本が出せたのは、貴誌の連載のおかげだと感謝しています。今後もよろしくお願いします。

― こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。本日は長時間にわたりありがとうございました。

(聞き手=文化連代表理事理事長・東公敏/2020年9月26日)

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5.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(通算177回)(2020年分その9:8論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○医療と経済成長の将来:[論争と]代替的見通しの探究
Hensher M, et al: Health care and future of economic growth: Exploring alternative perspective. Health Economics, Policy and Law 15(4):419-439,2020[理論研究]

国内総生産(GDP)と医療費との強い正の関係は医療経済学でもっとも広範に探究されているテーマの1つである。2008年の世界金融危機後、世界経済の回復の遅さの説明を試みた様々な理論が、将来の経済成長は過去よりも低くなると予測している。他方、GDPの増加が長期的に望ましく持続可能であるかについて疑問を呈する研究が増えている。その理由は、人類の自然環境破壊に対するエビデンスが増えているからである。

本研究は、世界のGDPと医療費データの最近の趨勢をレビューする。まず、世界のGDPの増加見通しについてのいくつかの理論とシナリオを検討する。次に、このようなシナリオが医療制度と医療財政にあたえる潜在的含意を考える。どの分析でも、中心になる問いはGDPの増加及び・又は医療費の増加は実際に人々の健康と安寧(well-being)を改善するかである。医療費の増加率が低いまたは「成長後」の将来における医療制度は、過剰治療や価値の低い医療を減らし、環境への悪影響を減らし、技術的効率と配分的効率を改善することに、もっと焦点を当てる必要があるだろう。そのためには、医療産業(民間医療保険や製薬企業等)のレントシーキング(超過利潤追求)行動を減らすための協同した政策や規制行動が必要になるだろう。

二木コメント-本論文は世界でコロナ危機が生じる前の2019年に執筆された論文ですが、コロナ危機後の経済と医療費の低~マイナス成長時代を見通した重要な問題提起を含んでいます。今後は、医療者にも、行政にも、「過剰治療や価値の低い医療を減ら」すことが今まで以上に求められるようになると思います。なお、本論文の執筆者(4人)は全員オーストラリアの大学所属です。

本論文を読んで、私の恩師の故川上武先生は大著『技術進歩と医療費-医療経済論』(勁草書房,1986)で、「医療経済学の分野でも、医療の質低下をきたさない医療資源の効率的活用の探究が、緊急な現代的課題となっている」(まえがき)として、第6章「技術進歩か"乱診乱療"か」で、「過剰診療の技術論的検討」を行ったことを思い出しました。

○日本の男性に対して実施された肥満と新血管系リスクに対する介入[特定保健指導]と健康アウトカムとの関連
Association of the National Health Guidance Intervention for obesity and cardiovascular risks with health outcomes among Japanese Men. Fukuma S(福間真悟), IIizuka T, Ikenoue T, Tsugawa Y.(津川友介)JAMA Internal Medicine.October5,2020
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2771507
(ウェブ上に公開)[量的研究]

肥満と心血管系リスクは公衆衛生上の大きな問題になっている。しかし、肥満や心血管系危険因子に対するポピュレーションレベルの生活スタイル介入が当該人口の健康アウトカムと関連があるとのエビデンスは限られている。本研究の目的は日本における全国健康診査・特定保健指導と対象人口の健康アウトカムの関連を調査することである。本研究は回帰不連続デザインを用いたコホート研究であり、参加者は、日本で最大規模のある健康保険組合の被保険者で、2013年4月~2018年3月の5年間、特定健康診査(メタボ健診)に参加した40-74歳の男性である。彼らは毎年実施される特定健康診査で腹囲85㎝以上でかつ心血管系のリスク要因を1つ以上持つていた場合メタボリック症候群と判定され、特定保健指導(健康な生活スタイルへの助言と適切な臨床経過観察)を受けた。アウトカム指標は、肥満については体重、ボディマス指数(BMI)、腹囲の3つ、心血管系リスクについては血圧、ヘモグロビンA1c値、低比重リポたんぱく(LDL)コレステロール値の3つであり、スクリーニング後4年間測定した(最初のスクリーニングを含めると5年,5回測定)。

74,693人の男性(平均年齢52.1歳[標準偏差7.8歳、平均腹囲86.3㎝[9.0㎝])のうち、腹囲85~91㎝で特定保健指導に割り振られた群(介入群。19,818人)と、腹囲79~84㎝でそれを受けなかった群(対照群。19,343人)との1~4年後の各指標の差を調査した。両群は腹囲以外は有意の差がなかった。その結果、健康診査後1年目には、介入群の体重、BMI、腹囲は対照群に比べて小さかった:体重では調整済みの差-0.29kg(95%信頼区間-0.50~-0.08.p=0.005)。ただし、3指標とも差はごくわずかで、臨床的に意味のある差とは言えなかった。しかも特定保健指導の効果は年を経ると共に薄まり、スクリーニング後3,4年目には有意ではなくなっていた。収縮期血圧、拡張期血圧、ヘモグロビンA1c値、LDLコレステロール値については、健康診査後1~4年とも2群に有意の差はなかった。以上から、日本の生産年齢人口の男性では、特定保健指導は臨床的に意味のある体重減少やその他の心血管系リスク因子の減少とは関連していないと結論づけられる。今後さらに研究を行い、肥満と心血管系リスク因子を改善するのに効果があるライフスタイルへ介入の明確なデザインを把握することが推奨される。

二木コメント-ランダム化比較試験に準ずる厳密な統計手法(回帰不連続デザイン)を用いて、特定保健指導には健康増進の「臨床的に意味のある」効果がほとんどないことを実証した初めての研究です。本研究のアウトカム指標は、「最終アウトカム」(final outcome.死亡や疾病の発症等)ではなく、「中間アウトカム(intermediate outcome)」です。一般的には、中間アウトカムを用いると、介入効果が出やすいことが知られています。それを用いても「臨床的に意味のある」効果がなかったという結果は重く、特定健康診査・特定保健指導の廃止を含めた、抜本的見直しが必要と思います。この結果は、一部の企業で行われている、「健康診断を受診しない職員はその上司も含めてボーナスをカットするという取り組み」(江崎禎英『社会は変えられる』国書刊行会,2018,193頁)がいかにエビデンスを欠いた乱暴なものであるかを示しています。

補足:次の日本語論文も、本論文とほぼ同じ結果を得ています。

○関沢洋一・他「特定保健指導の積極的支援の対象となることはある健康保険組合の組合員の循環器疾患リスクの減少につながったか?:回帰分断デザイン(RDD)による検証」『医療経済研究』32(1):44-60,2020年10月。[量的研究]

ある健康保険組合の組合員1318名を2013~2015年に調査。上記論文は指標として腹囲を用いていたが、本論文はBMIを用い、上記論文と同じ「回帰分断デザイン(回帰不連続デザイン)」により、3年間のアウトカム指標(「中間アウトカム」)を比較した結果、「2014年のHDLコレステロールを除いて、いずれのアウトカム指標においても積極的支援の不対象者と対象者との間で有意差はなく、積極的支援の対象者となることの効果があるとは言えなかった」。

○不健康な行動を予防するための経済的インセンティブの使用:文献レビュー
de Walque D: The use of financial incentives to prevent unhealthy behaviors: A review. Social Science & Medicine 261:113236 (13 pages),2020[文献レビュー]

人々の健康のリスクとなる行動は広く見られ、しかもその一部は増加している。それらの行動の一部は課税により禁じるか、予防可能である。他面、条件付き現金給付などの経済的インセンティブによりHIV/AIDS、違法薬物、飲酒、喫煙、肥満等の行動を抑止する提案も増え、検証されるようになっている。本論文は、価格と所得効果とナッジ効果との関係を区別しつつ、そのようなインセンティブを用いることの理論的正当性を示す。望ましくない行動を抑制するための経済的インセンティブの効果を検証した文献は増加しつつあり、それらを危険な行動のタイプ別にレビューする。最後に、本論文はそのようなインセンティブの長期的な持続可能性を議論する。このことは経済的インセンティブを小規模なパイロット・プログラムや研究プロジェクトの枠を超えて拡大するための鍵となる。

経済的インセンティブが、プログラム中止後もインパクトを持ち続けるか否かについての現在のエビデンスはまちまちである。容易にモニターし課税できる行動、喫煙や飲酒や合法薬物では、課税は正の経済的インセンティブよりも効率的かつ持続可能であるが、報償(rewards)は若者の不健康な行動を防ぐためにもっと検証されるべきである。正の報償はモニターが難しく、そのために課税が難しい行動(HIV予防のための安全なセットクス等)に対しては有効であるかもしれない。しかし、肥満予防の経済的インセンティブは、持続的な体重減少をもたらすことに、概して失敗している。一部のデザイン、例えば参加者自身のお金を抵当にするくじ引きやコミットメント・デバイスは、貯蓄を促すと共に効果を増し、その結果持続可能性を改善するかもしれない。

二木コメント-世界銀行の研究者によるレビュー論文ですが、理論的検討が中心で、しかも最後の一文を含めて「希望的観測」が多く、レビュー論文としての質は低いと思います。このレビューでも経済的インセンティブの肥満予防効果には否定的です(the evidence regarding efficacy is more mixed)。

○飲酒、喫煙、違法薬物および問題が多いギャンブル依存症を対象にした公衆衛生上の介入についての経済評価の体系的文献レビュー:ケーススタディを用いて[スウェーデンへの]移転可能性を評価する
Nystrand C, et al: A systematic review of economic evaluations of public health interventions targeting alcohol, tobacco, illicit drug use and problematic gambling: Using a case study to assess transferability. Health Policy
https://doi.org/10.1016/j.healthopol.2020.09.002 [文献レビュー]

本論文の目的は、飲酒、違法薬物、喫煙、及びギャンブル依存症(以下、ANDTS)を対象にした公衆衛生上の介入の費用対効果を同定し、評価し、評価の結果がスウェーデンへの移転可能性を検討することである。2000年1月~2018年11月に発表されたANDTS領域の経済的評価の体系的文献レビューを、Medline, PsychINFO, Web of Science等を用いて行った。関連する文献の質と移転可能性を、スウェーデン医療技術評価庁が設定した基準を用いて評価した。

54論文のうち、39論文が中等度から高度の質であると評価し、本レビューに含めた(高度の質と評価したのは4論文のみ)。ただし、ギャンブル依存症についての論文はなかった。合計91の介入のうち81が費用効果的(cost-effective)であった【二木コメント参照】。介入は主として課税ベースの政策か、スクリーニングと短期間の介入であった。13論文(全体の約3分の1)はスウェーデンへの移転可能性が高いと評価された。以上から、飲酒、違法薬物、および喫煙を対象にした介入は費用効果的であり、スウェーデンに移転可能性があると結論づけられる。ただし、これらの研究の費用の推計とエビデンスの質に注意を払う必要がある。

二木コメント-スウェーデンへの移転可能性に焦点を当てた、公衆衛生上の介入の経済評価についての珍しい文献レビューです。最後の1文が意味深長です。21頁のうち12頁がレビューした文献の詳細な一覧表であり、この分野の研究者には有用と思います。ただし、この表の右端の各論文の「所見の要旨」を読むと、上記要旨の「合計91の介入のうち81が費用効果的であった」は、各論文「執筆者の結論」の単純集計であり、レビュアーが統一基準で独自に評価したものではありません。しかも「費用効果的」の判断基準は論文執筆者によってバラバラで、実際に総費用が減少したものは少なく、多くはICER(増分費用効果比。QALYまたはDALY1年延長当たりの追加的費用増加)がプラスです。このことは「費用対果的」と評価された介入の多くが、健康増進効果と費用増加の両方をもたらすことを意味します。以上のことは、なぜか、本論文の「結果」にも「考察」にも書かれていません。

○[フィンランドにおける2型糖尿病患者と冠動脈疾患患者に対する]電話による健康指導[のランダム化]試験実施後8年間の[累積]医療・長期ケア費用の追跡
Mustonen E, et al: Eight-year post-trial follow-up of health care and long-term care costs of tele-based health coaching. Health Services Research 55(2):211-217,2020[量的研究]

本研究の目的は、2型糖尿病患者と冠動脈疾患患者に対する電話による健康指導の医療・長期ケア費用に対する効果を評価することである。ランダム化比較試験のデータを、フィンランド国民医療・社会的ケア登録と電子的医療記録にリンクした。45歳以上で上記2疾患のいずれかを持つ1535人(平均年齢64歳)をランダムに介入群(n=1034)と対照群(n=501)に分けた。介入群は毎月1回、電話で、以下の8種類の健康指導を12か月間受けた:①支援を求めるノウハウと時期、②病気について学びゴールを設定する、③正しく服薬する、④受けるべき検査とサービスの助言を得る、⑤病気をうまくコントロールするように行動する、⑥ライフスタイルを変えリスクを減らす、⑦体力を養い障害を乗り越える(build on strengths and overcome obstacles)、⑧専門医の定期診察の予約をする。介入群も対照群も通常の医療と長期ケアを受けた。8年間で、介入群の26%、非介入群の28%が死亡した。

治療意図解析(intention-to-treat analysis)の結果、8年間の1人当たり累積医療・長期ケア費用は介入群では対照群に比べて、1248ユーロ(3%。CI:-6347~2217)低かったが、統計的に有意の差ではなかった。2型糖尿病患者と冠動脈疾患患者別に解析しても、有意の差はなかった。以上から、2型糖尿病患者と冠動脈疾患患者の8年間の追跡調査では、健康指導は医療・長期ケア費用に有意な効果がなかったと結論づけられる。

二木コメント-フィンランドらしい息の長い追跡調査で、電話による1年間の濃密な健康指導を行っても、8年間の累積死亡率と累積医療・長期ケア費用は減らないことを明らかにしています。本研究では介入群の費用に介入費用(電話による1年間の保健指導の費用)を含めておらず、これを含めた総費用は介入群の方が高くなる可能性があります。

○デジタル・セルフケアは諸刃の剣:北ドイツの医師の視点から
Fiske A, et al: The double-edged sword of digital self-care: Physician perspectives from Northern Germany. Social Science & Medicine 260:113174 (10 pages),2020[質的研究]

患者は、デジタル・セルフケアを実践することで、自身のケアを積極的に行うようますます期待されるようになっている:データを作り、情報の意味を理解するのを助けてくれる人を探し、疾病予防の主役になることにより。スマートフォンやその他のツールを用いて、脳波から身体活動、食事など、自己の身体と生活の様々な側面のデータを集めることで、患者は生活習慣病(lifestyle diseases)を予防し、自身の医学的問題を診断することを期待されており、このことは医師・患者関係における全く新しいケアモデルの到来を意味する。本論文ではデジタル・セルフケアの実践にいかに出会い、理解し、それが医療制度に統合されるか(否か)についての、医師たちの見解を探究する。2018年に北ドイツの15人の医師に深層・半構造化面接を行い、彼らが診療の意思決定でデジタルデータをどのように含んでいるか、デジタル・ヘルスケアの実践をどのように理解しているか、およびこれらの実践が医師・患者関係にどのように影響していると見なしているかを調査した。

その結果、一方で、公共的メディアと学術論文においては、e患者のナラティブ(語り)とデジタルにエンパワーされた人々との間に著名な摩擦があることが分かった。他方、医師たちが日常診療でどのような経験をしているかも分かった。以上より、非専門家への医学の解放という技術志向のアイデアは異なる文脈を「適切に旅して」はおらず、逆に診療所の内外で不均等に取り上げられていると結論づけた。新しい技術を有意味で安全に応用するためには、デジタル・セルフケア実践が行われる際の個人的関係が中心的に重要であることに変わりはないが、このことは患者のエンパワーメントとデジタル技術についての論争でしばしば見逃されている。

二木コメント-タイトルは非常に魅力的だし、本文の最後の「結論」に書かれていることも示唆に富むのですが、要旨の英語表現はとにかく難解です。内容が凝縮されすぎているだけでなく、執筆者がドイツ人で英語表現が下手なためもあると思います。

○公衆衛生、医薬品及びその他の医療のアメリカの1990-2015年の平均寿命の変化に対する寄与
Buxbaum JD, et al: Contributions of public health, pharmaceuticals, and other medical care to US life expectancy changes, 1990-2015. Health Affairs 39(9):1546-1556,2020 [量的研究]

アメリカの平均寿命は1990~2015年の25年間に3.3年延長したが、この延長の原動力はよく理解されていない。人口動態データ(年齢・死因別の死亡者数)とcause-deletion analysis(一種の寄与分析)を用いて、平均余命の変化に最も影響のある死因を同定し、公衆衛生、医薬品、その他の(医薬品以外の)医療、及びその他/未知の要因の4つがこの変化にどの程度寄与しているかを数値化した。

その結果、平均寿命の変化に最も寄与している12大死因により、平均寿命の2.9年の純延長(平均寿命延長全体の85%)が説明できることを見いだした。寄与率がもっとも大きかったのは虚血性心疾患(の死亡減少。寄与率53%)で、逆に偶発的中毒または薬物過剰服用が平均寿命の短縮にもっとも影響していた(寄与率-9%)。平均寿命延長の44%は公衆衛生の寄与であり、35%は医薬品の、13%はそれ以外の医療の寄与であり、その他/未知の要因の寄与率は-7%であった。ただし、4要因の寄与率は死因により大きく異なり、例えば虚血性心疾患、脳血管疾患、乳がんでは医薬品の寄与率がそれぞれ52%、60%、60%であるのに対して、交通事故と殺人では公衆衛生の寄与率がそれぞれ90%、91%であった。以上の知見は、公衆衛生および医薬品イノベーションが平均寿命延長において決定的に重要であることを明らかにしている。

二木コメント-死因別の平均寿命変化の寄与率は厳密に計算されていますが、公衆衛生等4要因の寄与率の計算はきわめて恣意的です:「複合法(multiple approaches)」と称して、査読付き論文で示された疾患別の統計的モデル、独自に作成したモデル、医師の意見調査、さらには先行研究に基づいてもっともらしいと判断したこと等を雑多に組み合わせています。また、本論文では「公衆衛生」は他の3要因を除いたものと定義されており、それの寄与率は過大推計されていると思います。

なお、文献レビュー「心血管系疾患死亡率低下における予防対治療の[寄与率]割合:公衆衛生対臨床医学(Ford ES, et al: Proportion of the decline in cardiovascular mortality disease due to prevention versus treatment: Public health versus clinical care. In: The Annual Review of Public Health 32:5-22,2011)は、「諸研究を総合すると、リスクファクターの変化[公衆衛生の寄与]が冠動脈生疾患(CHD)死亡率低下の44~76%を、治療の変化が23~47%を説明できると言えるかもしれない。ただし、両者の寄与率は国によって異なっている」と総括していました(本「ニューズレター」101号(2012年10月)で紹介)。

○相関の分解[寄与率の計算]から解決策の構築への旋回:エビデンスに基づく指針で健康を規定する要因に取り組む
Frakt AB, et al: Pivoting from decomposing correlates to developing solutions: An evidence-base agenda to address drivers of Health. Health Services Research 55(5:Suppl 2):781-786,2020[評論]

健康は医療制度外の様々な要因に影響される。文化的、環境的、政治的および経済的条件-いわゆる「社会的(決定)要因」(social determinants)-が様々に健康に影響する(affect health)。いくつかの研究は、このことを健康に寄与する要因を分解して合計100%にすることで表現しようとしている。それらは、医療の寄与率は10-20%と推計し、人々の健康に対する医療の役割は、社会的要因よりも小さいとの信念を補強している。最もよく引用されるMcGinnis等(2002年)の推計では、個人行動40%、社会的状況(social circumstances)15%、環境5%、遺伝30%、医療10%とされている。しかしこのような分解(寄与率計算)は、見かけほど情報量が多くなく、有用でもなく、しかも誤った解釈がされやすい。本評論では、この方法の(ごくわずかの)強みと(多くの)限界を示す。

第1の限界は、寄与率計算では各要因間の相互作用を無視していることである。第2の限界-特に政策形成にとって問題なこと-は、この方法がどの要因が、政策介入によって変化するかについての情報を示さないことである。第3の限界は、寄与率計算が時代遅れのエビデンスにしばしば依存していることである。これら以外にも、一部の寄与率計算は死亡率のみに焦点を当てているという限界もある。以上の限界のために、寄与率計算は政策の有効なガイダンスにはなり得ない。今後は、各要因が健康にどの程度影響するかではなく、健康を増進するために、各要因が政策によってどの程度、どのような手段により変えられるかを知る必要がある。その答えを出すのはなんらかの介入であり、それの良質な評価である。

二木コメント-英文要旨はごく簡単なので、本文からだいぶ補足しました。私は、上述したBuxbaum等論文に限らず、健康に影響する要因の寄与率計算には以前から疑問を感じていました。この論文は寄与率計算の問題点を指摘し、それが政策形成には役立たないことを明快に説明しており、大いに納得しました。"driver"は「推進力」、「原動力」「牽引力」と訳されることが多いのですが、ここでは「(健康を規定する)要因」と訳しました。この論文は"drivers of health"という大特集(合計14論文)の1論文ですが、特集でも、この論文でも、"drivers of health"は"determinants of health"と同義で、用いられています。

【Social determinants of healthの定訳「健康の社会的決定要因」に対する疑問】

"Social determinants of health"(SDH)の定訳は「健康の社会的決定要因」とされています。しかし、determinantの動詞determineには「決定する」という強い意味だけでなく、「影響を与える」という弱い(?)意味もあります(『ランダムハウス英和大辞典[第2版]』他)。アメリカ政府のサイト(healthypeople.gov)も、"determinants of health"を以下のように説明しています:The range of personal, social, economic, and environmental factors that influence health status are known as determinants of health.(健康状態に影響を与える個人的、社会的、経済的、環境的要因は"Social determinants of health"と呼ばれる)。WHOはそのものズバリ、以下のように定義しています:The social determinants of health(SDH) are the non-medical factors that influence health outcomes.(SDHは健康アウトカムに影響する非医療的要因)。

私は以前から、「健康の社会的決定要因」という訳語は、健康の大半は社会的要因で決定されるとの誤解を与えるし、実際に社会構築主義者や公衆衛生学者の一部はそう主張していることに疑問を感じていました。そのような誤解を生まないために私は、SDHは「健康に影響する社会的要因」または「社会的要因」と訳す方が適切と思います。

私には、個人の生活習慣が病気の「決定的要因」だと連想させる「生活習慣病」という用語と、社会的要因が健康の「決定的要因」だと連想させる「健康の社会的決定要因」という訳語とは、ベクトルは逆でも、極端だという点で共通していると思います。

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6.私の好きな名言・警句の紹介(その192)-最近知った名言・警句

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